「コミュニティナース」をご存じですか? その言葉から「地域で活動する看護師?」など思い浮かべるかもしれません。しかし、職業や資格は関係なく、「まちの中で、心と身体の健康を願って活動している人」(※)のこと。その活動方法は、取り組む人や地域の数だけあると言います。
※「コミュニティナース」を提唱・普及する株式会社CNCの定義より
尼崎市にもコミュニティナースがいます。その1人が福田祥子さん。杭瀬中市場内にある好吃(ハオチー)食堂の女将です。市場で仕入れた食材でつくったランチを提供し、何気ない会話から、普段の暮らしや身体、心の悩みごとを聞いて、まちの人たちが健康に生きるためのおせっかいを焼いています。
福田さんならではのコミュニティナースとしての活動とは? 杭瀬というまちで、どんなつながりが生まれているのでしょうか。
看護師歴20年以上、看護師としての原点に回帰
福田さんは看護師として、主に病棟で働いてきました。コミュニティナースを知るきっかけは、上坂部にある西正寺(さいしょうじ)で開催されたカレーフェス「カリー寺」でボランティアスタッフをしていた時、同フェス発起人から「カリー寺のコミュニティナースですね」と言われたことでした。
「コミュニティナースって何なん?」というところから興味を持ち、コミュニティナース提唱者の矢田明子さんの本を読み、それからまもなく西正寺で矢田さんのトークイベントが開催されることに。話を聞いた後、基本的な考え方を学ぶ講座を受講し、2019年から活動を開始しました。
好吃食堂をはじめ、あまがさきキューズモール内のコミュニティスペースを活用した「コミナスよろず相談所」や子ども、若者のための相談所「ヌック」を中心に、市内各地のイベントに出店するなどして活動しています。
「病棟看護師時代、患者さんと関われるのは入院中だけでした。今は、体調の悪いときや病気になったときだけではなく、普段から関わることができます。学生時代に学んだ『患者さんの身近で、身体的・精神的・社会的に援助ができる人』という看護師の原点に返る思いでした」
日常だからこそ、「実はね」という本音が聞ける
福田さんのもとには日々「気になる症状があるんやけど、病院に行ったほうがええ?」「お医者さんにこんなこと、聞いても怒られへんかな?」といった身体や病気に関するものから、「朝起きてから何もすることがないねん」「自分の得意を活かしたいんやけど」といった暮らしや人生に関するものまで、幅広い相談事が持ちかけられます。
たとえば、「何かしたいんやけど」という相談には、世間話もしながら「何に興味があるのか」「これまではどんなことに取り組んできたのか」などを、じっくりと聞きます。その上で、「こんな活動がありますよ」「こんな団体がありますよ」と地域の情報を紹介しながら、今できることを一緒に考えます。
また、「通っている病院が合わへん気がするんやけど」という相談には、「こんな病院やあんな病院があります」と例を挙げて紹介し、ご本人が新しい通院先を見つけた後は「今度の医師とは相性がよさそう」「明日も病院に行きます」という報告を聞くことも。
福田さんの前では「相談しよう」と気構えなくても、自然と話してしまいたくなるのです。人柄はもちろん、病院や施設といったわざわざ行く特別な場ではなく、たまたま通りかかる日常に溶け込んでいる場だからでしょう。あまがさきキューズモール内で開く「コミナスよろず相談所」、子ども、若者のための相談所「ヌック」では、買い物のついでに「この場所は何なん?」と興味を持つ人がいて、場の説明をするうちに雑談が始まり、「実はこんな悩みごとがあって・・・」と自然と心につっかえていたものが溢れ出てきます。
まちの一員として、まちの一人ひとりと知り合っていく
相談してくれた人と“今よりもよくできること”を一緒に考えるために、その人のことはもちろん、その人が暮らす地域のことも知りたい。
福田さんは好吃食堂を拠点とすると決めた時、杭瀬に引っ越しました。さらには、杭瀬を盛り上げる活動グループ「杭瀬アクションクラブ」の会合や、杭瀬を含む小田地区で活動する人・したい人などが集まる「おだらぶ土曜雑談会」に参加するほか、地域のイベントにも出かけています。
「一つに顔を出すと、自治会や子ども会など地域の活動に取り組む人たちが集っていて、おしゃべりする中で、『このまちでこんな取り組みをしているんや』『今度はここに行ってみよう』と知り合いが増えていくんです」
まちの一人ひとりと地道に知り合い、“心と身体の健康”をキーワードに知り合った人と人をつないでいきます。
24時間365日コミュニティナース
福田さんは「コミュニティナースと患者」ではなく、「同じ尼崎市民で小田地区、杭瀬に暮らしている私たち」という関係性を大切にしています。だからでしょうか、顔だけを見せに来る人がいますし、時には福田さんの体調を気遣ってくれる人も。
「市内でも特に杭瀬だったからこそ、活動しやすかったのかもしれない」と福田さん。
「コミュニケーションをとりながら、買い物をする市場が元気だからでしょうか。市場で安い商品を見かけたら、隣の人に思わず『安いやん!』としゃべりかけるなど、知らない人に声をかけるハードルが低い。常々、自分だけじゃなく、他人のことを気にかけている雰囲気を感じるんですよね」
杭瀬というまちに根差して生き、まちの一人ひとりと知り合い、「健やかに生きていけるように」と隣で見守り、見守られながら。お互いに気遣い、気遣われる人がいる安心感、その心強さが、まちをもっと元気にしています。
(プロフィール)
ふくだ・しょうこ 神戸市出身、尼崎市在住。看護専門学校卒業後の2000年より21年間、病院で看護師として勤務。2019年からコミュニティナース活動開始。コミュニティナースを知るきっかけとなった西正寺との接点は、落語家になった小学校時代の同級生が寄席をしていたから。その後「カリー寺」に企画から関わるなど地域活動に深く関わっていく。最近の活動として2023年に、市内の仲間と一緒に「あま女将ラボ」を立ち上げ、コミュニティナースの周知や育成、拠点づくりなどを行っている。
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