女性クリエイターの力を合わせ、地域に仕事をつくり出す

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写真、「ココスキ」チームリーダーでフリーライターの坂本恵利子さん
坂本恵利子さん(50)/ライター&プランナー

「ココでまなび、ココからはじめる」(ココからマルシェ/講座受講+出店デビューのマルシェ)「視点を変えればコトバが変わる コトバを変えれば人生が変わる」(キューズ記者クラブ/ライターをめざす方向け講座&実践)など、キャッチコピーが印象的なイベントチラシ。自分の世界が開けていくようなイメージが広がります。

これらのチラシ制作も、イベント企画・運営も、手掛けているのは女性クリエイターズチーム「ココスキ」。ライターやフォトグラファー、デザイナー、プランナーが所属し、ロゴマークやチラシ等の制作、イベントの企画・運営、商品企画などを行っています。

キャッチコピーを考えているのは、チームリーダーでフリーライターの坂本恵利子さん。


写真、「ココスキ」で制作した講座・イベントチラシ3枚

「自分のやりたいことがある人が、やりたいと思ったタイミングで一歩踏み出し、自走していくのを応援したい」

今でこそ、まちのあちらこちらで「やってみたい!」を実現できている坂本さんですが、やりたいことを10年ほど抱えたまま実現できずにいた過去があります。尼崎というまちに入り込んだことで一歩を踏み出せたのです。

まちの中で見つけた、挑戦できるきっかけ


写真、「ココスキ」の拠点で取材を受ける坂本恵利子さん

坂本さんにとって、尼崎が「住む」場所ではなく、「関わる」場所に変わったきっかけは、子どもの通う小学校の校区変更の話し合いでした。

住民をはじめ、市役所や教育委員会、警察関係者が話し合いを重ねる中で、まちのことは「私が何を言っても変わらない」と諦めていた気持ちが、「一緒に考え合っていけるんだ」と変化。そこからまちに興味が湧き、市内のイベントに出かけるようになりました。

大きな転機は「尼崎市ソーシャルビジネスプランコンペ」。関連イベントで「子どもの作文教室を開きたい」と話したら、担当者から背中を押されてコンペに参加。それを機に広く「作文教室をしたい坂本さん」と認知され、図書館やコミュニティスペース、イベントに関わる人たちから「ここでやってみませんか?」とのお誘いが続々と舞い込みました。


写真、「ココスキ」メンバーの集合写真
「ココスキ」はメインメンバー8人に加え、パートナーメンバー(クリエイターのほか、事務やイベントスタッフなど)40人以上が所属

「まちの中にたくさん扉があって、開けたらおもしろいことが待っていたんです」

知り合いが増え、イベントの実行委員会への参加やイベントの共同開催など積極的に入り込むうちに、まちでやりたいことも増えていきました。「ココスキ」もその一つ。まちで出会ったクリエイターたちが「1人で告知・集客・開催までするのはハードルが高い」「子どもの急病時など子育てしながらの仕事は不安」などの似たような課題を抱えていることに気づき、一緒に乗り越えようと立ち上げました。

失敗も挫折も「ええやん!」と思える環境


写真、「ココスキ」の拠点で取材を受ける坂本恵利子さん

やりたいことに挑戦しても、すべてがうまくいったわけではありません。

たとえば、2015年に「みんなのサマーセミナー」(まちの人たちがセンセイにも生徒にもなれる学校ごっこイベント)で読書感想文講座を開いた時。自宅で作文教室を小さく始めたばかりで経験が少ないのに、教室いっぱいに集まった小学生、しかも1~6年生と幅広い学年層。低学年の子どもたちには難しい内容になってしまったのではと反省し、落ち込みました。

そんな坂本さんに、まちで知り合った仲間は「うまくできへんかってもええやん。大丈夫!」と励まし、次にどう活かすかを一緒に考えてくれました。

まわりを見ると、「やりたいことは、とりあえずやってみる! あかんかったら、次に活かしたらええやん」精神で、失敗も挫折もオープンに見せながら、しぶとく挑戦し続ける人たちの姿。そんな姿を間近で見て、「私にもできるかも」と一歩、また一歩と踏み出し、失敗や挫折を繰り返しては学び続けて、できることを増やしての今なのです。

「やりたいけど、できない」の壁を取り除く


写真、「あままままるしぇ」開催時の様子
尼崎(あま)のママ(まま)によるマルシェ(まるしぇ)「あままままるしぇ」。尼崎市内に住むママやプレママが出店。坂本さんが実行委員長を務める

