「家庭の食卓に一番近いレストラン」をめざして

  • PEOPLE

写真、お店に立つ高見さん
高見忠男さん(44)/「Aimable(エマーブル)」オーナーシェフ

地域の人たちが集うコミュニティーレストラン


写真、取材時の気まぐれランチ

 本格的なフレンチレストランなのに、赤ちゃん連れから家族、友人同士、おひとりさまなど、地域のさまざまな人たちが気軽に訪れる「Aimable(エマーブル)」。料理を提供するだけではなく、「料理をきっかけに、人と人をつなぐ」を目的に、大人や子ども向けの料理教室や農業体験ツアー、子どもの職業体験、婚活パーティーといったイベントも開催しています。

 オーナーシェフの高見忠男さんは、「ホテルニューオータニ大阪」やフランスの二つ星レストラン「ジャン・ポール ジュネ」で腕を磨いた経歴の持ち主。産婦人科医院で料理長も務めた経験から、「ベビーカーで入れるフレンチレストラン」として2010年に武庫之荘でオープンしました。

 料理を通して目の前の人たちと向き合った日々が、今のお店の在り方につながっています。

子どもの頃からの夢を叶えて


写真、店内でインタビューを受ける高見さん

 高見さんが料理人を志したのは、小学生の頃でした。

 「余りごはんで何かをつくるなど、料理をつくるのも食べるのも好きだったんです。コックが夢になったのは、テレビ番組で帝国ホテルの料理長を務めた村上信夫さんが、コック服を身につけて子どもたちと楽しそうにしゃべっている姿に憧れたから」

 小学校の卒業文集には、

 ―ぼくは、将来、コックになろうと思っている。(中略)もし専門学校にいけて卒業したら、自分の店を開いて世界の料理をつくりたいと思っている。そしてどの店にもまけないおいしい料理を作りたい。―


写真、高見さんの小学校時代の卒業文集

 その言葉通り、高校卒業後、専門学校を経て、料理人の道へ。フランスから帰国後、栄養士の資格を持っていた高見さんは、それを生かしたいと産婦人科医院にシェフを派遣する会社に就職したことが転機となります。

 高見さんが派遣されたのは、阪急塚口駅近くの産婦人科医院でした。料理人として、出産前後の希望に満ちあふれた人生の瞬間に立ち会う一方で、テレビ番組では連日のように幼児虐待のニュース。

 「『どうして虐待してしまうのだろう?』、『どうしたらいいんだろう?』と思いを巡らすうち、ストレスが原因ではないかと行き着きました。子どもがいると外食しにくくなるだろうから、育児で疲れた時に食事をしながらほっとした気持ちになってもらい、出産時の喜びを思い出してもらえたら…料理人として、そんなフレンチレストランをつくりたいと考えたんです」

料理を通して、出会いや交流のきっかけづくり


写真、子どもを対象にした料理教室の様子
お店の厨房を使って、子ども対象の料理教室も開催している

 高見さんには、お店とともに実現したいことがありました。それは料理教室です。

 「産婦人科医院でレシピを教えてほしいと言われることが多く、手書きして渡していました。一緒に働くスタッフさんにも教えたら、『普段はあまり食べない子が食べてくれた』と喜んでもらえて、料理はコミュニケーションが生まれるきっかけになると気づいたんです。普段とは違うものが一皿でも出てきたら家族に興味を持ってもらえるし、喜んでもらえたらつくった本人もうれしい。そんなよい循環が生まれてほしいと思いました」


写真、店内でインタビューを受ける高見さん

 「ベビーカーで入れるフレンチレストラン」の料理教室だから、子ども連れで行ける習い事として気晴らしの機会にもなればいい。「武庫之荘は転勤族が多い」と聞くから、教室で一緒になった人とママ友になれたらいいのではないか。いろんな世代が集うことで、子育ての相談ができる場にもなればいい。休日はお父さんも料理してみてはどうだろう。料理をしてみたい子どもたちにも料理体験してもらおう。

 料理をつくるのと同じように、一人ひとりの顔を思い浮かべながら、イベントを企画し続けています。

お店での「料理体験」をそれぞれの家庭で


写真、店内でインタビューを受ける高見さん

 「現在は、一人で食べる孤食、好きなものだけを食べる固食、家族で同じテーブルを囲んでいるのにバラバラのものを食べる個食など、さまざまな『こしょく』の問題があります。僕自身の子どもの頃を思い出すと、ごはんの時間は楽しみでした。酒を飲む父の横に座っておつまみを分けてもらったり、外食の帰りにボーリングで遊んで帰ったり。家族みんなで食べたほうが楽しいという体験があるから、そんな日を一日でも多く持てるといいのではないかな、そんなきっかけをつくりたいと思っているんです」


写真、市主催のイベントに出店した様子
市主催のイベントにも参加している

 高見さんは自分のお店を「家庭の食卓に一番近いレストラン」と表現します。

 「家でもつくれそうと思ってもらえるような料理を出すようにしています。野菜の切り方にしても、ニンジンはいつも乱切りにしているけど、スライスにするだけで見た目も食感も変わると気づいてもらえたら。家でまねしてもらい、『あれ?いつもと違う』など、料理をきっかけに、家族の中で会話が生まれたらいいなあ、と」

 鍋感覚でわいわい食べられるチーズフォンデュをメニューに入れているのも、家庭でレストランの味を楽しめるようにテイクアウトメニューを提供しているのも、料理をきっかけにコミュニケーションが豊かになればという想いから。

 高見さんは、お店を訪れる一人ひとりの向こう側に、「会話が生まれて笑顔になる家庭の食卓」を思い描いています。


写真、小学校の卒業文集を開く高見さん

写真、尼ノ國ステッカーを持つ高見さん

写真、店名が記載された布飾り

写真、お店の前に設置されたメニューの看板

写真、お店の外観

写真、取材時の前菜

(プロフィール)

たかみ・ただお 1973年兵庫県姫路市生まれ。「小学校の家庭科の授業で、みそ汁の材料のジャガイモを勝手にアレンジしてポテトチップスをつくった」、「工業高等学校に進学したのは『厨房には機械関係があるから詳しくなったほうがいい』と父の助言を受けたから」などのエピソードも。尼崎市が実施する「あなたのカラダにいいことデイ」に出店するなど、市民の健康をサポートする事業に協力している。