思ったことはすぐ実行―学ぶことを楽しむヒント

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「みんなの尼崎大学」の学生さんは専門分野もさまざま。自らの好奇心につきうごかされて、介護と保育、防災といくつもの分野をこえて尼崎で活躍する田井尚美さんにお話をうかがいました。


一番右が田井さん。

おじいちゃんおばあちゃんと子どもたちの第2の「家」をつくる


1階の居間でおやつの時間を楽しみます。

 お邪魔したのは塚口町にある「あゆみのいえ」。田井さんが2010年に開設したこの宅幼老所は、高齢者のデイサービスと幼児の保育所が一体となった珍しい施設で、お年寄りと子どもたちがともに時間を過ごす福祉施設として注目を集めています。子どもたちの歌声を聴きながら、おばあちゃんたちが手芸を楽しむ空間は、施設というより「家」と呼びたくなるような、なんだか懐かしい雰囲気です。どうしてこんな施設を作ろうと思ったのでしょう。

「元々訪問介護の事業所をしてたんですが、うちのスタッフが出産することになって、それなら育児も一緒にできたらいいなと思って。私の二人の妹が保育士と栄養士だったのもあって、宅幼老所のカタチがひらめいたんです」。早速長野県にあった施設を見学し、「これなら尼崎でもできる」と三姉妹で開業しました。


中央は下の妹の美加さん。

 施設は1階が高齢者のデイサービス、2階が保育所と分かれていますが、子どもたちとおばあちゃんたちは毎朝のあいさつに始まり、一緒に遊んだり、玄関までお見送りをしたりと、三世代家族が同居しているようなリズムで生活しています。「子どもたちから元気のエキスをもらってるせいかな、入所したときより元気になって、杖無しで歩けるようになったおばあちゃんもいるんですよ」と楽しそうに語る田井さん。自らのお困りごとをきっかけに、地域の誰かを助ける事業をはじめることになった、まさに社会起業家なのです。


もう一つの顔「防災士」としての取り組み


施設内で防災研修を実施しました。防災士のユニフォームも決まっています。

「思ったことはすぐ実行」がモットーという田井さん。東日本大震災をきっかけに22年前の阪神大震災の体験を思い出しました。「当時息子は6カ月。ミルクや水を探してぐちゃぐちゃになったまちを自転車で走り回って途方にくれました。あんな恐ろしい体験をしたのに、すっかりそのことを忘れてたんです。人間って慣れてしまうんやね」。

 スタッフや子どもたちのお母さんにも話を聞いてみる中で、防災意識の低さを痛感しました。「防災や避難所での過ごし方について少しでも知っていることで、実際の避難所生活でも心の余裕ができるはず」と防災についての勉強をはじめ、昨年(2015年)2月に「防災士」の資格を取得。さらに8月には、取ったばかりの資格を活かして「みんなのサマーセミナー」の教壇にも立ちました。授業のタイトルは「乳幼児とパパとママのための防災(地震編)」。田井さんならでの明るくわかりやすい語り口で、子育て世代や子どもたちに防災の大切さを伝えました。その後も防災士の活動のためNPO法人格を取得し、時には福島まで講演に行くこともあるそうです。


好奇心に突き動かされ、「学ぶこと」を楽しむ


子どもたちからは田井ちゃんと呼ばれています。

 「実はわたし今、本当に大学に通ってるんです」。さらに彼女の好奇心は止まらないようで、今年(2016年)の4月から神戸学院大学社会防災学科の聴講生となったそうです。「授業をただ聴くんじゃなくて、次に誰かに伝えなきゃと思って聴くと、頭への入り方が全然違うんですよ」という田井さん。先生と生徒の立場を行き来することで経験が深まるとのこと。

 さらに今年はみんなのサマーセミナーの実行委員会に参加し、「昔、会計事務所で働いていたから」と、誰もが嫌がる会計という大役を務めました。

 どうして新しいことに次々と取り組むことができるのでしょう。「もう居てもたってもいられなくなるんよね。それに、わたし学ぶことが大好きやねん。防災士の研修でも、サマセミでも、行ったら得るものが必ず一つはあるでしょ」と明るく答える田井さん。言葉だけを見ると優等生的だが、田井さんが言うと少しも堅苦しく聞こえないのが不思議です。

 誰もが彼女のように積極的にはいかなくても、「新しいことを知るのは楽しい」という単純な気持ちを育てることが「みんなの尼崎大学」的な学生生活を楽しむヒントなのかもしれません。