阪急武庫之荘駅の北口を出て西へ、駅から15分ほど歩いたところ。住宅街の中にある田んぼに面し、間口がドーンとフルオープンな「倉庫」があります。入口には実物大のアルパカのぬいぐるみが置かれ、広い店内にはテーブル、ソファがゆったりと置かれています。アルパカ商品やニュージーランド雑貨、カフェやバレエスタジオまで併設。代表の井野知(さとる)さんと母・悦子さんに、『Soko』と名付けた店舗から始まった、新しい武庫之荘ライフについて聞かせてもらいました。
神戸から武庫之荘へ
井野さん一家の家族構成は、父、母、姉、そして知さん。知さんが5歳の頃、神戸から武庫之荘へ。母の悦子さんによると「私が育ったのはJR尼崎近く。しばらく暮らした神戸も良かったけど、やっぱり尼っ子に戻りたくて」。それ以来、ずっと武庫之荘エリアで暮らしています。実は悦子さんは引越し好き。「言うのは恥ずかしいけど…、武庫之荘内で10回は引越しているかな」。父の優さんも「単身赴任を終えて戻ったら、違う家だったってこともありましたよ」と、笑います。
実は地域とのつながりは少なかった
便利な駅前マンションに暮らしたり、犬を飼うため一軒家に暮らしたりと、ライフスタイルに合わせて、軽やかに住み替えてきた井野家ですが、実は地域とのつながりは少なかったといいます。
悦子さんは二人の子どもが小さいうちから、東京のアパレル会社に籍を置き、販売員としての仕事をしてきました。「主に関西の出店時の仕事でしたが、遠方への出張もありました」と、アパレル販売員として精力的に働き、「尼崎に長くは住んでいるけど、知り合いは少ない」という生活でした。
アルパカをこよなく愛する母の想いを汲んだ起業
自主性を尊重してくれる両親のもとで、のびのび育った知さんは、かねてより「何かで起業したいな」と、思っていたといいます。そんなとき、悦子さんから相談されます。長く販売に携わり、その魅力にすっかり惚れ込んでいたアルパカ製品の取扱いを会社が辞めること、何とかアルパカ製品に関わり続ける方法はないかというのです。
それを聞いた知さんは、「この商材でやろう」と閃いたそう。長く母が愛情を注ぎ販売ノウハウを培ってきたもの、まだまだ世の中にその魅力が知られていないアルパカ商品を軸に事業を立ち上げよう、と心が決まった瞬間でした。
2013年、武庫之荘の駅前のマンションの一室を借りて「IMA Japan」という法人を立ち上げ、「PATRI ALPACA(パトリアルパカ)」というブランド名で、アルパカ製品を販売する事業を始めました。その頃、尼崎の企業に長く務めた優さんも62歳で早期退職を決め、事業を支えることに。さらに、武庫之荘でネイルサロン経営をしていた姉の知枝さんも加わります。家族4人が集まり、事業をスタートさせたのです。
アルパカ製品の魅力とは
「PATRI ALPACA(パトリアルパカ)」では、主にオリジナルデザインのストールの企画と販売をしています。それらは、関西圏のデパートで開催される期間限定のイベント出店で販売しているそう。「商品を直接手に取り、納得して購入していただきたいから」と、通信販売はしないというのがこだわりです。
ニット製品では、ウールやカシミヤといった羊毛を原料としたものはよく知られていますが、アルパカはどんな特徴があるのでしょうか。
悦子さんは、語ります。「暖かさはもちろんのこと、繊維の強度も強く、毛玉もできないし、静電気も起きません。匂いも付かないし、ダニや虫食いもなく、一生ものとして使えるものなんです」。そのうえ、「お手入れは自宅で水洗いだけで大丈夫です」いうのです。「これは私が30年愛用しているものなんですよ。ぜひ触ってみて下さい」と、渡されたストールは、確かにすごく柔らかくて、くたびれた様子もなく、とても30年使ってきたものとは思えません。
国内のアルパカの幸せのために
アルパカ製品を愛する悦子さんにとって、アルパカという動物自体も可愛くて仕方がありません。関西でも動物園などアルパカを飼育しているところでは、毛が廃棄されていることを知り、毎年毛を刈る時期に引き取ることに。アルパカ一頭ごとに毛洗いの処理をし、それを商品にして施設に届け、販売してもらうことにしました。
今では、五月山動物園や大阪府立農芸高校といった5つの施設とコラボ商品を作るつながりもできました。販売した売上は、アルパカの餌代として還元される仕組みになっているそうです。
作るところから始まったつながり
今年3月、縁あって元ガス会社の倉庫を借りられることになりました。2階建ての広いスペースを生かして、アルパカ商品の販売だけでなく、カフェやワークショップなど多彩な活動ができそうな物件との出会いでした。
オープンまでの3カ月間、ほぼセルフリノベーションで、改装工事の作業にかかり始めると、近所の子どもたちが「ここ、何ができるん?」と、興味津々に覗いてくれるようになりました。2階部分の壁塗りには、総勢10人くらいの子どもたちが、入れ替わりで参加してくれたそう。
オープン後も、その子どもたちはよくSokoに遊びに来ています。子どもたち自ら「はたらきやさん」とチーム名を付け、店内のフリースペースを使って本やゲームなどで遊びつつ、店のお掃除や接客までもしてくれるそう。「いつか学校では教えてくれないことが学べる、子供経営塾をやってみたいと思っているんです」と、知さんは教えてくれました。
Sokoからつながる、広がる
今はSokoのすぐ近くのマンションへ引越してきた悦子さん。「子どもたちや地域の人と関わりのある毎日を楽しく過ごしています」と、笑顔が絶えません。「最近、『実はずっと引越しを考えてたけど、この場所が楽しくて引越すのを辞めたんです』と言ってくれるママさんがいました。そんなことを言っていただけて、本当に嬉しくて」。
これまでの長い武庫之荘暮らしのなかで、もっとも楽しく暮らす井野ファミリーが営むSokoという場所は、どうやらご近所の人にもその楽しさが、しっかり浸透しつつあるようです。ニュージーランドの田舎の倉庫のイメージで作ったというSokoには、今日も心地良い風が吹いています。
https://www.imajapan-co.com/
Instagram:soko_byimajapan
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