スズキナオが尼崎「軒先ホルモン」にほろ酔い加減で迫ってみた

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 酒場めぐりと平日昼間の散歩が趣味というライターのスズキナオさん。以前、尼崎の精肉店で食べた、軒先の鉄板で焼かれたホルモンがすごく美味しかった記憶が残るといいます。その後、詳しい人に教わると、尼崎では“軒先ホルモン”として親しまれているとのこと。それを食べ歩き、それぞれの違いを確かめてみたい。そして、それが尼崎に集中している理由にまで迫りたい……と、ある日の昼下がり、お酒片手に美味しいホルモンを求め、尼崎のまちをスズキさんに巡ってもらいました。

尼崎には“軒先ホルモン”が味わえるお店がたくさんある

 取材当日、軒先ホルモンが味わえる店を案内してくれる「AMANISM」編集部クルーと阪神電車の出屋敷駅前で合流した。駅からほど近い商店街・サンロードへ入るとすぐ、第一の目的地である「栄屋」が見えてきた。


サンロードの栄屋の店頭

 見るからに新鮮そうな豚肉や牛肉を売る精肉店なのだが、なるほど軒先の一角に鉄板が置かれ、ホルモンが炒められている。店主の大城徳幸さんと奥さんの大城光子さんを中心に、アットホームな雰囲気で経営されているお店である。

アーケードの下で「栄屋」のホルモンを味わう

 早速、「ホルモン焼」を購入させてもらう。ちなみに1人前が100gで200円と非常にリーズナブルだ。買ったホルモンは持ち帰ってもいいし、鉄板の脇で食べて行ってもいいのだという。


栄屋のホルモン

 添えられた爪楊枝の先で刺し、早速食べてみる。醤油ベースのタレで味付けされているようだが、私の勝手な先入観に反して、あっさりしているように感じる。強烈なタレの味で食べさせるという感じではなく、あくまでホルモンの味わい自体が引き立つように絶妙に加減されている印象である。ホルモンの味わいは非常にクリアで、臭みなどまったくない。

 「栄屋」の「ホルモン焼」は豚のホルモンを使ったもので、大腸、小腸、肺をその時々の配分でミックスしているという。部位ごとに食感も風味の濃さも違って楽しい。

 店頭ではサーターアンダギー、もずくの天ぷらも売られていて、他にも沖縄物産が販売されている。そこからも分かる通り、「栄屋」のルーツは沖縄にある。沖縄出身の初代が尼崎の地で精肉店を始め、軒先でホルモンを炒めて売るようになったのだという。「ホルモン焼」のほか、テイクアウト用の豚足や蒸し豚も人気なんだとか。

 「昔は近くの工業地帯で働いている人が仕事帰りに食べに来たり、商店街に買い物に来るお母さんがお子さんに『買い物してくるからここで食べとき!』って、お子さんを預けたりしてましたね(笑)最近はYouTuberが食べ歩きに来たりしますよ」と、時代の変遷はありつつも、今も地域の方々の夕飯作りに一役買う店として、また、私のように軒先ホルモンを味わいに来る人にも愛されているようだった。

「鹿児島屋」の店内は明るいうちから賑わっていた

 続いてやってきた「鹿児島屋」も、軒先の大きな鉄板でホルモンを炒めているが、こちらは店内の座席で飲食するスタイルのようだ。


鹿児島屋の店先

 ホルモンは一人前で450円。白いパックにたっぷり盛ってくれる。一緒に注文した瓶ビールとともにいただいてみよう。


鹿児島屋のホルモンとビール

 創業から52年、変わらぬ味を保っているという「ホルモン」は、醤油と味噌をベースにした秘伝のタレの味わいが印象的。生姜やニンニクの風味もほどよく効いて、豚の腸と肺をミックスしているというホルモンの味わいを引き立てている。

 “大ママ”の愛称でお客さんに親しまれている店主の武富広子さんによると、この店を始めたのは広子さんの旦那さんだったとのこと。沖縄出身の旦那さんが尼崎にやってきて権利を買い受けたのが、以前まで「鹿児島屋」の屋号で食堂をしていた店舗だった。店には立派な看板がかかっており、それを取り替えるのにはお金がかかるというので、そのまま前の屋号を引き継ぎ「鹿児島屋」として営業することに。

 旦那さんは若くして亡くなったが、生前に大事なタレのレシピを引き継いだ広子さんはまだ幼かったお子さんを育てながら必死にこの店を切り盛りした。52年前から使い続けている鉄板で、今は“若ママ”こと武富美由紀さんが主にホルモンを炒めている。


インタビューに答える店主の武富さんと筆者の写真

 明るいうちから気軽に飲みに来るお客さんが多いそうで、取材時も店内が次々やってくるお客さんで賑わっていた。みんな、広子さんと美由紀さんとの気さくなおしゃべりを楽しみに来ているようだった。

牛ホルモンの様々な部位を使った「かごもと」のホルモン

 3軒目に訪れたのは、三和本通商店街にある「かごもと」だ。私がかつて食べに来たのはここであったことを思い出した。ここでもやはり、軒先に設置された鉄板で「ホルモン焼」が作られ、テイクアウトできるようになっている。


