半径 (R) 風間天心 作品レポート③

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尼崎信用金庫と阪神電鉄が、阪神尼崎駅南側の寺町・開明町かいわいを拠点に、「てらまちプロジェクト」として、2017年から地域活性化プロジェクトを実施されています。

同プロジェクトも協力する「半径(R)」というアーティストが主体となったプロジェクトがスタートしており、3名の参加アーティスト(風間天心さん、久村卓さん、前田真治さん)のうち、久村卓さんの作品(前回レポートへのリンク)に続き、風間天心さんの作品があまがさき観光案内所に設置されました!
風間さんより、作品展示に関するレポートが届きましたのでご紹介します。
(作者の創作意図を尊重し、活動や作品の内容・表現は原文をそのまま掲載しています)

作品概要

未だ喫煙者の多い町でありながら、それに呼応して様々なポイントに置かれた灰皿に「尼崎特有の有機的な文化形成」を感じ、「灰皿と吸殻」に焦点を絞った独自の「観光マップ」を制作しました。そして、その制作過程で尼崎をモチーフにした「絵画」が一枚生まれました。

作品紹介

(1)
阪神尼崎駅 周辺喫煙MAP Ver.1|2024 年|両面カラー印刷 (A3サイズ)





このマップは「行政・観光客・市民」の3者に、段階的に活用してもらいたい作品です。まず、「灰皿と吸殻」の位置を調査したリサーチ結果は、行政が街の喫煙環境を把握し整備するために役立つものと考えました。観光客の方にとっては、新たな視点で尼崎を散策してもらうためのツールになり、喫煙できる場所を探す手助けにもなります。そして、尼崎市民がこのマップを見ることで、改めて路上の吸殻に対して意識的になる機会を生み、場合によっては「非公式の喫煙所、灰皿」が新たに設置されるかもしれません。作品タイトルに「バージョン1」と題している理由は、喫煙に対する市民の意識変化が起こることを踏まえ、もう一度リサーチを実施することを想定しています。

とにかく、これまでにない一風変わった観光マップを制作したいと思ったことが今作品の制作動機です。観光客の方だけでなく、尼崎市民の方々にもこのマップを見ながら「新たな視点」で街歩きを楽しんでもらえたら幸いです。そして機会があれば、別のトピックでもオリジナルマップを制作してみたいと考えています。

(2)
golden overlook map from the sky(尼中尼外図)|2024 年|キャンバスにアクリル絵具、ホログラムシート



マップを制作する中で、副産物として生まれた絵画です。尼崎の歴史を踏まえながらも、変わりゆく多様な文化を感じてもらうため、あえて新しい素材を用いた「✳大和絵」風に仕上げました。数百年前の大和絵を見ることで当時の生活や文化が感じとれるように、数百年後の人々に「2024年の尼崎の姿」を伝えられたら幸いです。

※「大和(やまと)絵」
中国風の絵画に対して、平安時代以来発達した日本風の絵画のこと。雲のように見える「すやり霞」という表現は、特有の余白的効果として用いられ、京都の景観を描いた「洛中洛外図」にも見られる

作品コメント

旅行先で手に取る「観光マップ」は、初めてその土地を訪れる者にとっては非常に有用な案内になります。ただ、マップを制作する際の「視点」や「推奨点」は、どこへ行っても同様でオリジナリティがありません。せっかく特徴的な性質をもった尼崎だからこそ、もっとユニークな観光マップを制作できないかと考えました。また、事前に行った市民への聞き取りから、「結局、他と同じような街になってきているのが残念。」「昔ながらの尼崎を少しでも残してほしい。」といった意見も多く聞いていました。

近年、急激な変化を遂げた文化の一つに「タバコを取り巻く環境」があります。この大きな潮流のなか、今でも多くの喫煙者を見かけることができるのは、尼崎の象徴的な特徴かもしれません。そんな事を考えながら、たまたま見つけたのは「自然発生的に生まれた喫煙所」です。時間は昼の休憩タイム、会社員風の数名が、ちょっとした街の一角に集まってタバコを吸っています。どのような理由でその場所が選定されたのかが気になり散策を進めたところ、一定の法則が見えてきました。そして、その法則に沿ったポイントには、非公式ながら灰皿も設置されているのです。

マップのテーマは「灰皿と吸殻」にすることに決めました。まず行ったのは、街で見つけた「灰皿と吸殻」を写真に撮り、その状況を詳しくマップに落とし込んでいくものでした。しかし、あまり詳細な状況をストレートに描きこんでしまうと、ただただ「喫煙者だらけの街」という印象に映ってしまいます。そこで自分なりに「街の印象を悪くしてはいけない」という気遣いが働いた結果、「自身でポイントを探し、状況を確かめてもらうこと」に重点を置いたマップに仕上げました。最終的には、ある意味で「物分かりの良いアート作品」になったかもしれません。

改めてお伝えしておきたいのは、「アートは決して過激なことを行うだけのものではない」という点です。アーティストの姿勢は一括りにできるものではなく、それぞれ全く違った思考と性質をもっています。だからこそ、それぞれが独自の「新たな視点」を提示することができます。つまり、アーティストという存在そのものが多様性を体現しているのです。「ユーモアを持ちうる平穏な社会を持続するためのツール」として、今後もアーティストを活用してもらえたら本望です。

最後に。私自身が喫煙者であったせいもありますが、時代に取り残された「喫煙者」という存在を排除しない社会を作ってほしいと望んでいます。今後も、「行政・観光客・市民」それぞれがお互いを活かしあえる「落とし所」を見つけられるように、リサーチとプロジェクトを進めさせていただけたら幸いです。

                                2024年3 月10日 風間天心



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