「笑うケンシン」というちょっと不気味なタイトルにもかかわらず、30人を超える人が集まった39回目のオープンキャンパスのテーマは「ケンシン」です。健康診断、定期検診、どちらも苦手な人は多いかもしれません。今回は4人のゲストから、まちの人たちの健康を守る挑戦を聞いてみました。
この日はなんと福井県福井市からも多くの参加者がありました。みんなの尼崎大学と同じように、地域ぐるみの大学ごっこに取り組む「ふくまち大学」のメンバーが参加して、尼大生との交流が実現しました。なんと「ふくまち大学」には「まちの健康学部コミュニティナース学科」なる活動があるんですって。
ケンシンについてどう思う?
まずは参加者同士で小さなグループになって、自己紹介とともにケンシンにまつわるエピソードや思い出を話し合いました。みなさん、健康診断や定期検診にはなんだかモヤモヤすることも多い様子。行かなきゃいけないけど、どうにも腰が引けてしまうようです。
市の特定健診が解説されたパンフレットが配られても、種類や条件が複雑で「わかりにくい」という声が会場からはちらほら聞こえてきます。さらにここ数年はコロナ禍での受診控えもあってか、特定健診の受診率が下がっているそうです。
この状況を改善すべく、尼崎市の検診受診率向上担当の保健師・西山尚冴(しょうご)さんは、PRサイト「健診すずめ通信」や「健診すすめ隊」のイメージキャラクター「すすめスズメ」とともにさまざまなPRに取り組んでいますが、会場内の知名度は残念ながらふるわず…。
その成果としてのがん検診受診率の実態は、というと兵庫県下でワースト5に入る厳しい状況なのです。「がん検診に行ってもらうためには、早期発見につながるようある程度の恐怖心に訴える必要もあると思うのですが、過度なメッセージにならないようにバランスを保つのが難しいんです。行政からの呼びかけはどうしてもふわっとしてしまう」と、西山さんはがん検診の啓発活動の難しさも感じています。
それなら、と全国各地の啓発ポスターを見てみようと紹介されたのがこちらです。
…うーん、たしかに啓発って難しいですね。そんな中「ところで検診結果ってどうしてます?」という話題に。尼崎の杭瀬中市場で食堂をしながら「コミュニティナース」という活動に取り組む福田祥子さんは、「うちにはお昼ごはんを食べるついでに結果を持ってくる人がいるんですよ」と教えてくれました。なるほど、検診を受けた後のアプローチにヒントがありそうですね。
コミュニティナースの役割
この「コミュニティナース」が、今回の福井と尼崎をつないだキーワードのようです。福井市のふくまち大学からお話ししてくださったのは加藤瑞穂さん。看護師として大学病院で勤務ののち、仲間とともに訪問看護ステーションを設立し末期がんや難病、看取りなど多くのケアを必要とする人たちに寄り添ってきました。
そんな中「看護師はなぜ病気になってからしか出会えない存在なのか」という問いに気づき、奈良県奥大和で開かれた「コミュニティナース実践講座」に参加しました。そこで多くの仲間と出会い、もっと暮らしの中で身近に看護師がいる環境を目指して2020年にコミュニティナースの実装を試みるカフェで実地を経験。今年9月からは独立しフリーの看護師として、がんサロン「がんコミ!」の代表やこどもホスピス、社員の健康を考える企業からの相談支援などその活動領域を病院や医療機関の外へと広げています。
そして、尼崎でもコミュニティナースとして活動する人がいます。福田祥子(しょうこ)さんは、伊丹市にある総合病院で看護師として働いていましたが、尼崎のお寺で開かれた「カリー寺」なるイベントにスタッフとして参加するうちに「コミュニティナース」という考え方に出会い、加藤さんと同じ奈良奥大和の実践講座へ。その後、20年勤めた病院を退職し、杭瀬中市場で「好吃(ハオチー)食堂」で女将としてお店に立つようになりました。
店先には、血圧計が置かれています。まちの食堂でランチついでに血圧をはかったり、健診結果をみながらビール片手に雑談したり、その店内はまちの保健室さながら。「看護師のいるお店というと、はじめはみんな叱られるんじゃないかと思われるんです。そんなことはまったくなくて、私は一緒にできることを考えるだけですよ」という福田さん。市場のお店にとどまらず、キューズモールや地域のイベントでも「コミナスよろず相談所」を開くなど精力的に活動を展開しています。
「看護師じゃなくてもだれでもコミュニティナースになれるんですよ」という福田さんに、加藤さんが深くうなずきます。医療の専門家だけでなく、地域で暮らすご近所さんの健康を気づかいあう関係性のきっかけが、コミュニティナースというはたらきなのかもしれません。
がん経験者のコミュニティも!
続いて、がん経験者の立場から尼崎生まれの渡辺愛さんの発表です。ご自身の乳がん経験から、同じ経験を持つ仲間と交流するコミュニティ「Reborn.R(リボンアール)」を創設された渡辺さん。9人に一人が罹患するという乳がんに「まさか自分がなるとは思わなかった」と当時を振り返ります。
宣告を受けたショックでひたすらネットで調べた経験から、実際の先輩の声を集めようとWebアンケートを実施。「みんながどんなことに困っているかがわかって、見つけたニーズからどんどん新しい企画が生まれるんです」と言います。
そこから生まれた企画が「乙女温泉」。「手術の後はお風呂屋さんに行きにくくなった」という声を聞き、尼崎の銭湯「蓬莱湯(ほうらいゆ)」に相談し入浴イベントを開催。お店を貸切にして、女湯のスペースでは経験者、男湯のスペースを使って乳がんに関心がある女性にも参加してもらい、お風呂の後に語り合うイベントが話題となりました。これまでに全国各地で35回も開催されるほどの広がりを見せています。
受診率をあげるには
最後に「ケンシンどう増やす?」のアイデア大会に、参加者からは「学校教育の中で健康診断の大切さをきちんと伝えてはどうか」「受診率が上がれば医療費が下がることのメリットをもっと具体的に提示できないか」「病院の怖いイメージを払拭するためにケンシンツアーと称した旅行を企画しては?」といった意見が寄せられました。ツアーはなんだか楽しそう。
実は保健所では受診率向上のために、対象となる市民に電話をかけて呼びかけるローラー作戦まで展開しているのだとか。また保健師による、健診後に結果表の詳しい見方の説明、改善が必要な方へのサポートなどの相談事業もしているようですが、あまり知られていないのが実情です。
異なる立場からのケンシンへのアプローチを聞き「これまでは行政だけでなんとかしようとしていたけれど、コミュニティナースやReborn.Rの活動ともっとつながっていきたい」と刺激を受けた尼崎市保健師の西山さん。
ひょっとすると彼女らの活動と保健所の取り組みの接点がもう少しだけ増えれば、「ケンシン行ってみたら」というおせっかいが飛び交い、じわじわと受診率の向上につながるかも?という可能性を感じたオープンキャンパスとなりました。
最後に「自分は大丈夫かな」「健診うけてみようかな」と思われた方は、ぜひこちらからお申込みください。