尼崎から世界へ!尼崎初のスカッシュ専用施設の誕生秘話

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写真、スカッシュコート内で撮影に応じる山本さん
山本博之さん(55)/経営者

 阪神杭瀬駅から国道二号線沿いに徒歩5分、真っ黒でスタイリッシュな四角い大きな建物があります。この建物は、尼崎初のスカッシュ専用施設「AIM Squash Court RITAndAIM」、通称リタンダイムです。

 2023年8月にオープンした当施設は、2028年ロサンゼルスオリンピックで初採用となるスカッシュの専用コート。尼崎のみならず、遠方からも競技者が来るなど、全国的に注目を集めています。

 当施設を経営するのは、生まれも育ちも尼崎の山本博之さん。何度も引越しはするものの、ずっと市内に暮らし続けていると話す、生粋の尼っ子山本さんに、スカッシュ専用施設を立ち上げるまでの経緯についてお話しをうかがいました。

試合に負けた悔しさからスカッシュに打ち込むように


写真、リタンダイムで取材を受ける山本さん

 スカッシュとは、イギリス発祥のインドアラケットスポーツです。2人の選手が四方を壁に囲まれたコート内でラケットを使ってボールを交互に打ち合い、得点を競います。室内なので日焼けせず、消費カロリーも高い。使用するラケットも軽く、扱いやすいため女性からの人気も高まっています。山本さんが最初にスカッシュを始めたのも、運動不足を解消するためだったそうです。

 「最初にスカッシュを始めたのは、ダイエット目的です。当時は、100キロ近い体重で。これはそろそろまずいな、と思って近くのスポーツクラブでやっていたスカッシュを始めようと。始めた当初は、同じレッスンに通っていた75歳くらいのおじいちゃんおばあちゃんに優しく教えてもらいながらスカッシュを習っていました」

 体を引き締めるために始めたスカッシュ。尼崎らしい「おせっかい」を受けながらレッスンに通い始めた山本さんですが、半年後に出場した新人戦を機にさらにのめり込むことになります。

 「最初の試合は、初めて間もないですし、すぐに負けてしまったんです。若い20代の子と対戦したんですが、それでもやっぱり悔しくて。そこから試合で動ける体になろうと決心して、数か月で25キロくらい痩せました」

コロナでスポーツクラブが閉館。施設がないなら自分で作る


リタンダイムで無料レンタルできるラケット

 そんなスカッシュにハマった山本さんに、思いがけないニュースが飛び込んできます。山本さんが通っていた、尼崎で唯一スカッシュのレッスンがあった施設が2021年5月、閉鎖することになってしまったのです。

 「閉鎖のニュースを2月に聞いて、しばらくはただ残念だな、としか思っていませんでした。コロナで思うように通常営業ができないなか、経営が厳しいのはなんとなくわかっていましたし…」

 しかし、時間が経つにつれ、「ないなら、自分でスカッシュコートを作ればいいのでは?」との考えが山本さんの頭の中を巡ります。当時の心境の変化を山本さんは「なんとなく、いけるんちゃうか?」と思ったと振り返ります。

 「頭の中でスカッシュコートを経営するには?ってお金の計算をしていたんです。もともと武庫之荘でダンススタジオの経営を10年以上していましたから、子どもの集客については少し自信がありました。いける!と思ってからは、銀行に相談に行って、事業計画を立てて。そこから本格的にスカッシュコート計画に着手し始めました」

杭瀬で見つけた理想の土地


写真、二号線からみたAIM Squash Court RITAndAIMの外観

 スカッシュコートの事業計画がたった山本さんは、次は肝心の施設の場所選びへ移ります。

 構想当初は、武庫之荘のダンススタジオとの併設も考えましたが、建築コストの問題で断念。武庫之荘で他の土地を探してみても、住宅街のなかで、スポーツ施設を作れるような広さの土地は見当たりませんでした。そこで探す場所を変えてみると、杭瀬にちょうど良い条件の土地が見つかります。