かごもとの店先

 牛ホルモンを扱う「かごもと」ゆえ、「ホルモン焼」に使用されているのも、もちろん牛のホルモンである。ハチノスと呼ばれることも多い胃や、大腸や小腸、肺など8種類もの様々な部位がその時のバランスで混ぜ合わされているという。


かごもとのホルモン

 購入した「ホルモン焼」は店の脇に設置されたベンチで食べてもいいそうなのでそうさせていただく。お酒も買って来ていいとのことだったので近くで調達し、ホルモンとのマリアージュを確かめつつ味わってみる。

 タレは醤油ベースらしく、深い甘味を感じる。店長の門荘太さんによると、バナナやリンゴなどのフルーツが隠し味になっているそうで、保存料など不使用の「ホルモン焼」専用タレらしい。ピリッとくる辛みもすごく合って、これはなんともお酒が進む味だ。

 「かごもと」は創業51年の老舗。10年ほど前に現在の場所に移転してくるにあたり、店の前を通るお客さんに目立つようにと軒先でホルモンを炒めて売り始めたそう。丁寧な仕込みにより、ホルモンにぬめりや臭みが一切ないのが特徴とのこと。たしかに、店内ではお店の方々が絶え間なく手を動かし、お肉の下処理を進めていた。

客足の絶えないJR尼崎駅近くの「山里食品」

 次の目的地に向かうべく、阪神尼崎駅前からバスに乗り、JR尼崎駅方面へと移動することに。JR尼崎駅から北へ数分歩くと、鮮やかなオレンジ色のシェードが見えてくる。ここが今日の最後の目的地である「山里食品」だ。


オレンジ色シェードの山里食品の外観

 この「山里食品」は、久米島出身の初代・山里智功さんによって54年前に創業されたそう。ルーツが沖縄にあるため、豚肉をはじめとした精肉のほか、沖縄食材までも幅広く扱っているのだという。

 現店主の山里浩さんはお笑いコンビ・ダウンタウンの二人と小中学校の同級生で、メディアにも取り上げられてきたため、ダウンタウンファンが訪れる“聖地”にもなっているそうだ。

 店頭の鉄板で焼かれる100gで220円の「ホルモン焼」には、豚の小腸、大腸、肺、チレ(脾臓)などがミックスされているとのこと。

 「すぐ食べます」と伝えて出してもらったホルモン焼きを早速いただいてみると、ホルモンのムチムチっとした食感に甘辛いタレがしっかり絡み、これまたお酒が欲しくなる味わいだ。この日食べ歩いてきた中でも一番濃厚なタレに感じる。

 「うちは秘伝のタレが自慢です。豚の脂から出る甘みとね。色んな人が買いに来てくれますよー」と浩さんがおっしゃる通り、この味を求めて切れ目なくお客さんが買いに来ていた。

 混み合う店頭から移動し、近くの休憩所で改めてホルモンと発泡酒の味わいを堪能した。


山里食品のホルモンと缶ビール

 今回、尼崎の軒先ホルモンを4軒食べ歩いたが、どの店のホルモンもそれぞれに部位やタレの味が違って「こんなに個性が出るものなのか」と驚いた。訪ねた店には沖縄にルーツを持つところが多く、尼崎に移り住んで商売をしてきた方々がホルモンを美味しく食べる調理法をこの地に根付かせてきたことが重要なポイントだと感じた。

 また、尼崎で働く労働者たちが仕事帰りに気軽に食べられるものとしてホルモンの旨味を求めたこと、この町で暮らす人々が食卓を彩るおかずとして買い求めてきたこともまた、軒先ホルモンの文化を生む上で大きな要素になったことが伝わってきた。

 町を歩き、そんな歴史・文化を体感しながら食べるホルモンは、なおさら味わい深いものに感じられる気がするのだった。いい一日だったな……。近いうちにまた、缶ビール片手に尼崎の軒先ホルモンを食べに行こうと思う。


三つのアーケード看板が並ぶ写真

軒先でホルモンを焼いている店員

店先で販売している天ぷら、サーターアンダギー

皿に並ぶホルモン、ハムステーキなどの料理

インタビューに答える店主

ベンチの上のホルモンと缶チューハイ

ホルモンを味わう筆者

山里食品とホルモンを持つ筆者

山里食品の店先

取材・文:スズキナオ
1979年東京生まれ、大阪在住のフリーライター。
WEBサイト『デイリーポータルZ』などを中心に執筆中。テクノバンド「チミドロ」のメンバーで、大阪・西九条のミニコミ書店「シカク」の広報担当も務める。
著書に『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』『遅く起きた日曜日にいつもの自分じゃないほうを選ぶ』(以上、スタンド・ブックス刊)、『「それから」の大阪』(集英社新書)、パリッコとの共著に『椅子さえあればどこでも酒場 チェアリング入門』(エレキングブックス)など。
X @chimidoro

※各店舗の情報は令和5年9月時点のものです