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阪神尼崎の駅前、三和本通商店街、明倫橋…挙げればきりがないくらい、尼崎のまちがまるごと舞台になった映画『あまろっく』。“ご実家ムービー”と称される本作には、まさに監督・中村和宏さんが生まれ育った尼崎の原風景が散りばめられていました。2024年4月の公開を控え、自ら原案から企画までを手がけメガホンを取った作品に込めた思いを聞きました。
生まれ育ったまちを作品の舞台に
尾浜の団地で育った中村さん。名和小学校に通った少年時代、「深夜ラジオを聴いて夢中で投稿した、いわゆるハガキ職人でしたね。子どもの頃からテレビやラジオが大好きでした」と振り返ります。「昔は何でもありのまちだった」と懐かしむ記憶には、さまざまな友人や家族との風景があったようです。「今では住みたいまちランキングに選ばれていますが、決して気取らないところがいいですね」と言う通り、イメージが変化しても変わらないまちの情緒が映画では描かれています。
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劇中、リストラで失業し実家へと帰ってきた39歳の近松優子(江口のりこさん)を迎えてくれたのは、幼少時代と変わらない人懐こい尼崎の人々。町工場を営む父・竜太郎(笑福亭鶴瓶さん)が突然再婚相手に選んだ20歳の早希(中条あやみさん)との“めんどくさい”家族の共同生活から物語ははじまります。ところでどうして『あまろっく』というタイトルになったのでしょう。
![演技プランを主演の江口のりこさんに伝える中村さん](/archives/001/202403/9cc69b0cbb1be93b.png)
構想から6年。コロナ禍乗り越え制作へ
「2018年にあった台風では尼ロックのおかげで尼崎の被害は少なかったという記事を見たんです。尼ロック? それまで存在すら知りませんでしたが、調べてみると静かにまちを守るその姿が、僕も脚本家の西井さんも家族の父親像と重なりました。隠れた英雄的な」。中村さんはこの着想を得て、MBS企画の50周年作品に企画提案し採用されました。「でもキャストとスタッフを集めている段階でコロナ禍に。それでもあきらめず改稿を重ね足掛け6年、ようやく制作にこぎつけたんです」と中村さんはその苦労も楽しそうに振り返ります。
![町工場のシーンで鶴瓶さんと並ぶ中村さん](/archives/001/202403/73bb840f6068521e.png)
「人生に起こることは何でも楽しまな!」。劇中の能天気な父の口グセは、この映画で最も印象的なセリフの一つです。実はこの言葉、中村さん自身の阪神・淡路大震災の経験から生まれたセリフだといいます。子どもの頃から大好きだったテレビの世界。『男女7人夏物語』に憧れてドラマを作りたいと、専門学校を卒業後、MBS企画に入社して2年足らずで震災が起こりました。「情報番組のAD(アシスタント・ディレクター)として現地取材に駆り出されました。被災直後の神戸のまちでカメラを回していると胸ぐらつかまれたりもしましたね」
![実家の風景。左から江口のりこさん、笑福亭鶴瓶さん、中条あやみさん](/archives/001/202403/bc952c9a81a31e14.png)
テレビマンとしての集大成的作品に
それでも新米のテレビマンとして神戸で取材を続けていく中で、被災者の一人からその言葉がかけられました。「せっかく生き残ったんやから人生楽しまないといけない」。大切に温め続けてきたメッセージをこの作品で表現したのでした。
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メインの3人家族の脇を固めるキャストも、関西出身の豪華な顔ぶれ。テンポのよい会話と自然な関西弁で、みんな本当に尼崎で暮らしているんじゃないかと思わせる名演です。朝の連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』を最後に引退を表明していた名優・佐川満男さんも、中村さんが監督を務めるとあって出演を快諾してくれたといいます。
![多くのスタッフに囲まれる中村さんの撮影現場](/archives/001/202403/17e41c752bf355e0.png)
「佐川満男さんはペーペーの頃からずっとお世話になってきた大先輩。今回は僕の無理なお願いを聞いてもらい物語のキーマンを演じて頂きました。映像制作の現場に30年身を置かせてもらったおかげで、他のキャストやスタッフも集まってくれました。ほんまありがたいです」と、一人ひとりとのご縁を懐かしみながら教えてくれました。
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どこかで見たかもしれない尼崎の物語
水害、公害、震災…尼崎の歴史が背骨になったストーリーは「他のまちでは撮れなかった」と中村さんは言います。撮影場所を探すために生まれ育ったまちを久しぶりに歩き、映像のプロとして改めて尼崎を見つめ直すと、そこには飾らない魅力的な風景があふれていたのでした。
![主演の中条あやみさんと並んで商店街を歩く中村さん](/archives/001/202403/c9e8e264e0865d65.png)
「きれいな桜並木の向こうに町工場があったり、閑静な寺町の奥にタワーマンションが映り込んだり、どこまでも自然体。かっこつけてないから尼崎は住みやすんでしょうね」と中村さんが言う通り、この映画を観ると尼崎に暮らしていることがなんだか誇らしく感じます。
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取材の最後に中村さんの肩書きを確認すると「映画監督? そんなん照れくさくて自分でよう言わんわ」と笑います。仕事や結婚、家族のカタチなど込められた真面目なテーマをユーモアで包んで伝える本作は、情熱的なのに少しだけシャイな中村さんの印象に重なります。
地元の風景に釘付けになり、チャーミングな家族の会話に笑いながら物語がすすむうち、いつのまにか涙している不思議な映画『あまろっく』。尼崎で暮らす人にとって、どこかで見たかもしれない物語はぜひスクリーンで。
映画『あまろっく』
2024年4月12日(金)兵庫県先行公開。尼崎では塚口サンサン劇場、MOVIXあまがさきで上映。4月19日(金)からは全国公開。
出演:江口のりこ 中条あやみ / 笑福亭鶴瓶
松尾諭 中村ゆり 中林大樹 駿河太郎 高畑淳子(特別出演) 佐川満男
監督・原案・企画:中村和宏
脚本:西井史子
音楽:林ゆうき 山城ショウゴ
主題歌:「アルカセ」ユニコーン Sony Music Labels Inc./ Ki/oon Music
配給:ハピネットファントム・スタジオ
©2024映画「あまろっく」製作委員会
https://happinet-phantom.com/amalock/
![撮影場所の珈琲屋コロンビアのご夫婦と記念撮影](/archives/001/202403/8ea68a8167b142de.png)
![江口さんと中条さんが実家で話す風景](/archives/001/202403/8e8ade07dcf309d0.png)
![尼崎運河沿い、手をつないで歩く江口さんと中条さん](/archives/001/202403/4e4cd463f655915a.png)
![おでん屋台で会話する江口さんと駿河太郎さん](/archives/001/202403/212e2b04e5d1e83c.png)
![神戸の港で話す江口さんと中林大樹さん](/archives/001/202403/93f22381b9db920d.png)
![中条さんの頬をつねる鶴瓶さん](/archives/001/202403/eb93eea351e9730a.png)
(プロフィール)
なかむら・かずひろ
1973年尼崎市生まれ。梅花幼稚園、名和小学校に通い12歳までの少年時代を尼崎で過ごす。放送の専門学校を卒業後、株式会社MBS企画に入社。ドラマやドキュメンタリーなど数々のテレビ番組制作に携わる。2018年に監督を務めた映画『女子高生探偵あいちゃん』に次いで、本作は監督2作目となる。
映画のモデル(?)となった「尼ロック」についてはこちらから