「子どもが幼い頃、『自分がやりたいことは子育てが落ち着いてからしたらいいんじゃない?』と言われることが結構あって、『子育てが落ち着くまで待つ必要があるの?』と悶々としていました。だから、ママをはじめ、やりたいことに挑戦していこうと一歩踏み出せる層を厚くしていきたいんです」

坂本さんが企画する講座やイベントでは、最初の一歩を踏み出しやすく、低いハードルから始められる工夫をしています。特に、講座系は6~10人の少人数制が基本。一人ひとりの「やりたいけど、できない」に耳を傾け、そのやりたい気持ちを実現するために何ができるだろうと考え、次の企画に編み込んでいきます。


写真、「キューズママスマイル」開催時の様子
「あまがさきキューズモール」とコラボレーションして2018年より開講するママ向け講座「キューズママスマイル」。学び・ものづくり・アート・片づけ・座談会など多彩な内容で展開

「セミナーで学びたいが、子どもの預け先がない」には、スタッフが見守る仕組みづくりを。「講師になりたいけれど不安」には、講師デビューに向けて一緒に考える機会を。「雑貨をつくっているが、活動の広げ方がわからない」には、活動に必要なスキル講座の受講から出店デビューの場づくりまでの創出を。

そうして一人、また一人と、やりたいことを実現していく人が増えています。そんな姿を見て、それまではイベント時の見守りスタッフだった人から「今度は企画づくりに関わってみたい」との申し出。誰かの挑戦が、誰かの「やってみたい」を生み出しているのです。

一人の挑戦がまちの選択肢や可能性を増やす


写真、「ココスキ」の拠点を背景に写真撮影中の坂本恵利子さん
地域コミュニティ活動を行う団体に市営住宅の空き室を提供するあまがさき住環境支援事業「REHUL(リーフル)」を利用し、拠点を構えた

「一人ひとりが自分のやりたいことに挑戦している姿を見られるのが嬉しい。その人たちが今度は誰かを応援する側に回り、一緒に活動することも増えていて、私たちもさらにできることが増えています」

一人ひとりから生まれる“やりたい気持ち”、それを実現することで、まちにさまざまな視点や選択肢、可能性が増える。そんな個人がまちで出会い、つながると、1人では思いつかないこと、できないこと、想像以上のことが実現できる。そうしたまちの人たちの変化や成長、行動が、尼崎をどんどんおもしろくしています。


写真、「ココスキ」の拠点で取材を受けて笑顔の坂本恵利子さん
企画を考える上で「まちの人と人がつながること」も大切にしている。イベントそのものをつながる場とするほか、地域情報の共有など、まちに入り込むきっかけづくりも行う

「2022年に拠点を持ったので、プロ向けのレベルの高いものから、一歩をもっと踏み出しやすくするハードル低めのもの、あと『こんなんしたらおもしろいんちゃう?』という遊び的なものも企画していきたいですね。これからもまちに知り合いを増やしていきたいですし、まちのことももっと知りたい。もう、仕事か趣味か、わからない線まで来ていますね」と坂本さんは笑います。


写真、「ココスキ」の拠点での取材時の様子

写真、「ココスキ」拠点内でパソコンを操作する坂本恵利子さん

写真、「ココスキ」拠点近くの建物前で写真撮影中の坂本恵利子さん

写真、「ココスキって何?」展のチラシを持つ坂本恵利子さんとココスキメンバー

写真、「あままままるしぇ」会場の様子

写真、「七夕まつり」イベント時のココスキメンバー&パートナーの集合写真

写真、「キューズママスマイル」真剣に取り組む受講生たち


写真、「キューズママスマイル」開催時の様子

(プロフィール)
さかもと・えりこ 大阪市出身、尼崎市在住。「ココスキ」チームリーダー(2021年に法人化し、代表を務める)として、イベント企画やディレクション、取材・原稿・執筆、講師などを担当。フリーランスのライターとして雑誌や専門書等の取材・原稿・執筆を行うほか、プランナー・コーディネーターとして「あままままるしぇ」など尼崎イベントにも関わる。「尼崎市ソーシャルビジネスプランコンペ」参加翌年の2015年に自宅から小さくスタートした子ども作文教室「コトバのチカラ」は現在、尼崎・伊丹で開講中。

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