みんなの尼崎大学開学記念講座「尼崎のソーシャルビジネス~この5年を振り返って~」報告

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 平成29年11月13日(月曜日)に尼崎商工会議所にて、社会で起きている課題にビジネスの手法で解決に取り組む、ソーシャルビジネスに関するシンポジウム「尼崎のソーシャルビジネス~この5年を振り返って~」を開催し、市民、行政あわせて約70人の参加がありました。
 会は2部構成になっており、前半は本市主催のパートで、まちの課題にビジネスの手法で解決に取り組む4人の女性起業家を招き、お話を聞きました。
 後半パートは、兵庫県立大学が主催で、地元中学校のクラブ活動を応援するなど、地域密着型食品スーパーの取組を、スーパーの代表者を交えて、研究にあたった大学教授、ゼミ生とが、CSR(社会貢献)の考え方等についての対談を行いました。
 前半の本市主催のパート、尼崎を拠点に活躍する4人の社会起業家によるパネルディスカッションについて報告します。


写真、会場の様子

○プロフィール、これまでの起業の経緯、取組の内容など

坂本恵利子氏(こども作文教室「コトバのチカラ」主宰)

 新聞社、編集プロダクション勤務を経て、フリーランスライター。2児の母。

 作文が嫌いという娘に、作文の書き方を教えたときに、書くことができないのではなく、書き方を教わってこなかったのだと知り、また、子どもの友達にも作文を書くのが嫌いな子が多く、よく聞くとその保護者も作文が苦手ということに気づきます。文章で表現する楽しさをもっと知ってもらいたいとの思いから「作文力向上事業」で、平成26年の尼崎ソーシャルビジネスコンペに応募。最終選考会出場枠に残りました。

 翌年、教室のコンセプトを「キライからフツウへ」とした、こども作文教室「コトバのチカラ」を尼崎と伊丹で開講。
「書く」を中心とした作文教室のほか、ボイスタレントと組み、「書く」「発表する」のどちらも伸ばすことを目指した「発話型作文教室」や、料理講師や音楽演奏者など多彩な講師を招き、体験を文章に書く「体験型作文教室」などにもチャレンジしています。

 実践のなかで感じることは、低学年の子どもたちは、「書けないという苦手」がすぐ得意になること。高学年は乗り越える過程が大事ということ。保護者の肯定的な声かけで確実に変わると言います。これからも「コトバ」を通して、見える世界を広げ、そこに、子どもや大人も巻き込みたいと考えているとのことでした。

中原美智子氏 (株式会社ふたごじてんしゃ代表取締役)

 平成22年に第2、3子で双子を出産。現在、長男は中学2年生、双子は小学1年生。

 いわゆるママチャリに子どもを乗せる場合、自転車用チャイルドシートを取り付けます。製品規格上ハンドル部分に取り付けるものは4歳未満、後輪の上に搭載するものは6歳未満と制限があり、双子をもつ家庭や年子の子を持つ家庭は、下の子が4歳になった時点で3人で乗車・移動できなくなります。しかも、中原さんは双子を乗せて二回転倒した経験から、一時は自転車に乗ることをあきらめ、引きこもりになりました。
 それでも安全に双子の子どもを乗せる自転車が無いなら自分で作ろうと決心。平成26年に2人の幼児が乗れる3輪自転車(ふたごじてんしゃ)の開発に成功し、製品化を目指して平成28年に法人化をしました。

 こんな自転車をつくりたいとメーカーを回り始めた当初、なかなか応じてくれる会社が見つかりませんでした。事故がメーカーの責任になると尻込みされたのが原因です。無力感に苛まれるなか、それでもなんとか試作車を作り、量産できる会社を探していたところ、たまたま見つけたのが尼崎商工会議所の創業塾でした。その後、創業支援オフィスABiZの紹介を受けて入居。そこでもサポートを受けることができたのがとてもよかったそうです。協力メーカーが見つかってからは、尼崎に根差したことで、様々な協力者や支援者が得られ、進みやすくなったと言います

 「ふたごじてんしゃ」という会社は自転車メーカーではなく、双子や年子を持つ保護者の「お出かけしたい」や「外と繋がりたい」という気持ちをサポートする会社と位置付けており、SNSを活用し、多胎育児にとって有用な情報を発信する傍ら、試乗会や各種イベントへの出展を通じて、保護者達が外出するきっかけづくりになればと取り組んでいます。ちなみに試乗会は60組限定。2時間で予約が埋まる大盛況ぶりです。