 「国道二号線が目の前にあって、駅からも近い。面積的にもなんとかぎりぎり二面コートが作れそうな広さで、ここしかないと今の土地に決めました。やっぱりスカッシュ専用コートを作るからには、練習だけでなく大会もちゃんと開催できる場所にしたいと思っていました。民間で建てたスカッシュコートの中で、二面コートがあるものは珍しい。設計段階では、業者さんから二面にできるか五分五分と言われていましたが、土地をめいっぱい使って、なんとか二面コートのスカッシュ場ができたんです」

誰もがスカッシュを楽しめることを最優先に


施設内ではTシャツやラケットなどのグッズも販売している

 そしてついに尼崎初のスカッシュコート専用施設「AIM Squash Court RITAndAIM」が、2023年8月11日にオープンしました。

 名前の「RITAndAIM(リタンダイム)」には、本を読んでいてなんとなく頭に残っていた「利他」と社名を組み合わせた造語。山本さん曰く「最初は違和感あったけど、徐々にええ感じに聞こえていくようになった」といいます。

 オープンから約1年。会員も着実に増え、子どもからおじいちゃんおばあちゃんまで、年齢層や競技レベルに縛られず、和気あいあいとスカッシュを楽しんでいます。山本さんのこだわりは、全体価格を安くしていること。ビジター利用も2,200円と安くし、ラケットやボールのレンタルも無料です。初心者の人にとって少しでもスカッシュのハードルを低く、まずは楽しんでくれたら、と山本さんはいいます。

 「スカッシュのスキルを磨くのはもちろんですが、個人的にはそれだけを目的にするような場所にはしたくなかったんです。初めてスカッシュに触れる人も、競技として打ち込む人も関係なく、会員さん同士が楽しく、立場関係なく入れるようなところを目指しました。今どきのスポーツ施設にしては珍しくビールサーバーも置いちゃったりして」

 聞くと会員の中には、施設での懇親会や大会打ち上げの二次会で、いつの間にかコートに集まってくる人もいるのだとか。山本さんの描く、スカッシュでつながる人の輪は確実に尼崎に、杭瀬に根付き始めています。

尼崎から世界へ


写真、リタンダイムで取材を受ける山本さん

 現在日本では、スカッシュの世界ランク上位の選手も出てきています。2028年ロサンゼルス大会のオリンピック競技に追加されたことで、今後ますます選手人口やスカッシュを習う子どもが増える可能性もあります。

 これまでも、リタンダイムでは現役世界ランカーの選手を招き、特別レッスンを開催してきました。子どもたちが成長しやすい環境の整備について山本さんは「将来的には世界的な選手を育てられたら」と話します。

 「少し前までは、大会といっても社会人から始めた人も上位進出していましたが、今は違います。スカッシュの盛んな関東では、小さい時からスカッシュを練習していた子たちが大きくなり、大会でも上位を占めるようになってきました。リタンダイムでもジュニアのレッスンをやっていますから、尼崎から日本を代表するような選手が出てきてもらえたら嬉しいですね」

 オリンピックの金メダリストが尼崎に凱旋する。リタンダイムを中心に、尼崎がスカッシュの聖地になる日はそう遠くないかもしれません。


写真、2階の観覧席からみたスカッシュコート

写真、リタンダイム内のスカッシュコートの様子

写真、リタンダイムでアシスタントコーチを務める松岡哲平選手(写真左)

写真、スカッシュコートでラリーを打つ松岡選手。

写真、リタンダイムで取材を受ける山本さん

写真、スカッシュコートでラリーを打つ松岡選手。

(プロフィール)
やまもと・ひろゆき 尼崎市出身・在住。2003年にIT会社を立ち上げたのち、2012年には武庫之荘でダンススタジオをオープン。その後、ダイエットがきっかけで尼崎市内のスポーツクラブでスカッシュを始め、大会出場を機に本格的に競技に打ち込むように。2023年8月に杭瀬に「AIM Squash Court RITAndAIM」をオープンした。