武庫之荘にあるカフェ「パイナワーフ」の店主・多田銀次郎さんは、生まれも育ちも出屋敷。就職を機に尼崎を離れたものの、10年ほど前に戻り、フォトグラファーの妻と子どもの3人で、ごきげんに暮らしています。賑やかな阪神尼崎の西隣、尼崎の中でも下町のイメージが強く残る出屋敷は、駅前広場がリニューアルし、新しいお店が続々とオープンするなど、ここ数年でまちの雰囲気が変わりつつあります。そんな出屋敷を家族で歩いた多田さんのレポートをお届けします。
デヤシキで朝食を「TERRAS BAKERY / COFFEE」
小学生時代の通学路でもあった、自宅から駅までの道のりを家族3人で歩き、まずは駅前広場北東すぐの「TERRAS BAKERY / COFFEE(テラス ベーカリー/コーヒー)」でモーニング。クロワッサンやお惣菜パンなど種類豊富な焼きたてパンを提供するこのお店は、2022年にオープンするとすぐに、おしゃれな店構えとこだわりのパンで近隣のママさんたちの心をわしづかみにしました。当時妊娠中だった妻もオープン当初日の列に並んだといいます。
店内にはパンの優しい甘い香りが漂い、かまどがそのまま伸びてきたようなディスプレーが印象的です。パンを選んでいる間にも、焼き上がりを知らせる鐘の音とともに奥から焼きたてのパンが次々と運ばれてくるので、思わず「これも、それも」とトレイに載せてしまいます。
「TERRASのテラスで」といきたいところでしたが、この日は少し肌寒かったので、店内のテーブル席でコーヒーと一緒にいただきます。子どもにトレイを引っ張られながらなので優雅な朝食とはいきませんが、それもまたよし。のんびりとしたモーニングタイムを過ごせました。
出屋敷の水辺を楽しむ?!「YOMORI」
朝食を食べた後は、西へ向かい蓬川緑地へ。妻の妊娠中に夫婦でよく散歩したこの川沿いは、今も妻と息子の朝の散歩コース。電車が見える公園の遊具が息子のお気に入りだそうで、自分も小さいころに、ここで電車の絵を描いていたことを思い出します。
川沿いを北へ5分ほど歩くと、2023年10月にオープンした尼崎の水辺を楽しむための施設「YOMORI(ヨモリ)」があります。
YOMORIは「AMAGASAKI CANAL SUP」代表の岸本さんが運営しているSUP(サップ)の艇庫で、シャワーや更衣室も完備。SUPとは「スタンド・アップ・パドルボード」の略で、少し大きめのサーフボードの上で、1本のパドルをかきながら水面を進むスポーツ。週末にはSUP体験会(不定期)も開催していて、体験者曰く「蓬川や尼崎運河は流れも少なく初心者でも楽しみやすい」とのこと。
体験会の他に、春には蓬川沿いに咲き誇る桜を水上から楽しむ「お花見SUP」、冬にはサンタクロースに扮して清掃活動をする「サンタSUP」なども開催。私の幼少期には尼崎の川や海など水辺で遊ぶなんてイメージできませんでしたが、最近では水質も改善し、環境学習や運河クルーズといった場として活用されるなど、水辺との関わり合いも変化してきているようです。
海に面していない栃木県で育った妻は「どっちかといえば私は川派かな」と言っているので、息子が大きくなったらSUPを家族みんなで楽しむのもいいなと、今から期待しています。
本格フレンチをテイクアウト「ガサキックス ラボ GASAkicks.Lab」
最後は、本格フレンチを気軽に楽しめるデリカテッセン「ガサキックス ラボ」に立ち寄りました。
オーナーシェフの藤村さんはホテルでフレンチシェフとして腕を磨いたあと、食事がおいしいと評判の介護施設に勤めつつ和食の名店でも修行。さらに出張料理人として多いときには年間100件もの予約を受けていたという筋金入りの料理人です。
そんな藤村さんが「地元尼崎で受け入れられるフレンチを」と2022年にオープンしたこのお惣菜屋さんには、近隣の人はもちろん、出張料理人時代のお得意様も藤村さんの味を求めてわざわざ出屋敷まで買いに来られるそう。
「アンチョビポテトとくんせい煮卵」はパサつかずしっとりとした食感なのに食べた瞬間ほわっと薫製の香りが口の中に広がります。卵はいぶすと火が通りすぎるため、自家製の薫製オリーブオイルで香りづけしているそう。
「ガサキッシュ」は、仕上げのソースに「尼の生醤油」を使うなど、フランスの郷土料理ながら和のお惣菜感もあり、あれ?昔から食べてたっけな?と不思議な感覚に。
夫婦そろって特に気に入ったのは「パテ ド カンパーニュ(茶美豚のテリーヌ)」。ごろっと入った豚肉、豚トロ、鶏のレバーでお肉感たっぷり。「実はご飯に載せて食べるのもおいしいんですよ」とこっそり教えてもらったのでした。
料理が得意な妻も「味付けのバランスが絶妙」と舌を巻く藤村さんのお惣菜は、これからの子育てでも強い味方になってくれそうです。「出屋敷の思い出の味は?」と聞かれたときに「うーん、フレンチかな」と息子にはかっこよく言ってほしい…、な~んて。
ちなみにこれまで聞かれたことがないのですが、私の思い出の味は、かつて出屋敷リベルの地下1階にあった尼出(あまいで)の「お好みスティック」です(わかる人いますか?)。
今回は出屋敷エリアの新しい3カ所のスポットを巡りましたが、どのお店もまちで暮らす人を思う下町らしい温かみを持っているように感じます。商店街でもお店でも「あら、今日は家族でお出かけ?ええねー」といろんな人が声をかけてくれます。このまちに来た当初は、その距離感の近さに少し戸惑っていた妻も、今では子どもの成長を一緒に見守ってくれる存在として心強く思っているようです。
子どもが大きくなる頃には、このまちはどんな景色になっているのか?まちの変化にわくわくしながら、これからもごきげんに過ごしていきたいなと思います。
(プロフィール)
取材:(文)ただ・ぎんじろう、(写真)ただ・えみあ
1985年に尼崎で生まれ、尼崎で育った銀次郎さん。大学卒業後、電機メーカーへの就職を機に尼崎を離れ栃木県へ。栃木県で妻のえみあさんと出会う。会社を退職し2015年に帰郷。ほどなく、武庫之荘にハワイアンカフェ「パイナワーフ」 をオープン。妻のえみあさんはフォトグラファーとして活動中。
TERRAS BAKERY / COFFEE
YOMORI
ガサキックス ラボ GASAkicks.Lab