コスモスは秋に咲くキク科の花で、白やピンク、赤といったよく見るコスモスのほか、オレンジ色をしたコスモスが、毎年10月から11月の時期に見る人の目を癒やし、楽しませています。そんなコスモスが存分に楽しめる場所が尼崎市にあるのだとか。それは、常松2丁目と西昆陽4丁目あたりの武庫川河川敷に大きく広がる阪神間最大級のコスモス園「武庫川髭の渡しコスモス園」。今回は、地域のボランティア団体「髭の渡し花咲き会」会長の藤木さんに、コスモス園について詳しく話を伺いました。
「髭の渡し」という言葉、みなさんはどうしてこのような名前がコスモス園やボランティア団体で使われているのか知っていますか。それは江戸時代にさかのぼります。江戸時代から昭和25年に甲武橋が完成するまで、西国街道(さいごくがいどう)の武庫川を渡る場所があり、それが「髭の渡し」と呼ばれていました。「なぜ『髭の渡し』なのか、実は昔、近くの街道沿いの西昆陽村に、髭を生やした老人が営む茶屋があったことから、この名前が付けられたんですよ」と藤木さんは言います。
かつてこの場所は不法投棄の山だった
平成7年、市内各地に大きな被害をもたらした阪神・淡路大震災。この後、「髭の渡し」付近の武庫川河川敷では、不法耕作や不法投棄ごみの山となり荒廃していたのです。それを目にした地域住民が立ち上がり、河川敷に季節の花を植えるなどして本来の美しい河川敷を取り戻し、憩いの場を提供しようと「髭の渡し花咲き会」が発足しました。
「会長、副会長が決まり、メンバーは地域住民から自然発生しました。当初、定年退職した人たちが周り近所に声をかけて、『あそこ何とかしようや』と根気よく活動していたことがきっかけで、今の『髭の渡し花咲き会』があるんですよ」と藤木さん。「僕はずっとメンバーとして活動してきましたが、今年に入って先輩に軽いノリで、『次、会長やって』とお願いされ、自分もリタイアしてるし、先輩に言われたら断れないので、今こうして会長をやっています」と少し苦笑いなのは気のせいでしょうか。
「髭の渡し花咲き会」での活動は、年に3回程度の会議で、ボランティアで協力している地元の業者の方々や、兵庫県や尼崎市の職員たちと一緒に、種まきや草刈りなどの活動計画や、開園に向けた最終調整を行っています。地域ボランティアのみなさんは、色んな世代の人たちにコスモス園を知ってもらい、また、自分たちと一緒にこのコスモス園を守っていってもらいたいという気持ちを込めて、地域の学校や企業に積極的に声かけを行っています。
「毎年多くの人たちが種まきに参加してくれます。種まきもそうですが、雑草抜きや肥料やり、コスモス園に関わる人たち全てが『髭の渡し花咲き会』のメンバーですね」と笑顔で話す藤木さん。毎年たくさんのコスモスをこの場所で見られるのは、地元住民をはじめ、コスモス園に関わる多くの人たちの活動があるからなのです。
種まきにもこだわりが
コスモス園の面積は約13,000平方メートル。7区画に分けて約550万本のコスモスの種をまくのですが、いくつかの品種を混ぜて種まきを行うことで、コスモスが長期間咲き続けるように調整しているそうです。また、8月下旬から9月初旬の、比較的遅い時期に種をまくことで、コスモスの高さを大人の腰ぐらいの高さにおさえ、小さな子どもや車いすで訪れる人の目線でも楽しめるように工夫されているのだとか。「全体にまんべんなく種をまくのがコツ。初めて種まきを体験した人と、ずっと種まきをやってきている人とではやっぱりコスモスの咲き方が違うんですよ。でもそこが面白い。自分のまいたエリアがどうなっているか、気になって見に来る人も多い。あーまばらやな。とか、上手に種まけてるやん。とか言いながら」と、どこかうれしそうに話す藤木さん。
こうしてコスモスは少しずつ成長していきます。毎年9月には台風が訪れることが多く、それでも負けず必死に咲こうとしています。そんなコスモスが健気でかわいらしいと話す藤木さん。「このコスモス園に関わってからは、なぜかよそで咲いているコスモスも気になってしまう。でもやっぱりここのコスモスが一番や。我が子のよう」と誇らしげに話します。取材当日も色々な人がコスモスを見に来ていて、藤木さんは、「でっかいカメラ持った人に声かけて、『今度テレビに映るねん。取材くるねん。』とつい話しかけてしまいました。ほら、あの人!でっかいカメラ持ってるでしょ。長いこといてはるんですよ」と少し興奮気味な様子に、尼崎市民らしい気さくさを感じます。
兵庫県政150周年を記念して
今年、平成30年は兵庫県政150周年。コスモスで表す150の花文字が姿を見せます。また、この花文字を多くの方々に見てもらえるように、盛土で作った高台があるので、上から眺めたい人、写真を撮りたい人にはおすすめです。
いつまでも愛されるコスモス園に
コスモス園の活動は、地域のお手伝いという軽い気持ちから始まり、種まきやイベントに関わるたびに愛着がわいて、色々な人との交流が深まるそうです。それは尼崎市内だけではなく、隣の西宮市や伊丹市、大阪の方までコスモス園を通した交流が広がるのだとか。藤木さんが今願うこと、それは、いつまでも愛されるコスモス園であること。そのためには、今、主に活動している高齢者だけではなく、その子ども世代、孫世代へと、次の世代の心に種をまき続けることが大切。コスモス園に訪れる人たちには、「のんびり見てもらいたい。この時間だけでも、ほっこりした優しい気持ちになってもらいたいですね」と願いながら、藤木さんは今後も活動を続けます。
武庫川髭の渡しコスモス園のコスモスは、11月上旬までが見頃となっています。白やピンクの色をした「センセーション」や、赤色の「ダズラー」、黄色の「オレンジフレアー」といった、様々な色のコスモスが壮大な広さで楽しめます。また、大人や子ども、お年寄りやペットも、時間を忘れてのんびりできる場所となっています。皆さんもぜひ、花のじゅうたんに囲まれて、爽やかな秋空の下で癒しのひとときを過ごしてみませんか。
※武庫川髭の渡しコスモス園の紹介(開園情報)(市役所/外部リンク)