商店街イベントへの潜入レポート、コロッケが美味しいお肉屋さんの閉店情報、地元の高校球児へのインタビューなど、扱う記事はすべて尼崎ネタ。2017年6月に突如あらわれた地域情報サイト「尼崎旅〜あまたび〜」って、一体どんな人がつくっているのでしょうか。気になって「中の人」たちに会いに行きました。インタビューを受けるなら、と指定してきた場所は尼崎市立常陽中学校。メンバー3人の母校でお話を聞かせてもらいました。
僕らの共通点は「尼」。どうせなら楽しいことを。
今年30 歳、いわゆるアラサー男子3人組は中学時代から気の合う友人同士だったそう。「高校は別々、大学や専門学校に入ってからもなぜかよく会ってましたね。就職してからはさらに頻繁に集まるようになり、酒飲みながら中学時代のアホみたいな話ばっかりしていました」というのは代表のガシさん。「でも、せっかくなら気の合う仲間と何か楽しいことができないかと思い、僕らの共通点を探したら『尼』やったんです」。個人でウェブ制作の仕事をしながら、そんな仲間たちとあまたびを立ち上げました。
「うちのオカンなんか家を聞かれたら「西宮北口の方です」とかゆうてますけど、尼崎のことをもっと胸張って自慢してほしいですしね」と副代表のレオさんは言います。昼は建設会社で働きながら、出勤前の早朝や休日を使って街の取材に走り回ります。
「会社に内緒だから」とキリンのマスクをかぶっているもう1人のメンバー、ゆーきさんは言います。「僕の友達とガシの友達が知り合いだったりってことは結構ありますね。尼崎の地元ってみんなつながってるんですよ」。なるほど、たしかにサイトにはそんな地元感があふれています。
放課後の延長でまちの声を伝える
3人で決めたルールがあります。月30本の記事を投稿すること。誰に頼まれたわけでもないのに、彼らは自らに課したノルマをこの1年間こなしてきました。まるで部活みたいですね、とたずねると「放課後が今も続いているんですよ」と笑うゆーきさん。
「本業も忙しいのに、たまに何やってんねんやろって思いますよ。でも続いているのは、やってて面白いから」というガシさん。このサイトづくりを通じて子どもの頃から見てきた風景が変わりました。「昔からあった駄菓子屋とか話を聞いたら面白いんですよ」。取材は基本アポなし。新装開店準備中のラーメン店の店主にガシさんが突撃取材した記事は、多くの人に読まれネット上で拡散されました。こうして、飾らないまちの声を伝えていくことの楽しさを知ったのでした。
味を語らないグルメ記事
飲食店の記事も多いのですが、その紹介方法は独特。「最近食べたうどんで一番うまかった」「こりこり、プニプニ」など、よく分からないけど何か伝わるものがあります。「星やランキングをつけるサイトとは違うので、お店の人と話したことを書いたりします」というゆーきさん。さらにレオさんは「美味しいって難しいんですよ」と言います。「味のことはよくわからないのでせめて食感だけでも」と書かれた原稿は、まるで友達から届いたメールのようでクセになるのです。
尼崎の人が読みたい記事を書くために
開設から1年。気になるのは読者からの反応です。「職場には内緒なんですが、たまたま同僚が会社のパソコンで『あまたび』の僕の記事見てたんです。思わず、それ書いたん俺って言いそうになりましたよ」というゆーきさん。取材に行くと「あまたびさんが来てくれた」と歓迎されるなど確実に手応えを感じています。
開設当初、レオさんには目標があったそうです。「3年以内にテレビとラジオに出る。あと尼崎市役所に発見されたい。今日の(尼ノ國の)取材ですべてが叶いました」というように、ベイコムとエフエムあまがさきの番組にも月1レギュラーとして出演しています。
ページビュー(閲覧数)を着実に上げるための努力も惜しみません。尼崎という単語と一緒に検索されているキーワードを分析し、記事に反映させるといった緻密なサイト運営で、「あまたび」を育ててきました。どんな記事がよく読まれるか、3人で作戦を練ってきました。「昔はしょうもない話しかしてなかったのに、今は集まるとあまたびの話しかしませんね」と話すガシさん。友達だった3人の関係がいつのまにか“仲間”へと変わっていたのでした。
取材を通じてまちの人を元気にしたい。
ガシさんにとって大切な記事があります。2016 年に甲子園に出場した市立尼崎高校野球部。2017年夏の兵庫県予選大会目前に、同校野球部OBでもあったガシさんは「県大会の優勝投手はどんなことを考えていたのか。甲子園のマウンドの感触などを後輩に伝えたい」と思い、すでに卒業して佛教大学へと進学していた平林弘人投手へインタビューしました。
他のどんなメディアでも読むことができない、元高校球児のリアルな声は、市立尼崎高校の現役球児たちに届けられたのでした。尼崎で暮らす“おとなりさん”の話を丁寧に紡ぐ3人。「ローカルメディアだからこそできる取材があるし、記事でまちの人を元気づけたい」という代表の言葉に、あまたびのコンセプトが詰まっていたのでした。
※「尼崎旅~あまたび~(https://ama-tabi.com/)」サイトの運営は、2023年4月11日をもって終了されましたので、ご了承願います。