長村和美氏 (一般社団法人女性の未来代表理事)

 結婚出産後、株式会社栄水化学のハウスクリーニング事業部店長として入社。一児の母として子育てをしながら、ワークシェアリング、時短勤務をはじめ、会社の労働環境の整備に関わりました。

 株式会社栄水化学は社員の8割が女性という会社で、20年前から女性が働きやすい職場環境を目指して取り組んできたことが、女性が辞めない会社として評判になり、7~8年前から、ノウハウを教えてほしいと声をかけられるように。目の前の問題を対応してきたつもりが、環境が変わったと感じ、それならばと、女性がバリバリ働くことを支援する一般社団法人女性の未来を平成27年に設立しました。
 同年、尼崎ソーシャルビジネスプランコンペにて、生活に困窮しているような家庭の子ども達が集まることができる「尼っ子寺子屋」事業で審査員特別賞を受賞。今年度から、訪問型掃除教室「エコピカ博士」を来場型にし、ビジネスプランコンペにて提案した、「掃除を通じた道徳教育」の実現に一歩近づいたと考えています。

 また、今年、株式会社栄水化学の事業であり、「女性の未来」がプロデュースを行う制服リユースショップ「さくらや」を開店。現在、中学校の学生服を揃えるだけで10万円ほどかかると言われ、学生服がなくて学校に通い難い子どもたちのために、着なくなった制服をリユース(洗濯、修復)し、求める家庭に安価で販売するビジネスを始めました。洗濯や補修は同じ尼崎の子育て中の母親たちが心をこめて行います。現在、特に南部の中学校の制服を募集中とのこと。
事業継続のために必要なものは、「そろばんと夢」だそうです。

藤村絵理香氏(nuts代表)

 尼崎生まれ、尼崎育ち。3児の母。結婚後、自身が企画、製作したハンドメイド商品を販売。子育て等において悩み、引きこもった経験から、平成28年、困難ななかで育児中の保護者らへの生きがい提供を目的に、日傘を製作・販売する会社「nuts」を立ち上げました。
 nutsの日傘の特徴はアメリカ、ヨーロッパの、年代が古く、希少価値が高いビンテージ生地を使っているところ。仕入れ、デザインはすべて藤村さんが担当し、工房の製作スタッフには、地域内の障害を抱えたお子さんの保護者や自身が重い病気をもつ保護者を起用。日傘作りを通して、生きがいや、育児の悩みを共有しながら、デザイン性の高い商品を生み出しています。
参考動画⇒https://www.youtube.com/watch?v=58GVdo5UvN8

 日傘の販売はメンバー内で面白い人から順に立つ「笑わせてなんぼ商法」を採用していると言う一方で、nutsファンを対象に講師を招いて靴やカバンの制作教室を開き、その場で消費者の声を聞いて、製品づくりに反映しているといった、マーケティングを意識しているお話もお聞きすることができました。

 今後の夢は、尼崎を本部に、全国に支部を広げ、病院や保護者らを繋げていきたいとのことです。

パネルディスカッション

(コーディネーター 能島 裕介(尼崎市参与・兵庫県立大学客員教授))
能島
 なぜ、起業しようと思ったのかという辺りで、きっかけをもう少し詳しくお教えください。

坂本
 尼崎市主催のソーシャルビジネスプランコンペに参加したことが大きい。自分の子どもが困っており、周りの人も困っている。自分はライターであり教えることができた。けれどもボランティアベースで続けていくのは厳しい。ビジネスプランコンペに応募して、起業家のみなさんが親身に相談に乗ってくれて、応援をいただいたので起業しようと思った。

中原
 性格だからか。中学2年生の長男が小さかった時に、自転車に乗せていろんなところに行った楽しい思いを双子たちにはさせてあげられないという思いから、無いなら作ることに。『究極の物欲』と呼んでいる。行動していて楽しいし、量産して困っている皆さんと自由を共有したいという思いが強い。

長村
 私のところの株式会社栄水化学は、「無いなら、まずうちでやったらええねん」という会社。阪神淡路大震災を経験し、当時、家も仕事もなくなった。後悔したくないという思いは強いと思う。

