尼崎の下町と本場ジャマイカの空気をレゲエにのせて

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THUNDERさん(28)/(レゲエアーティスト)

You Tube再生80万回、「尼の唄」のあたたかさ


じゃ話そう 最初の記憶は高田町 文化住宅貧乏やたらと ガスに電気たまに止まったり

 「尼の唄」を聴いたことがあるでしょうか。レゲエアーティストのTHUNDER(トンダ)さんが2011年にリリース、翌12年にPV(プロモーションビデオ)を発表するとネットで大反響、今やYouTube再生80万回を超す尼崎賛歌。THUNDERさんが幼い頃から肌で感じ、目に焼き付けてきた下町の風景が、懐かしく、あたたかく、いとおしむように歌われます。

 「レゲエってもともと地元を大事にする音楽なんで、自然とできたんですよ。友達が喜んでくれるかなって。そしたら『これは絶対に有名になる曲や』『PV作らなあかんで』とみんなが応援して広めてくれて。僕もファーストアルバムを出して、ちょっと注目され始めた頃だったから、この曲がちょうどいい名刺代わりになりましたね」

中学生になった俺は 姉ちゃんの影響で音楽にほれた 夢中やった野球もやめた 勢いのまんま道も外れた

小3で潮江に移り、少年野球に熱中。その頃のことは、ダウンタウンや「山里ホルモン」の名前を交えて歌われます。音楽との出会いは中2。ヒップホップにはまってクラブに通いつめ、先輩にすすめられてラップの歌詞を書いたのをきっかけにライブに出るようになります。

 「はじめて人前でマイクを握ったのは14歳かな。大阪のアメリカ村のクラブでした。緊張で歌詞が全部飛びましたけどね(笑)。そのうち、当時一番盛り上がっていたレゲエにはまって、地元の尼崎で仲間とイベントやるようになって……」

My Town ここが尼崎 俺が育った町 この先も

 今も尼崎を拠点に活動するTHUNDERさんの生きてきたストーリーとリアルな思いが「尼の唄」には込められているのです。

「尼爆」でレゲエをもっと広めたい


 THUNDERさんは17歳の時、阪神尼崎駅近くのライブハウス「Deepa」で月1回のライブイベント「尼崎爆音化計画」、通称・尼爆を仲間と立ち上げます(※Deepaが閉店したため、現在は神戸の「太陽と虎」で開催)。尼爆が10周年を迎えた2016年、尼崎の森中央緑地を会場に年1回の「尼崎レゲエ祭」がスタート。今年も9月30日に行われます。

 「はじまりの森という芝生公園に大きなステージ組んで、阪神高速を走る車に届くぐらいの爆音で、すごく盛り上がりますよ。やってるこっちも気持ち良くてね。去年は1000人ぐらい来てくれたんですけど、もっともっと大きくして、1万人規模を目指したいなと」


今年夏、大阪城野外音楽堂で行われた日本最大級のレゲエイベント「HIGHEST MOUNTAIN 2017」にも出演

 尼爆の原点は、小田公民館にスピーカーや機材を運び込み、「友達とその友達が来るぐらいだった」という手づくりライブ。それが年々大きくなり、今では、日本のレゲエシーンを引っ張ってきた人気アーティストたち約20組を集めた野外イベントを開くまでになったのです。


 「とにかくレゲエを広めたいんですよね。他のジャンルが好きな一般の人にも。レゲエって幅が広いんですよ。激しくてかっこいい曲もあれば、ゆっくり気持ちいいミディアムもある。騒いだり笑ったりもできるし、じんわり感動することもある。いろんな年代の人が楽しめる音楽やと思うんです」

レゲエの国、ジャマイカには「昭和」がある


 レゲエはもともと、中南米の島国ジャマイカ生まれの音楽。それがラップなどと融合し、日本でもクラブカルチャーとして進化してきました。バンド演奏よりも、サウンドシステム(音響設備)を鳴らし、音楽に合わせてしゃべったり歌ったりするスタイルが主流です。入口はヒップホップだったTHUNDERさんは、なぜレゲエに魅せられたのでしょう。

 「ヒップホップはとにかくかっこよさを追求するんですけど、レゲエにはどこかあやしさがある。そのあやしさが楽しいし、かっこいいんですよね。ルーツに近い感じもする」


 本場の空気を感じたくてジャマイカへ定期的に通っているというTHUNDERさん。その印象をこんなふうに語ります。

 「すごい世界なんですよ。日本とは価値観が全然違う。家はボロいし、お金も無いけど、みんな楽しそうで、人と人が近くて、すごくあったかい。誰かの家の前にスピーカー持ってきて、どっかから引っ張ってきた電気で音を鳴らして、おじいちゃんもおばあちゃんも子どもも踊って歌って。日本で言えば盆踊りですね。それを毎週やってる。僕は平成元年生まれですけど、『昭和』って、あんな感じやったのかなあと」

 ジャマイカの空気を吸収し、現地の言葉でも楽曲制作をするアーティストは日本では数少ないといいます。その先頭にTHUNDERさんは立っているのです。

「尼の唄」を尼崎以外で歌わない理由


 「尼の唄」はTHUNDERさんの代表曲ですが、実は尼崎以外では歌わないのだそうです。ライブでリクエストされてもサビの部分をちょっと歌うだけ。「それぐらいでちょうどいい」と言います。

 「だって、ほかのまちの人はわからないでしょ。出屋敷、西難波、神田通り、金楽寺、下坂部の商店街……とか言っても、あの空気や風景はうまく伝わらない。その代わり、別の土地の歌詞に置き換えて歌ってくれと頼まれることがあって、沖縄とか熊本とか、これまで20カ所ぐらい替え歌にしましたね」

 尼崎とジャマイカ。日本語とレゲエ。「昭和」の懐かしさと最新のクラブカルチャー。さまざまなものを融合させて、THUNDERさんはこれからも尼崎から音楽を発信し続けます。











(プロフィール)

トンダ 奄美大島で5人兄妹の末っ子に生まれ、幼い頃に尼崎へ。中学卒業後、働きながら本格的に音楽活動をはじめ、2011年に「尼の唄」を収録した1stアルバム『雷音』を発表。日本のレゲエ界をリードする存在として注目され、これまで4枚のアルバムをリリース。全国各地で歌い続けている。「尼崎レゲエ祭2017」は9月30日14時~20時。前売り4,200円、当日5,200円。150枚限定ペアチケット7,000円。