「私が小学生の頃は…」と大人たちが振り返る、なつかしい学校風景は、今やすっかり変わってきている様子。そんな小学校の最新事情を知るため、みんなの尼崎大学のオープンキャンパスvol.38「小学生からやりなおす」に参加し、丸一日実際の小学校で過ごしてみました。
【登校】「小学生からやりなおす」のはじまりです
朝8時、杭瀬小学校の東隣にある杭瀬公園に参加者が集まり始めました。年齢層は幅広く30歳代から70歳代まで。ご近所の方もいれば、市外から参加された方も。全員の受付を終えると、児童と同じように集団登校でいざ学校の門をくぐります。現在の校舎は2008年に建て替えられたもの。約15年経った今も、まだまだ新しさが感じられます。
【朝学習】プリント学習でスタート!
教室に入り、着席すると早速「朝学習」がはじまります。担当してくださるのはなんと校長の小嶋先生です。
「では、これから低学年が毎朝やっているプリントをやってもらいます!」と、キビキビとした説明が始まりました。A3用紙にビッシリと並んだ問題の多さと制限時間1分でどこまでできるかというプレッシャーもあり、教室にはテスト本番のような緊張感が走ります。
このプリントは「MIM(ミム)」と呼ばれるトレーニングで、児童の読み書きについての弱点を早期に発見し、つまずきをフォローするための教材だそうです。プリント終了後は、緊張感から解放されて「子どもたちも朝から頑張ってるねー」と、感心する声が聞こえてきます。
【1校時】いきなり教室を飛び出す教頭スペシャル授業
いよいよ、チャイムとともに1校時のスタートです。担当してくれるのは、教頭の江形(えがた)先生です。江形教頭は、理科の科目で尼崎市マイスター教員(※)に認定されているスペシャリスト。プライベートでもネイチャーゲーム指導者として活動する自然好きの先生です。
※教科指導等において優れた教育実践を進める教員として教育委員会から認定された者
「これから目玉のシールを配ります。これを使って面白い顔の表情になりそうな、木や葉っぱを見つけて遊んでみましょう」と参加者を校庭へ連れ出してくれました。
校舎西側の一画にある植え込みにはさつまいも畑や、ビワ、ナシ、カリンなどの実がなる木も植えられています。
参加者たちは目玉のシールを二枚持ち、面白い顔になりそうな木や葉っぱを見つけて、自分のスマートフォンで写真を撮ってみます。面白い顔ができたら嬉しくて、近くの参加者を呼び寄せて見せ合いをすることも。
そんな楽しい時間を過ごして教室に戻ります。「子どもたちの理科離れが起きていると言われますが、興味ある気持ちを後押しできるよう、もっと面白く教えることができる。その入り口としてネイチャーゲームがあればいいな」と話す江形教頭。実は、自身も小学生のときの先生との出会いが、今の仕事につながっているそうで、改めて教師の影響力の大きさを感じさせられました。
【2校時】小学校で英語、はじまっていました。
「Good morning!」と笑顔で元気よく登場したのはJTE(英語指導補助員)として杭瀬小学校の教壇に立つ小松先生。2020年より、小学3年生からの本格的な外国語学習として、英語を専門に教えるALT(外国人外国語指導助手)とJTE(英語指導補助員)による授業がはじまっています。
この日覚えるフレーズは、出身地をたずねる「Where are you from?」。教室を動き回り、ほとんどすべての人と言葉を交わし合うという忙しさに、ちょっと息が上がります。「色々体験してもらおうと6年生の授業3回分を今日は1回に詰め込みました」と小松先生が考えた特別プログラム。なかなかハードでしたが、ライティングよりスピーキングで外国語に親しむ、小学生ならではの授業を体験できました。
【3校時】校内授業参観ツアー
続く3校時は、小嶋校長の案内で全学年の授業風景を参観しました。
3階建の校舎の中心には、吹き抜けになった「光庭」と呼ばれる中庭があり、それを取り囲むように配置された教室は太陽の光が入るように設計されています。各学級の廊下側は「ワークスペース」と呼ばれ、廊下というより教室の延長のような広々とした空間。
広い方が活動しやすい図工の授業などは、教室からワークスペースへと机を広げて使うそうです。こんなのびのびした気持ちいい環境で、学校生活を送れる小学生がうらやましい。
ぞろぞろと押しかけた私たちの参観にも、子どもたちは動じることなく授業が進みます。「今の子どもたちって、自ら手を挙げて発表も積極的ですね」と、小声でささやく参加者たち。そうそう、次の発表者を先生ではなく子どもが指名している場面も印象的でした。
【4校時】コミュニティ・スクールって?