藤村
 「やったらええやん」という性格は同じ。私の子どもは1人目はアトピー、2人目、3人目は発達障害がある。自分の生い立ちも含めて、自分の人生はずっと「外れ」だと思っていた。しかし33歳のある日、「これって当たり?」と思えた。世の中にたくさんの人がいるなかで、なんの理由もなく、私だけこんな目にあうはずがないから。これは全部自分のキャリアになると考えを変えた。

能島
 起業する不安はありませんでしたか。

藤村
 当初は起業と思ってなかった。いつの間にか起業してたらしい。ワークショップで、友達と楽しみながら、いろんなものを作って、売っていた。でも、いつの頃からか、これって税金を払わないといけないんだと知った。それが起業だった。

長村
 以前、勤めていた会社では、契約交渉を重ねるのは自分であっても、最終の印鑑をつくときは男性がいないと…といった場面に多々遭遇しており、女の力をバカにするなと思っていた。時代も変わり、女性でも頑張ればできる世の中になり、やるときはやらないといけない。不安はなかった。

中原
 平成23年から双子が乗れる自転車が欲しい欲しいと活動しているときに、メーカーさんに、「好きでやってるの?」と聞かれた。ボランティアだと話を聞いてもらえない。作って欲しいと話を聞いてもらうために覚悟をもって起業した。
 プロの方々に散々、「今まで、そういう自転車が無いということは問題があるか、ニッチすぎる」と言われたのは不安だったが、双子の保護者の声が届いていないだけだと思う。

坂本
 起業家というと違和感がある。学校でできないことをライターという経験を活かして協力している。起業という意識をあまり持たず、作文の先生として始めたというところ。

能島
 起業して、苦労とか大変だったことはないでしょうか。

坂本
 ライターは自分1人でできるが、周りの方々と組むと時間がかかる。あとは家族の理解。当初は仕事と家事の両立が大変で睡眠時間がない状態が続いた。今は子どもが少し大きくなったので、イベントに一緒に参加してくれたり、家事を手伝ってくれたりしている。

中原
 家のことが大変なのは同じ。また、自転車について全くの素人で、自転車業界、法律、自転車の作り方、メンテナンスなど何も知らずに飛び込んだものだから、大変苦労した。あと、ふたごじてんしゃファンのメンタル面のフォローをしている。移動問題の背景にそれぞれの家庭の生活課題がある。一緒に支えてくれているメンバーが大変かも。

長村
 苦労したと思っていない。看板を背負ってしまった半年くらいは荷が重いと思ったが、それもそのときだけ。

藤村
 洋裁の経験のない保護者を雇用して、一人前に育成していくのが大変。今はプロの洋裁師が仲間になり、ランキング制度を作って指導してくれている。現在の制作メンバーは全員で24名。

能島
 行政に対する要望、注文、後輩への励ましなどあればいかがですか。

藤村
 障害者の雇用には行政からの補助が出るが、障害者の保護者に対するサポートはない。それはできないのか。
人のためと思ってやるとしんどくなる。人の役に立つという生きがいができて、自分が一番救われていると思うと楽しくなる。周りに貢献していくという感覚。

長村
 尼崎の特に南部の中学校の制服で使っていないものをお持ちの方は、引き取らせて欲しい。皆さまもフェイスブックでシェアを。
 なんでもできる世の中になってきた。チャレンジしてみる。自分の人生の選択を他人のためでなく自分のためにすること。後悔しないように。あかんと思ったらやめればいい。

中原
 全国初のふたごじてんしゃの事業に支援を。
 何かをやりたいと思って発言した時に、最初は小さなコミュニティでの意見と思われるかもしれないが、声を出すことが大事。ダメだと思えば辞めればいい。

坂本
 子どもたちのためにもっと頑張りたいと欲が出てきてる。この活動を広げていきたい。自分が困っているように周りの人も困ってると知ると、自分ごととなり、仕事になるのかもしれない。

能島
 尼崎市がソーシャルビジネスに着手した4年前には、こんな起業家が現れると想像できなかった。
 市内には、起業まではいかなくても、困りごとをなんとかしたいという方がまだまだ沢山いると思われる。
 そうした方々への支援が重層的に重なることで、新しいソーシャルビジネスが生まれてくると期待して、パネルディスカッションの締めとさせていただく。


「尼崎のソーシャルビジネス~この5年を振り返って~」チラシpdf