美味しい尼崎の給食ができるまで
大人になってから、子どものころ食べた給食を思い出すことってありませんか?「牛乳が瓶だったよ」「食パンだった」「炊き込みごはんが美味しかったなぁ」「冷凍ミカンって今もあるのかな?」などなど。地域や世代によって移り変わる学校給食。いまの給食はどんな人たちの手で、どのように作られているのでしょうか。尼崎市立立花西小学校へ取材へ伺いました。
給食室で働く人たち
給食業務に直接かかわっているのは栄養教諭の長岡千夏先生と、調理師さんたち。立花西小学校では7名の調理師さんが530人分の給食をつくります。
栄養教諭は、調理師さんと十分な事前打ち合わせを行うなどして、衛生管理や調理業務が適切に遂行されるよう確認する仕事を担いますが、最も重要な仕事は献立づくり。
尼崎市では食材の調達や食中毒の拡散予防などの理由から市内の小学校を4つのブロックに分け、ブロックごとに献立を作成しています。担当の栄養教諭が作成した月別の献立を、ブロック内で検討し、完成させます。600種類以上の献立の中から「予算内で栄養バランスのよい組み合わせを、材料や味付け、調理法の偏りがないように」考えるのは大変だそう。
美味しい給食をつくるために
ここで調理師さんのエプロンにご注目! 下処理室では魚・肉の担当者は水色、それ以外はオレンジ色とエプロンの色が分かれています。また、食中毒予防のため、下処理担当の人は、それ以外の業務には携わらないことになっています。
部屋を移動したり、触る食材が変わったりするたび、調理師さんたちは入念に手洗い。多いときは一日20回以上、手を洗うこともあります。野菜は必ず3回洗う決まりです。土や虫、異物を洗い流し、傷んでいるところも取り除きます。
他にも、
・果物以外の食材は生で出さずに全て加熱する(和え物に使うゴマや海苔、アーモンドまで!)
・中心部まで加熱できているか、温度計で確認する
・食中毒菌が繁殖しやすい温度帯で食材を保管・調理しない
など、冷凍・冷蔵保管や加熱調理時の温度管理にも注意を払っています。
給食室の最新機械!
最初に出来あがったのはしめじごはん。具材を丁寧に混ぜ合わせたあとは、クラスごとに配缶。給食の時間まで保温箱で保管して、あたたかい状態を保ちます。
真空冷却機は、庫内を真空にし、気化熱を利用して温度を下げる機械です。真空にすることで、急速に冷却することができます。これにより、食中毒菌が増殖しやすい温度帯を短時間で通過させることができ、水分も減るので、具材の歯ごたえが残り、味も染み込みやすくなります。この機器を導入したおかげで、サラダや和え物が格段においしくなりました。
スチームコンベクションオーブン、通称スチコンは、蒸気を加えながら焼き調理ができる機械です。おかかあえの糸かつおは蒸気で加熱。焼き物の場合は熱風で加熱します。どの料理もムラなく、ふっくらと仕上がるのが特徴です。スチコンの導入で、焼き物の献立も可能になりました。
できるだけ、手作りの給食を
今日の主菜はあじのフライ。塩こしょうで味をつけ、一枚一枚衣をつけて丁寧に油の中へ入れていきます。揚げ終わったら、クラスごとに数を数えながら、食缶へ入れていきます。重なると揚げたての蒸気がこもりべたつくので、そうならないよう、食缶の中へ立てて配缶します。おかげで、時間がたっても外はカリカリ、中はふわふわで美味しいのです。
ちなみに、カレーやシチューも市販のルーは使わず、小麦粉から作っています。子どもたちに大人気のきなこパンも給食室でパンを揚げ、きなこをまぶしているそう。
どれも大変な作業ですが、「できるだけ温かいものは温かく、冷たいものは冷たく、一番美味しい状態で食べてもらいたい」という想いが詰まっています。
この他にもお味噌汁は煮干し、洋風や中華のスープでは鶏ガラ、煮物では昆布といったように献立ごとに出汁を変えます。手間をかけて出汁を取ると、うま味や香りも出る上、塩分を控えめにできるのです。
給食に想いをのせて
給食室は必要以上の会話は無くても終始、和やかな雰囲気。流れるような動きで作業が進みます。
「作業工程表を掲示しているので、作業に迷うことはありません。連携がスムーズなのは、以前、同じ学校の給食室で働いていたメンバーが多く、お互いの動きが頭に入っているからだと思います」と調理師さん。
給食ができあがると、実は子どもたちより先に食べるのは、「検食」をする校長先生と教頭先生です。「検食」では異物混入がないか、味つけや温度、切り方が適切かなどを確認します。「いつも美味しいんですよ」と校長先生。日々つけている記録も、衛生管理の一部として重要な役割を担っています。
できあがった給食を取りに来る子どもたちに、調理師さんたちが「熱いから気をつけてね」「今日は行事食だよ」と声掛けをすることも。子どもたちからの「いただきます」「ごちそうさま」や「美味しかった!」の声を聞くたび、「明日も美味しい給食をつくろう!」と励みになっているそうです。
午後になると、明日の給食の材料を届けに業者さんたちがやってきます。業者さんが入ることができるのは、食材の受け渡しをする検収室の入り口まで。ダンボール箱は持ち込まず、食材だけを専用の容器に入れ替え、虫や異物の侵入に気を配ります。
「大人になっても思い出すことのある給食。そんな誰かの記憶に残るような給食にかかわりたいと思って、この仕事を選びました」と言う長岡先生。
「自分が考えた献立を美味しいと言ってもらえたときに、やりがいを感じます。苦手な子が多い食材もカレー味にするなど工夫をしているので、ひと口からでいいのでチャレンジしてほしいですね」
愛情をこめ、工夫をこらした給食はきっと子どもたちの記憶に残ることでしょう。