大人を巻き込んで尼崎を変える、若者の挑戦

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吉金潤一郎(20)/NPO法人ASK代表

 2021年に開催された東京2020オリンピックで、初めて行われたスケートボード競技。男女とも日本代表の若い選手が金メダルを獲ったことで、一躍注目を集めました。これをきっかけにスケートボードをやってみたいと感じた人も多いはず。
しかし実際に競技を始めようと思っても、決められた練習場所が少なかったり、教えてくれる人がいなかったりとハードルが高いのも現状です。そんな子どもたちのために、スケートボード専門の練習場所「スケートパーク」を作ろうと活動している若者がいます。

尼崎にスケートパークを作りたい


話をする吉金さん

 2021年3月からスケートボードの体験会や、セクションと呼ばれる障害物を作るワークショップを開くのは、NPO法人ASK(Amagasaki Skateboard Kindness)の吉金さん。スケートボードが好きな若者が集まり、尼崎にスケートパークを作るための活動をしています。


生涯学習プラザの駐車場で開いた体験会

 スケートボードの体験会はこれまで30回以上実施し、各地区の生涯学習プラザや阪急塚口駅前のスカイコムなど、市内全域で開催してきました。参加した小学生や中学生にスタッフがマンツーマンで丁寧に教えているので、リピーターも多く「スクールを開いてほしい」との声もあるのだとか。

 スケートボードは練習場所が少ないこともあり、路上や公園で危険な練習をしてしまい、周囲の住民とトラブルになることも少なくありません。騒音や器物破損などの問題でニュースに取り上げられ、怖いイメージを持っている人もいるのではないでしょうか? NPO法人ASKでは、専用の練習場を作ることでスケーターのマナー向上も目指しているのです。

高校2年生で出会ったスケートボード


ユース交流センターでは土日祝に仮設のスケートパークを設置中

 そもそも吉金さんがスケートボードを始めたのは、新型コロナウイルスの感染が拡大する少し前の2020年はじめ頃。新しい趣味を作ろうと始めたのがスケートボードでした。友達を誘って公園や堤防で練習をし始めた頃、学校が休校に。勉強と部活動に充てていた時間を、全てスケートボードに注ぎ込みます。「自分で買ったカラーコーンを自転車のカゴに入れて、尼崎記念公園まで持って行って、朝9時から夜の9時まで、ずっと練習していました」と当時を振り返って笑う吉金さん。何度も失敗を繰り返しながら、目標の技ができたときの達成感は病みつきになると話します。


スケートボードをする吉金さん

 しかし公園で練習をしていると、スケートボードの世間的な悪い印象から冷ややかな目で見られることもあったそう。「皆が心地よく練習できるところがない」と思った吉金さんは、スマートフォンで「尼崎 まちづくり」と検索をし、尼崎市役所が市民からまちづくりに関する意見を受ける「まちづくり提案箱」という制度を見つけます。そこに「尼崎にスケートパークが欲しい」と投稿したことで、吉金さんの生活は変わりはじめます。

大人を巻き込んで動き出した活動


仮設のスケートパークを尼崎記念公園ベイコム総合体育館前に作り社会実験を実施

 投稿の数日後に一度は「実現するのは難しい」と断りの返信がありましたが、それから約1年後に「スケートボードに関する苦情が寄せられているため、スケートパークについての話を聞かせてほしい」と市役所から連絡が。そこから尼崎市立ユース交流センターが行う、若者が直面する課題やその解決策を市に提案する「Up to You!」のプログラムに参加し、スケートボードの社会課題に関するプロジェクトを立ち上げ、実現に向け市役所のさまざまな部署と話し合いを重ねることになりました。


社会実験で作った仮のスケートパークには、たくさんの子どもたちが集まりました

 2022年10月から1ヶ月間、尼崎記念公園ベイコム総合体育館前に社会実験として仮のスケートパークを設置し、スケーターや、公園を利用する人、近隣に住む方のリアルな声を集めました。さらに同時並行で、社会実験の費用や活動費を集めるために、プロジェクトに共感した人から資金を集めるクラウドファウンディングも実施。尼崎市内からだけでなく、北海道から九州まで多くの人の支援を得て、目標金額を超える1,547,000円の寄付が集まりました。

「尼崎はいいまちやな」


NPO法人ASKは高校生から社会人までの11人で活動

 とんとん拍子で目標に近づいている吉金さんですが、活動がきっかけで変わったことをお聞きすると「行政ってここまで動いてくれるんや」と気づいたと話します。「これまでは『国は変わらない』とか『言っても無駄』って言葉を耳にしていました。でも今回は市役所が自分たちの声を聞いて動いてくれた。アクションしたら変わることを知りました」と吉金さん。さらに、これまで関わりのなかった地域の大人やスケートボード仲間など、コミュニティの幅が広がったそう。


スケートボードを説明する吉金さん

 スケートパークを作るために、市に予算化を求めている吉金さん。さらに地元企業からの協賛や協力企業を募集しているそう。「スケートボードはセンスもあるけど練習量が一番大切なんです。だから小学生のうちに始めて中学生で花開く子が多い。僕は始めるのが遅かったのでプロは目指せなかったけど、これから始める小学生が安心して練習できる場所を作ってオリンピックを目指してほしいです」。次は吉金さんが地域の大人となって、子どもたちのためにスケートボードの未来を切り開きます。







(プロフィール)
よしかね・じゅんいちろう 尼崎生まれ、在住。大学にアルバイト、NPO法人の活動と多忙を極め、スケートボードの練習は夜中から朝方まで及ぶことも。スケートパークが完成したら、地域の先輩として子どもたちに技を教えたいと話す。