上坂部に江戸時代の始めごろからある西正寺に最近たくさんの人が集まっています。お寺を一躍有名にしたのは、境内でカレーを食べたり、インドにまつわる音楽、トークを楽しむイベント「カリー寺」。カレー好きな若者や子ども連れのお母さん、近所の門徒さん、また噂を聞きつけ市外からも様々な人が訪れました。
一方で、地域コミュニティや社会課題をテーマに語り合う会「テラハ(テラからはじまるこれからのハナシ)」も開催。これらの活動を「寺開き」と称する、西正寺のお坊さん、中平了悟さん(39)に話をうかがいました。
みんな、テラ集合だよ!
テラからはじまるこれからのハナシ、略して「テラハ」。パステルカラーでゆるいタッチのチラシ。しかし内容は、LGBT(性的マイノリティ)や自死の問題、福知山線の脱線事故など、真面目なテーマを語り合います。
2016年4月から不定期開催。Teller(テラー)と呼ばれる講師から話を聞いた後、参加者が気づきや想いを共有します。畳敷きの本堂にあつまったのは、それまであまりお寺にご縁のなかった人たち。会社勤めの人、公務員、学生、子育て中の母親、NPO職員、地域にいるさまざまな人など、30名以上です。
そもそも中平さんがテラハのような形で「お寺を開きたい」と考えるようになったきっかけのひとつは、「尼崎ソーシャル・ドリンクス」でした。毎月1回ペースで社会起業家や地域づくりに関わる人の話を聞き、交流できるこのイベント。中平さんは2012年から参加し、様々な課題の当事者に出会えることや、対話の場に魅力を感じていきます。
「これまでは、お坊さんとして仏教を語らなきゃ、という力みがあったように思います。でも、自分が語らなくても、みなさんが出会い、語りあう中にみなさんにとって大事なものが見いだされてくる、学びが生まれてくるんだと気がつきました。ある意味『すべて語らなくてもいいんだ』と楽な気持ちになりました」。
お寺は地域からの預かりもの
テラハの2回目はNPO法人虹色ダイバーシティの村木真紀さんを講師に「性の多様性を通してこれからの社会のあり方を考える」と題して、性の多様性や、今の社会の中でのセクシュアル・マイノリティの生きづらさがテーマとなりました。
セクシュアリティ、つまり性に関する話題をお寺で扱うことに抵抗をもたれるのではという心配もありましたが、広報をする中でお寺を支える門徒さんからも「こういった問題を考えるのは大事やな」と理解ある言葉をもらいました。
参加していたLGBTの当事者からは、「こうして語り合える場があるとわかって勇気づけられた」という声もあったそうです。参加者の中には、初めて当事者の方と向き合って話すことで、印象が全く変わったという前向きな感想もありました。
「そこで、僕自身がお寺の持つ本来の力に気づかされたんです。違う世代や背景を持った人たちが自然と同じ場所にいて、出会うことができるんですね。」と言う中平さん。
テラハへの参加がきっかけで、障がい者支援のNPOが書道の会を実施するなど、地域の人もお寺を自分たちの場として再認識し始めています。「お寺はお坊さんのものではなく、預かりもの。今後も『寺開き』を続け、できるだけ多くの人に、ここにお寺がある意味をお返ししていけたらと思います。」
単なる宗教施設ではなく、交流と学びの場へ。場所のあり方を捉えなおすことで、まちじゅうに「どこでもキャンパス」が広がるのです。