4校時は、参観の感想や質問の時間が設けられ、最近の小学校事情について小嶋校長が丁寧に答えてくれました。さらに杭瀬小学校で今年からはじまったコミュニティ・スクールという新たな取り組みについては、地域を代表して礒田雅司さんも教えてくれました。
コミュニティ・スクールとは、「地域とともにある学校づくり」を目指して、校長先生や保護者、地域の方などでなる学校運営協議会を立ち上げ、学校と地域の方々が力を合わせて学校運営に取り組む仕組みです。「杭瀬小は15年ほど前に校舎を新築する時の設計段階から地域の人たちが参加してきたんです」と地域との結びつきが強いことを礒田さんが教えてくれました。
さらに「不登校って増えていますか?」「オープンな教室の使い心地は?」「算数の授業が少人数だった理由は?」など寄せられる質問の数々。不登校は増えている傾向のようですが、学校に来ていない場合でも、担任の先生から必ず自宅へ連絡を入れ「先生はちゃんと見ているよ」というメッセージを伝えようとしているのだとか。「杭瀬の子どもは、担任だけじゃなく学校全体で、また地域の人も含めてみんなで見ていこうと思っています」と小嶋校長。
6年生の算数の授業では、「教科担任制」と「少人数授業」を組み合わせた「兵庫型教科担任制」が導入されており、子どもたちの得意や苦手にあわせたきめ細かな指導方法を取り入れているとのことでした。複数の教員の関わりや少人数指導により、子どものやる気やつまずきをフォローする工夫だったんですね。
【給食】いよいよ、お楽しみ。おいしい給食
午前の授業をすべて終え、ランチルームへ移動します。給食室近くにあるその部屋は、児童がいつもの教室と気分を変えて給食を楽しむために作られています。各学級が学期に1回程度、順番に使っているそうです。
さて、給食係はエプロンと三角巾を身に着け、給食をもらいに給食室へ。すべて校内調理されている今日のメニューはビビンバ。参加した大人世代はこんなオシャレなメニューを体験したことがなかったようで、今どきの珍しい献立をひと口ひと口丁寧に味わったのでした。
給食のあとは、昼休み。お天気も良く、校庭で遊ぶ子どもたちにつられて、参加者も
ボール遊びや日向ぼっこに出てきます。
【終わりの会】掃除の後は今日の感想を作文に。
プログラムも終盤。その日使わせてもらった視聴覚室とランチルームをきれいに掃除した後には「最後に今日の感想文を原稿用紙に書いてくださーい」という課題が待っていました。久しぶりの原稿用紙に、頭をポリポリかきながらも、みんな集中して書き上げます。「興奮で眠れず早起きして登校した」、「今日一日、楽しすぎて全然疲れてない」など、参加者それぞれ充実した体験だったようです。
そしていよいよ下校。「校門が混雑しないよう、私にじゃんけんで勝った人から帰ってください」と、小嶋校長の遊び心ある対応に、最後まで大盛り上がりで学校をあとにしました。
こうした特別企画は今回限りでしたが、市内のすべての小学校には、地域の方が学校と連携して、子どもたちの成長を支えるための様々な取り組みを実施する地域学校協働本部というものが設置されています。学習支援や登下校の見守りなど、地元の学校を支えるボランティアさんも数多くいらっしゃいます。ご興味のある方はスクールサポーター制度をご覧ください。
これから学校と地域がともに歩む可能性を強く感じた1日でした。