第43回みんなの尼崎大学オープンキャンパス「なんだこれ?!白髪一雄」

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 2024年9月6日(金)に、第43回目のみんなの尼崎大学オープンキャンパス「なんだこれ?!白髪一雄」を開催しました。今回は、尼崎市総合文化センターにて開催された展覧会「生誕100年 白髪一雄 行為にこそ総てをかけて」に合わせたワークショップ型の美術鑑賞会。ド迫力な絵を描く白髪一雄先生をあえて「パイセン」と呼ばせてもらい、「どうやって描いたんやろう」と画家目線に立って、参加者があーでもない、こーでもないと議論した様子をレポートします。

まずは白髪一雄について知ろう


ナビゲーターを務める岩淵拓郎さん

 今回のイベントのナビゲーターは、「なんだこれ?!」を考え追及する「なんだこれ?!サークル」の岩淵拓郎さん。解説役を尼崎市文化振興財団学芸員の妹尾さんにご協力いただきました。

 イベント前に白髪一雄について軽くご紹介を。白髪一雄は、尼崎生まれ尼崎育ちの抽象画家です。天井から吊るしたロープを支えに素足で描かれた作品は、唯一無二の力強さとインパクトをみる人に与え、世界的にも高く評価されています。
 生誕100年を迎える2024年に、生まれ育った尼崎で画家としての足跡をたどる展覧会が開かれることになりました。


解説役を務める妹尾さん

 冒頭で、岩淵さんと妹尾さんのお二人からお言葉をいただきイベントスタートです。

 まずは、白髪一雄パイセンの実際の制作シーンについて見てみよう、ということでみんなで当時の制作している様子を収めたビデオを鑑賞。天井から吊るされた一本のロープを掴みながら、地面に置かれたキャンパスの上を、足を使って絵の具で描いていく白髪一雄パイセンの姿は迫力満点。

 あえて「描きにくい足で」「スピーディーに描く」白髪スタイルを目の当たりにした参加者からは、「こんなにどんどん描くんや」「疲れそう」といった声があがりました。

白髪一雄パイセンスタイルで描いてみる!


白髪一雄パイセンの気持ちになるべく、ワークショップを行います

 ビデオ鑑賞が終わると、いよいよ実践へ。白髪一雄パイセンの気持ちを味わうべく、「地獄の特訓 5連発!」と題されたワークショップで実際に絵を描いてみます。
 ルールは、白髪一雄パイセンスタイルの特徴でもある「描きにくい制限をつけること」「スピーディーに描くこと」。

 参加者は、思い思いの「描きにくさ」で、1枚の紙に10秒描いて、10秒休んで、10秒描いて、また10秒休んで、最後に10秒描く、これを3セット繰り返します。
 白髪一雄パイセンリスペクトのハードなワークショップにやや戸惑いつつ、参加者はウキウキで準備を進めます。岩淵さんのよーいドン!の号令で一斉に制作がスタート。


 クレヨンを紙の上に置きおでこで描いたり、紙をぐしゃぐしゃにしたり、口にクレヨンをくわえてみたりと、それぞれの描きにくさで絵画に挑みます。


なかには宙に浮いて描く人も!

 一心不乱に10秒で描き、10秒休憩で急ぎクレヨンの色を変え、また描き始める。次第に荒い息遣いが会場のそこかしこから聞こえ、叫び声やうめき声をあげつつもひたすら絵を描き進めました。

 怒涛のワークショップが終わると、膝をついて一息つく人も。完成した作品を見ると、スタイルも色使いも十人十色です。


どうやったら描ける?描き手目線で鑑賞会!


 鑑賞者から描き手に変わったところで、今度は4グループに分かれ実際に白髪一雄パイセンの作品をみんなで鑑賞します。

 ポイントは「描き手目線で見ること」。参加者は、鑑賞者ではなく、あくまで白髪一雄パイセンの後輩です。先ほどのワークショップを思い出しながら、どうやって描いたのか、どんな気持ちで描いたのか、具体的な情景まで思い浮かべながら鑑賞します。


白髪一雄パイセンと同じ目線で絵画を鑑賞(特別な許可をもらって寝転がって鑑賞しています)

 一般の方がいらっしゃらない閉館後にお邪魔したため、このイベント時だけの特別な許可をいただき、自由なスタイルで対話しながら鑑賞することができました。

 まずは、黙って5分ほど鑑賞。なかには「寝転んでみたほうが、白髪一雄パイセンと同じ目線で見えるかも」と斬新な鑑賞方法を実践するグループも。

 その後はグループ内でじっくりと意見交換。
 参加者からは、「ここは最後に描きたしたのでは?」「足跡がくっきり残っている」など作品への意見だけでなく、先ほどのワークショップでの体験を踏まえ「短い時間で、描きづらい方法で描くと考える余裕がなくなり、段々無心の境地になってきた。白髪一雄パイセンもそんな気持ちで描きたくて、足で描いていたのかも」「色々な手法でやりたくなるかと思ったが意外と、白髪一雄パイセン同様に1つの手法で極めたくなった」「抽象画を描くとどの色を使うかの選択や自分の中で「これで完成!」という区切りに悩む」など、描き手目線でも様々な意見がでていました。


 最後は、展覧会を学芸員の妹尾さんの解説付きで一回り。
 鑑賞した作品の前では、グループ内ででた意見を共有し、妹尾さんからフィードバックをもらいます。描き手目線で見たからか、意外(?)と的確な意見も。

 「ほかのものよりも色使いが鮮やかで、映えを意識した作品のような気がした」という意見には「実はこの作品『天空星急先鋒』は、取材を受けながら描いた絵なので、確かに他の作品よりもその傾向は強いですね」とのコメント。「こんなに油絵の具をたくさん使ったら、とても材料費がかかると思う。材料費が高くても困らない暮らしをしていたのでは」という意見には、「裕福な呉服商の家に生まれ、海外でも高い評価を受けていましたし、美術館やコレクターにも作品が売れていたので、絵の具をたっぷり使って描ける環境だったと思います。」とのコメント。

 描き手目線で絵画鑑賞することで、「世界的に高い評価を受けている画家」という遠い存在だった白髪一雄パイセンの人間性や背景まで想像を膨らませて鑑賞でき、まさに「パイセン」と呼びたくなるほど身近に感じることができたイベントとなりました。