誰もが一緒に遊べる公園を尼崎に作ろう

  • LIFE

みんなで育ち合う学校・地域を考える会代表の上村直美さん(小田南生涯学習プラザにて)

 「インクルーシブ公園」という言葉を聞いたことはありますか?「インクルーシブ」は日本語で「包み込むような、包括的な」といった意味を持ちます。これまでの公園は障害のある子どもにとって必ずしも安全に遊ぶことができる場所ではありませんでした。そうしたなか発達に特性のあるなしに関わらず、誰もが安心して一緒に遊べるような公園づくりに向けた活動や実際の整備が、全国的に広がりつつあるようです。そんな動きを尼崎でも、と声を上げたのは、上村直美さんです。

ゆっくり育つ娘とともに


子育てサークル「チェリッシュ」の活動は毎月1回、JR立花駅前のすこやかプラザ内で行っています

 尼崎で生まれ育った上村さんは、結婚後も家族でずっと住み慣れた尼崎で暮らしています。上村さんの娘のまおさんはダウン症を持って生まれてきました。

 まおさんが生まれた直後は、自宅に引きこもる時期もあった上村さん。ある時、先輩ママに誘われて、ダウン症子育てサークルに参加します。同じ気持ちを分かち合える人たちとの出会いに、気持ちも前向きに変わっていったそう。現在は上村さんがサークルの代表になり、阪神間のダウン症を持つ親子が集まって子育てのコツや療育のことなどの情報交換をする貴重な場となっています。

チェリッシュ(慈しみ)を広げるために


ダウン症協会が制作した『+Happy しあわせのたね』はダウン症の子どもを授かった家族に向けて作られた冊子。兵庫県下の家族に届けられるよう、まおさん(中央)とともに県知事へ届けました

 子育てサークル活動から始まった上村さんの行動は広がります。今、上村さんは、ダウン症の調査や相談業務を行っている公益財団法人日本ダウン症協会の相談員もしています。からだを構成する細胞の染色体を1本多く持って生まれて来たのがダウン症のある人たち。だいたい600~800人に一人の割合で生まれるとされているそう。

 相談員の上村さんのもとには、兵庫県下から「出生前検査で染色体疾患が判明した」、「赤ちゃんにダウン症があった」といった多くの相談が寄せられます。特に、出生前検査の結果を受けて、命の選別がされてしまう状況に、上村さんは「なぜ?」とやり切れなさを募らせました。でも、その「なぜ?」に上村さんはひとつの答えを見い出しました。

障害のある人に出会ったことありますか?


ダウン症のある人と一緒に歩く世界的なチャリティウォークイベント「バディウォーク」。上村さんはその関西代表も務める

―「通っていた学校には支援学級がありましたか?」「車いすを押したことは?」
 私たちは、幼少期から大人になるまで、障害のある人と一緒に過ごした経験はあるでしょうか?上村さんは、障害のある子の親になることへ恐れを抱く私たちには、「障害のある人と共に過ごした経験があまりにない、少ないことに原因があるのではないか」と思ったのです。

 成長はゆっくりだけれど、人懐っこく、いつも笑顔の娘と暮らす上村さん。「障害を持って生まれたというショックは誕生直後こそは感じるかもしれない。でも、子どもを育てる喜びや共にする喜怒哀楽は障害の有無とは関係ない。本当にかわいい、それを伝えていきたい」

同じ教室でみんなとともに過ごして


通っている中学校の体育大会に参加するまおさん

 現在、自宅のある校区の小学校を経て中学校に通うまおさん。小学校からずっと通常学級に在籍し、みんなと同じ教室で学んでいます。障害のある子どもの多くは就学年齢になると、「支援学校」か「支援学級」を選択する場合が多く、まおさんのように通常学級に通う人は少ないといいます。それは、担任ひとりだけで対応できるのか、という心配があるからだといいます。

 みんなと同じ教室で学ぶまおさんには、困った時は助けてくれる心強いクラスメイトがいます。例えば、こんな出来事がありました。

―ある日の体育の時間。まおさんは転んでしまい、その痛みにずっと泣いていました。
 すると、「まお、痛いよね。これを見て元気を出すんだよ!」って、友だちがまおさんが好きなキャラクターを描いて持ってきてくれました。それを見たまおさんには笑顔に戻ったそう。

 また、こんなこともありました。

―通院で2時間目から登校する日。
 1,2時間目の美術の授業は美術教室に移動して行われます。鍵の締まった通常教室に来て、まおさんが戸惑わないよう「まおの美術道具は私たちが持って行くから、まおは学校に着いたらそのまま美術室に来るんだよ」、と前日に友だちが提案してくれました。

 まおさんと同じ教室で過ごす友だちには、自然と思いやりが育っているのでしょう。上村さんは確信しています。「まおのクラスメイトたちが大人になった社会では、まおはきっと安心して暮らしていけるはず」、と。

みんなの公園をつくるために


東京・世田谷区に整備されたインクルーシブ公園の遊具の一例。車いすに乗ったまま上まで上がれるスロープが付いた遊具が設置されています

 そんな上村さんが、目下、力を入れているのが、どんな子も一緒に遊べる遊具や配慮がある「インクルーシブ公園」とも呼ばれる、みんなのための公園づくり。国内では、東京・世田谷区にある砧(きぬた)公園が初のインクルーシブ公園として整備されました。


昨年11月、小田南生涯学習プラザで実施したインクルーシブ公園プロジェクトのワークショップの様子

 今、尼崎市内の公園では、整備されてから年月の経った遊具の計画的な入れ替えを実施しています。こうした遊具の入れ替えや公園のリニューアル工事に合わせ、インクルーシブな公園への配慮をしてもらえるよう、上村さんは市の公園整備の担当者と意見交換を行っています。
同時に上村さんは、発達に特性のある子どもを育てる保護者へのアンケートやワークショップを重ね、みんなの思いもまとめようとしています。

 子どもが、公園で一番よく遊ぶ時期は、幼児期や小学生ごろ。そのころに、いろんな子と一緒に遊び、触れ合うことを経験して育つ子どもたちは、私たち大人が「経験してこなかったから」持てなかったフラットな意識を自然と持つ子になるかもしれません。誰もが暮らしやすいまちの実現は、そんな公園から生まれる可能性も秘めています。

 いつも笑顔で、今を一生懸命に楽しく生きるまおさん。お笑いが大好きで、自己紹介ではお笑いタレント・ダウンタウンの母校に通っていることを自慢にしています。そんなまおさんをそばで優しく見守りながら、上村さんは思います。「生まれ育ったこの尼崎をもっとよくしていきたい。胸を張って『あま』に引っ越しておいでと言えるように」、と。


インタビューに答える上村さん

『+Happy しあわせのたね』の冊子を持つ手

バディウォーク関西の参加者の集合写真

インクルーシブ教育勉強会の時の様子

高校生に向けて「命の授業」で話す上村さん

看護大学生向け障害啓発交流会の様子