尼崎を第二のふるさとに
「夫と大ゲンカして、『家を出て行くわ!』と0歳3カ月の長男を抱えて飛び出したものの、当時の私には近所のホテルしか行くところがありませんでした。私が誰ともつながっていないということは、子どもも誰ともつながっていないということだと切々と感じたんです」
現在、小学生と中学生の2児のお母さんである島田佐知子さん。結婚を機に2002年から夫の実家がある尼崎市に引っ越してきました。出身は佐賀県で、大学時代は西宮市に暮らしていましたが、尼崎市は初めて。誰にも頼れない孤独感を経験して、自分から地域とつながっていこうと行動を起こします。
島田さんの頭に思い浮かんだのは、子どものころの風景です。近所のおばちゃんの家の庭で遊んだり、喉が乾いたらご近所で飲み物をもらったり、子どもがのびのびと遊ぶのをまわりの大人たちが見守ってくれていました。この小田地区でもそんなコミュニティをつくれないだろうかと島田さんは考えたのです。
マンション内でコミュニティづくり
長男が0歳5カ月になると地域の子育てサークルに参加し始め、新築の分譲マンションに入居後、「子育て世帯で集まりませんか?」と呼び掛けるチラシを全戸にポスティングしました。集まった子育て世帯でマンションコミュニティ型の子育てサークル「キッズルームくれあ」を立ち上げます。
おしゃべりしたり、保育士や保健師を招いて子育て情報を得たり、歌やダンスを教えてもらったり。最初はお母さんと子どもだけだったのが、お父さんも加わるようになって、大人数でお泊まり会、ベランダで流しそうめん大会、遠足、三田で農園づくり、さらには子どもたちからも「ハロウィンや豆まきをしたい」と意見が出るようになり、行事が増えていきました。
「急な買い物に行かなければならない時は子どもを見ていてもらったり、学校が台風などでお休みになった時は働くお母さんの子どもを預かったりという関係性ができていました。マンションの廊下で井戸端会議が始まると、気づけば夫が加わっていたことも(笑)。村みたいなコミュニティができていましたね」
入居から10年が経つころには、マンションの50世帯中30世帯もの家族がつながるほどになっていたそうです。
子ども連れでどんどん地域に飛び出す
「西宮に住んでいた時はケーキやパンのお店がいくつもあったので、住み始めてまもなくは『尼崎は何もないまちだな』と思っていました。でも、知ろうとすれば、あったんです。パン屋さんに自然食のお店、ボーイスカウトの基地だって。つながると、おもしろい人だらけ!」
島田さんは2012年に、新たに幼稚園+地域コミュニティ型のサークル「Little Party」を立ち上げました。近所のケーキ店でカフェ・パティシエ体験、コンビニでパンづくり…地域の人たちに「子ども連れでこんなことしたいんですけど」と声を掛けていくと、「いいよ!」と歓迎してくれたり、「子どもはまちの宝だから」と応援してくれたりする人がいっぱいいたのです。
子ども連れでどんどん、地域に飛び出していくと、子どもたちにとっても知り合いが増えてきました。まちですれ違えば、子どもたちと地域の人たちが声を掛けあえるようになっていったそうです。
子ども主体のまちづくりを目指す
島田さんが尼崎市で暮らし始めて15年、子どもの成長とともにまちと多様な関わりを続けています。現在は小田支所のコミュニティルーム運営委員の副代表を務め、おしゃべりカフェや小田ねっこひろばをサポートするほか、子育てマップづくりのメンバーとしても活動中。
「昨年、子ども主体でわくわくフリマを開催しました。子どもは安心できる関わりがあれば、やりたいことをやってみようと思えますから、子どもの『やってみたい!』と地域の課題解決を結びつけられる秘密基地をつくりたい。子どもたちが自分らしく伸びやかに育ち、『このまちが好き!』と誇りに思える小田地区になるといいなあと思っています」
島田さんの「こうなったらいいなあ」は膨らみ続け、小田地区の「なんか、おもしろそうやん!」につながっています。
(プロフィール)
しまだ・さちこ 2005年に「キッズルームくれあ」を、2012年に「Little Party」を立ち上げた。2013年には、お母さんが仕事探しをする上で「子育てや子育て系活動でのスキルは履歴書には書けないのか」と思い、検索してつながった「赤ちゃん先生プロジェクト阪神東校」に所属。赤ちゃんとお母さんが教育機関や高齢者施設、企業等を訪問して人間教育プログラムを展開する「赤ちゃん先生プロジェクト」のトレーナーとして活動した。