大人も子どもと一緒に育ち合うフリースクールを

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写真、子どもと話す小田さん
小田早希子さん(44)/フリースクールスタッフ

 真冬の西武庫公園で、寒さをものともせず、元気にはしゃぐ子どもたちの集団がありました。その輪の中で寒そうに肩をすくめながらも、子どもたちに笑顔でこたえる小田早希子さん。ここは「ぐるりミライスクール」というフリースクールの活動場所でもあります。小田さん自身は小学生の二人の子どもを育てながら、このフリースクールを運営する中心メンバーです。どんないきさつで、この活動を始めたのでしょうか。

自然のなかで心もカラダも元気に


写真、公園でランチタイムのお弁当を食べる子どもたち

 小田さんが仲間と立ち上げた「ぐるりミライスクール」は、自然の多い西武庫公園を活動拠点にしており、平日9時~15時まで、ほとんどの時間を公園内で過ごします。公園内のパーゴラ(日よけ棚)のかかったテーブルを使って、子どもたちはランチタイムに持ってきたお弁当を広げています。雨の日は、公園内の施設の中に入って過ごすこともありますが、基本的には暑い夏も寒い冬も年中アウトドア。


写真、子どもたちとばたちゃんがドッジボールをする様子
子どもたちとドッジボールをする、ばたちゃんこと川端理絵さんは公立小学校で教員をした経験を持つ(右)

 「このスクールを見学して野外活動が多いのを知っているので、カラダを動かすのが大好きな子どもが多いかも。寒いとか不満は聞かないですね」と小田さん。屋外中心の活動こそが、ぐるりの特徴と言えそうです。

デザイナーになる夢を叶えた20代


写真、インタビューに応じる小田さん

 子どものころから、絵を描くのが好きだったという小田さん。高校生のとき、愛読していた漫画の影響を受けファッションデザイナーに憧れ、服飾専門学校へ進学しました。卒業後は20代で上京し、ファッションブランドの制作にも関わるなど、流行の最先端に触れ、夢だった仕事に没頭する日々。そんななか、いつしか自分のなかで服作りを見直す転機が訪れ、東京から大阪の会社へ転職します。

子育てのつまづきから始めた自分への問いかけ


写真、公園でインタビューに応じる小田さん

 尼崎出身の夫と出会い結婚。デザイナーの仕事を続けるなかで、36歳の時に第1子を授かり、翌年には第2子も。念願の子どもとの生活でしたが、好きな仕事をしながらも、うまく行かなかったり満たされない気持ちになったり…。「そんな時、不満の原因は周りの環境や人のせいばかりにする自分がいたんです」。

 そんな自分を変えたいと、本を読んだりセミナーに行ったり、人との対話を重ねるうちに「自己肯定感の低さや被害者意識を持ちがちなのは、これまで受けてきた教育に原因があるのでないか、と思い始めました。他人と比較せず、自分を肯定し他者を思いやり、どんな状況に置かれても柔軟に生きる力を持っている。それこそが子どもの時から一番大切にすべきことなのでは、と」。

 「これからの未来のために公教育をアップデートする活動がしたい!」という熱意が沸き上がり、知人に打ち明けると「同じように学校を作りたいって人がいるよ」と紹介されたのが、現在、ぐるりミライスクールの代表を務める荻洋仁(ひろと)さんでした。

ぐるりミライスクール、ってどんな学校?


写真、じゃんけんをして遊ぶ子どもたち

 荻さんと共にプレーパーク活動(冒険遊び場づくり)を経て、フリースクール事業を始めたのは2021年から。数人の子どもたちからスタートしましたが、現在は毎日通ってくる子、月に数回くる子を含めて15人あまりです。口コミやSNSを通して知られるようなり、市内の子どもたちもいますが、伊丹や川西、芦屋、大阪方面からも来ています。小学生から通い始め、中学生になった子もいるため、中等部も作りました。

 子どもたちの様子を見ていると、あくまでも遊び中心。教科の学習などは必要ないのでしょうか。

 「現在の文部科学省の教育課程(カリキュラム)の内容は、特に小学1年生~3年生のうちは日常の中で習得できることで、ほとんどを野外活動に置き換えることができる内容だと思うんです。また心身を思いっきり解放させたら、自然に学びたくなるタイミングが来るみたいで、子どもたちから勉強したいと言い出すんですよ」と小田さん。ぐるりには、公立小学校の教員を務めた経験のあるスタッフもおり、個別に学習のフォローもするそう。

