「ハワイアンカフェ」の一言では語れない
よくあるヒーロー・ヒロインシリーズものでは、主人公たちが集う拠点があり、彼らを温かく見守り、時には助言や特訓も行う協力者の存在が欠かせません。尼崎で面白いことを企む仕掛け人たちにとって、まさにそんな拠点がカフェ「パイナワーフ」です。
表向きはハワイアンカフェで、ロコモコやアヒバーガー、モチコチキン、パンケーキ、マラサダ、コナコーヒーといった現地のフードやドリンクを揃え、ハワイ通からは「海が近くにあれば、まさにハワイ」と評判です。
しかし、閉店後は「尼崎ぱーちー」「カリー寺」といった市内開催イベントの作戦会議が開かれたり、店舗やイベントのオリジナルTシャツをつくる人々が訪れたりなど、尼崎で面白いことを企む秘密基地になっています。
オーナーは「アマガサキ」とプリントされたTシャツをしれっと着こなす多田銀次郎さん。
古い「尼崎のイメージ」に一石を投じたい
以前、電機メーカーで液晶テレビの企画を担当していた多田さんは、約6年の勤務を経て退職し、勤務地の栃木県から生まれ育った尼崎市に戻ってきました。「今までとは違う、新しいことをしたい」とハワイ在住経験のある大学時代の同級生と一緒に2015年に「パイナワーフ」をオープン。
当初は神戸や西宮北口エリアを希望していましたが、いい物件と巡り合えず、「カフェ文化への理解がありそうな阪急武庫之荘エリアで妥協した」と多田さん。しかし、地元でオープンするなら、子どものころから根強くある「ガラが悪い」といった尼崎の負のイメージに対して「一石を投じたい」との想いが芽生えます。
「会社員時代を過ごした栃木県では、若者が地元に対する愛着低下に危機感を持ち、旅の目的地となる魅力あるまちにしようと取り組んでいました。1つのカフェを中心におしゃれなストリートができていて、イベントを仕掛けていたんです。ここも市内の人が『尼にもこんなところがあるねんで』と市外の人を連れて行きたくなる場所にしたいと考えました」
自店を実験場に、成功事例をまわりで生かす
面白いことを仕掛けるため、まずはお客さんから教えてもらったDIYショップ「GASAKI BASE」へ。オーナーの足立繁幸さんと出会い、「DIY的おたがいさま精神」浸透のために「村」までつくってしまったことを知り、想像を超えた発想と取り組みの数々に衝撃を受けます。
足立さんが企画したイベント「尼崎ぱーちー」の実行委員に加わり、「尼崎の仕掛け人」たちと出会ううち、「『一石を投じよう』なんて思わんでよかったんやって(笑)。それからは『まわりの人の役に立てば、結果として尼が盛り上がる』という立ち位置」と心境が変わったと振り返ります。
子どものころからアイデアを考えるのが好きな多田さんは、「他人ができるなら自分にもできる」という根拠のない自信と、「アウトプットの形から、工程や手法を逆算する」という論理的思考をもとに、自店でさまざまな試みを行ってきました。
チラシやウェブサイト制作、オリジナルTシャツづくり、レーザーカッターを購入しての革グッズ製作、ハワイの海が出現する独自ARアプリの提案や置きチラシのマッチングサイトを印刷会社と連携開発するなど。
それらを見た人たちから「どうやってつくったん?」「こんなん、つくりたいんやけど」などの相談事が舞い込むようになり、尼崎の店舗や団体、イベントなどのデザインも手掛けるようになりました。
さらには、製作した他店舗のオリジナルグッズを店舗およびウェブサイト上で販売する「Local Market Amagasaki」まで開設し、尼崎のさまざまな取り組みの広報まで行うなど、新しいアイデアを次々に考えては周りの人たちのためにも生かしてきました。
予測不能を面白がる
「カフェをオープンしたのも、好きでもアルバイト経験があったのでもなく、『できそう』と思ったから。予備知識ゼロだから『こうすべき』など縛られず、『なんで、こうするん?』『こうしたほうがいいんちゃう?』という視点で日々、試行錯誤できました」と独自路線を突き進んできた多田さんにとって、尼崎でのつながりは刺激的と言います。
「足立さんや西海岸ヤバ男さんなど『絶対に真似できへん』人たちとの出会いがあり、そんな人たちと一緒なら、価値観を揺さぶるような面白いことを仕掛けられることも分かったから。今後もゲリラ的に巻き込まれていきたいですね」
多田さんには当初からカフェを足掛かりとして新しいことを次々と仕掛けたいとの想いがあります。まわりを巻き込み、巻き込まれながら、独自路線をますます突き進むのでしょう。
(プロフィール)
ただ・ぎんじろう 2015年から11年ぶりに地元暮らしを再開。レゲエイベント「尼崎爆音化計画」に通って「尼崎のレゲエ界」と親交を深め、レゲエミックスCDもつくって販売してしまうほど、大のレゲエ好き。
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