絵本をつくって、世界中に“幸せな一体感”を生み出したい

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写真、創作机の前で絵本を持つ、ホッシー ナッキーさん
hossy nakkie(ホッシー ナッキー)さん(43)/イラストレーター・絵本作家

 回転寿司チェーン「スシロー」や学習ドリル「うんこドリル」といった、広告や雑誌、書籍のイラスト・挿絵を手がけるほか、2024年には絵本『うちゅういちの たかいたかい』を初商業出版したイラストレーター・絵本作家のホッシー ナッキーさん。

 手書きのあたたかみを感じさせる線と、時にニヤリと笑ってしまうユーモアもあるイラストは、見ていると心がほっこり、ワクワクしてきます。子どもの頃から絵を描くことが大好きで、自身が描いた絵を見て、家族や友だち、学校の先生といった周囲の人たちが笑顔になることが、何よりも喜びだったそうです。

 生まれも育ちも東京ですが、尼崎で暮らして16年。「今ではもう、尼崎のほうがホーム。実家に帰省しても、早く尼崎に帰りたいとそわそわしてしまうくらい」と笑います。ホッシー ナッキーさんが尼崎にどっぷりとはまるきっかけとは?

西武庫公園の“ピースフルなフリマ”と地続きの日常


写真、2025年4月開催のハーベストフリーマーケットに出店
2025年4月開催のハーベストフリーマーケットに、長男と次男と一緒に「鼻毛釣りゲーム」で出店

 結婚を機に、初めての関西暮らし。その居住地として選んだのが尼崎でした。関東出身の友だちが市内に住んでいたからなじみがあったのと、夫がもともと関西在住で通勤の利便性のよさが決め手になったそうです。尼崎にどっぷりとはまる最初のきっかけは、西武庫公園で開催されている「ハーベストフリーマーケット」。

 「子どもの頃から戦争体験者の祖父母と同居し、『使えるものを捨てるのはもったいない』精神が私にも根づき、高校生の頃からフリマに参加して不用品を手放していました。だから、引っ越して、まずしたことはフリマ探しです。ハーベストフリーマーケットは、スタッフのみなさんがそれぞれに自分の好きな活動や仕事をされていて個性的。誰に対しても寛容でウェルカムな雰囲気だから、『はじめまして』でも“みんな仲間”のような居心地のよさがあるんです」

 同フリマは「地元を盛り上げたい」と1人の雑貨店オーナーが2005年に立ち上げ、毎年昭和の日(4月29日)と文化の日(11月3日)の年2回の開催が続いています。0~90代まで幅広い世代の人たちが集い・楽しむ地域のイベントで、ホッシー ナッキーさんいわく「世界一ピースフルなフリマ」。その世界観が日常と地続きであると言います。

 同フリマで出会った人と近所で再会したり、中には意気投合してママ友になったり。オリジナルキャラクターの「ゴリラのゴッさん」グッズを販売したところ、尼崎の伝統野菜「田能の里芋」の看板やキャラクター制作など仕事の依頼につながっていったり。

 「1人とつながると、どんどんおもしろい人たちとつながっていくから、『おもしろそう!』と心動くものには顔を出してみる」というのが、ホッシー ナッキーさん流の尼崎の歩き方です。そんな日々の中で、「絵本を出版したい」という1つの目標を見つけます。

見つけた「絵本を出版したい」という目標


写真、絵本『うちゅういちの たかいたかい』
絵本『うちゅういちの たかいたかい』は、当時5歳だった長男が話したエピソードが原案

 絵本づくりのきっかけは、クリニックで「親子の大切なコミュニケーションとして、言葉のシャワーを与えましょう」と書かれた本を読んだこと。心が動き、妊娠中から絵本の読み聞かせを始めました。

 出産後は既存の絵本を読み聞かせるだけではなく、お風呂に入っている時や部屋の明かりを消した後の布団の中で、長男と次男からの「桃の話をして」「のこぎりの話!」というリクエストに応え、即興で物語を創作して話すようにも。100~200のうち1つくらいは、「絵本になり得るかも?!」と思う物語が生まれていきました。

