「私」の体験や気づきが誰かの気づきや学びになる

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「特別な、珍しい、すごい」非日常ではなく、日常の一見ささやかに思えることにこそ、誰かにとっての気づきや学びが隠れています。そんな「私」の体験や気づきを、「私たち」のこととして共有する中原美智子さんにお話をうかがいました。


中原美智子さん 尼崎創業支援オフィス『アビーズ』にて。

自分の困った体験が出発点

中原さんは6歳未満の子どもを2人乗せできる普通自転車の開発・製品化をめざしながら、双子など多胎家庭が交流する機会づくりといった支援にも取り組む社会起業家です。『株式会社ふたごじてんしゃ』を立ち上げ、『みんなの尼崎大学』の経済学部と言える尼崎創業支援オフィス『アビーズ』に拠点を構えています。

きっかけは自身が双子のお母さんとして困った体験でした。「長男を子育てした経験があるのに、双子の子育ては戸惑うことばかり。日々の育児で疲れ果て、外に出かけるには更にパワーが必要なので家にひきこもるように。すると、イライラしたり鬱々としたり…なんで、私だけがという気持ちが募ってくるんです」。


中原さんは、気持ちを切り替えるために、2輪の子ども乗せ自転車で出かけましたが、バランスを崩して子どもを乗せたまま転倒してしまいました。それからは恐怖心がよぎり、気軽に自転車で公園や児童館、買い物に出かけられなくなったと言います。

「現在、販売されている子ども乗せ自転車は同じ体格の2人を乗せるとバランスを崩しやすい。また幼児用座席は年齢と体重の制限があるため、2人が4歳以上になると乗せられなくなるんです」。そこで、「双子用ベビーカーがあるのだから、自転車もあるのでは?」と探しますが、日本の交通事情に合わない海外製か個人の改造自転車しか見つかりませんでした。

個人の気づきが、みんなの発見に



手軽な移動手段である自転車が使えないのはおでかけする自由を奪ってしまいます。ただでさえ、出かけるのが億劫になる多胎家庭。ますます引きこもって、外とのつながりがなくなってしまうのでは?

中原さんには自分と同じようにつらい気持ちを抱えている人たちの顔が見えたから、「ないのなら、つくろう!」と個人で双子用自転車の開発・製品化に向けて動き出しました。

すると、中原さんのもとには自転車を待ち望む声とともに、多胎家庭ならではの悩みが届くようになります。メーカーに問い合わせても「需要がない」と断られてきましたが、双子用自転車の開発を通して、これまで表には出てこなかった悩みやニーズが明らかになったのです。

日常に生きる機会づくりを


ふたごじてんしゃ試作1号機。

メーカーとの共同開発が決まってから、中原さんは交流の機会づくりに力を注ぎ始めます。オフ会では自転車を見てもらうとともに、「多胎家庭」「ふたごじてんしゃに関心あり」という共通点を持つお母さんお父さんが出会う機会になればと考えたそうです。

それぞれが話しかけやすいように、月齢がわかるマークを付けたり、1人でいる人に声をかけてつなぐスタッフを配置したり、マザーズコーチングや自然遊びなどのワークショップを実施したり、工夫を凝らしました。

「『出かけるのは大変だけど、同じように双子を育てているお母さんお父さんが集まるんだったら頑張ってみよう』と思ってもらえたら。オフ会をきっかけに、ご近所で友だちになって『病気になったら買い物を手伝うね』なんて言ってるのを聞くと嬉しいですね」。日常につながる関係性が生まれています。

想いを共有できる人たちとつながって


多胎家庭のオフ会での集合写真。

『みんなの尼崎大学』オープンキャンパスをきっかけに、尼崎市三和本通商店街とのコラボイベントが実現するなど、想いを共有できる人たちとつながって、まわりに気づきや学びを広げ続けています。

今後は『ものづくり女子会』も立ち上げる予定とのこと。「自転車の開発・製品化の経験やノウハウを活かして、ものづくりをしたい人たちのサポートができれば」と中原さん。

特別なことでなくていい。「私」の体験や気づきそのものが、誰かにとっての気づきや学び、仲間づくりにつながる…そんなことを中原さんから教わりました。