 学校とはどう連絡を取り合っているのかも気になります。「毎月、保護者と学校にはぐるりでの活動内容や出席状況などを記したレポートを提出しています」とのこと。ぐるりの通学が学校では“指導要録上出席扱い”になるそうです。

不登校を支える尼崎の輪をつくりたい


写真、公園で遊ぶ子どもたち

 元気に仲間と遊び続けるぐるりの子どもたちを見ていると、学校へ行けなくなるほど心身に不調を抱えているということが不思議に思えるほど。子どもからのSOSはどうやってキャッチしたらいいのでしょう?

 小田さん自身も一時期、小学生の子どもの不登校を経験しました。「行きたくないのレベルが変わる感じですね。無理に行かせたらダメだと思い休ませることにしました」。小田さんの子どもは、数カ月ゆっくり家で過ごしているうちに、ある日「やっぱり学校行くわ!」と、登校を再開。「今は元気に通っていて、ぐるりに誘っても、あそこは暑いし寒いしと断られる」と笑います。

 子どもによって、不登校になる原因もさまざま。学校以外にも子どもたちが安心して過ごせる場のひとつとして、フリースクールがあります。

 小田さんは市内のフリースクールのネットワークづくりのために「尼崎市フリースクール合同支援者の会」を開催したり、年3回、フリースクールへの通学を考えている親子向けに「フリースクール合同説明会」を市内のフリースクール7団体で合同開催しています。また、不登校の実態を知ってもらう活動として「尼崎市不登校シンポジウム」も企画。不登校経験者の体験談や、支援の輪を広げるための活動もしています。

カレーのおいしい子ども食堂もスタート


写真、この日のお客様のご近所の親子と小学生の女の子
この日のお客様はオープン当初から来ているご近所の親子(左)と小学生の女の子(右)

 「日常的に気軽に話せる場所を作って親子に寄り添いたい」と、2024年7月から新たに始めた活動が、西難波町の民家を借りた月2回の子ども食堂です。「誰でも好き嫌いなく食べられるメニューなので」と、毎回カレーライスを仕込みます。オープン日には、大阪から友人が調理を手伝いに来てくれます。また玄関先でコーヒースタンドを出してくれる友人も。

 はじめまして同士の先輩ママが新米ママにアドバイスしたり、ご近所同士のつながりの輪が広がる光景を見るのが嬉しい、という小田さん。まだ始めて間もない食堂ですが、徐々に常連さんも増えてきました。部屋の中には、「ぐるり物々交換会」の棚もあり、必要でなくなった子ども服をもらうこともできます。

誰もが自分らしくいられる未来を


写真、笑顔でインタビューに応じる小田さん

 子どもを持つまでは、尼崎に住みつつも「大阪通勤に便利」くらいにしか思っていなかった小田さんですが「子どものためにも尼崎に根付きたい」との思いが出てきたそう。さらにフリースクールの活動を始めてからは、「尼崎はやりたいことがすぐ実現できる感じがします。事業を応援する制度や地域課の方のサポートも心強かったです」とも。

 今、子どもや現役世代、お年寄りと世代間のつながりが切れがちなことを気にかけています。ぐるりでは、子どもたちの学びをサポートし、一緒に学び楽しむ仲間も募集中。これまでも外部講師として、料理家やファイナンシャルプランナー、高校生や大学生、元フリースクール生などを迎え、子どもたちとの交流と学びを広げてきました。

 子どもたちの「これやりたい」を一緒に実現し、生き生きとした笑顔で走り回る小田さん。ぐるりに来れば大人も子どもも「今が一番元気で楽しい」という自分を発見できるかもしれませんよ。

尼崎市の関連事業:フリースクール等利用支援補助金


写真、子ども食堂の民家前に立つ小田さん

写真、子ども食堂ののぼりと看板

写真、出来上がった米粉カレー

(プロフィール)
おだ・さきこ 山口県防府市出身。広島県の服飾専門学校を経て、上京しファッションの流行最前線に身を置くも、流行と消費の速さに疑問を感じ、転職して大阪へ。尼崎出身の夫と結婚し、小学生の娘と息子とともに園田エリアに暮らす。子どものときは友だちと秘密基地を作るのが好きで、幼なじみには「今も昔と同じことやってるね」と言われるとか。