 足繁く通う近所の図書館で、絵本のコンクールのチラシを見つけます。思いきって応募したところ、佳作を受賞。審査員の「ブラッシュアップしてまた見せてね、という意味での佳作」というメッセージが励みになりました。2017年から年1~2冊ペースでコンクールに応募し、2023年に「書店員が選ぶ絵本新人賞2023」の特別賞を受賞後、翌2024年に絵本を初商業出版しました。

“誰かの喜ぶ顔”が、いつも原動力


写真、「ビルよりも たかいたかーい」のページを開く、ホッシー ナッキーさん

 コンクールに応募し始めて、絵本の出版まで6年ほど。この間のことを「2児を育てながらの限られた時間での制作…落選するたび、『なぜ、私の作品は選ばれないのか』『先の見えない迷路はいつまで続くのか』と精神的にズタボロになることもあった」と振り返ります。

 しかし、諦めずにコツコツと続けられたのは、自身の子どもに「諦めずに続けていたら夢は叶う」ということを伝えたいとの思いがあり、自分自身がその経験をして、背中で見せたかったからだと言います。そしてもう一つ、思い描いている未来像がありました。

 「ミュージシャンが東日本大震災の被災地を訪問し、音楽で心に寄り添う様子を、テレビ番組で観ました。テレビのこちら側にいる私にまで感動を届けられる姿に、私は絵を描くことで何ができるんだろう、何もできないんじゃないかなと悩んだんです」

 描くことさえできなくなった時、とある絵本作家の自作絵本の読み聞かせイベントに参加。「自作の絵本をツールとして、その場にいる人たちを笑顔にし、幸せな一体感を生み出す光景を目の当たりにし、涙が止まらなくなりました。私もこんな幸せな一体感を生み出す絵本をつくりたい。出版することで、さまざまな人たちに手にしてもらえたら」

 夢を応援してくれる“仲間”も周りにいました。絵本『うちゅういちの たかいたかい』の中で、それを表現したページがあります。「ビルよりも たかいたかーい」のページです。「ビルの中にいるたくさんの人たちは、これまで励ましてくれた家族やママ友、作家仲間、ギャラリーの方々、そしてハーベストフリーマーケットで出会った方々をモチーフに描いた、思い入れのあるページなんです」

ゴールではなく、これからがスタート


写真、創作机の前に座る、ホッシー ナッキーさん

 絵本作家デビューしてから、続々と出版が続いています。しかし、ホッシー ナッキーさんは「これはゴールではなく、スタート」と言います。「大勢に読み聞かせできるものはもちろん、赤ちゃん向けのもの、心に迫るようなものなど、さまざまな絵本をつくりたい。それを持って日本中、いや世界中を旅して、各地で幸せな一体感を生み出していきたいですね」

 絵本『うちゅういちの たかいたかい』は、長男と夫をモデルにした物語。子どもを喜ばせるために、もっともっと高く「たかいたかい」ができるように奮闘するパパの姿を描いています。こんなふうにホッシー ナッキーさんも、絵本の向こう側の誰かの喜ぶ顔を想像しながら絵本をつくり、その先々で幸せな一体感を生み出していくイメージが目に浮かぶようです。


写真、取材に応えるホッシー ナッキーさん

写真、創作中の様子

写真、創作スペースの様子。色鉛筆や筆などがたくさん

(プロフィール)
ほっしー・なっきー 東京都出身。大学卒業後からグラフィックデザイナー(映画販促やファンシー文具など)として会社勤務をしながら、個人で作家活動をスタート。ギャラリーでの展示やオリジナルグッズの販売などを行う。2015年にフリーランスのイラストレーターに。2016年から絵本づくりをスタートし、絵本コンクールへの応募をするほか、2022年には依頼を受けて『菌たろう』を制作。2023年には『うちゅういちの たかいたかい』が第1回「書店員が選ぶ絵本新人賞」特別賞を受賞し、2024年に中央公論新社から出版された。絵本の原画展やワークショップなども、市内をはじめ、各地で行っている。長男と次男が通う小学校で図書ボランティアとしても活動中。

絵描きhossy nakkie(ホッシー ナッキー)のHP