尼崎市民が最も耳にしている故郷の歌といえば、やはり童謡『赤とんぼ』でしょう。毎朝ゴミ収集車から流れる曲は、まさに街のヘビーローテーション。今回はあのメロディの行き先を社会見学してきました。
その場所は東海岸町。海に向かって南へずっとすすむと、大きな宇宙船をイメージしたという巨大な建物が見えてきます。ここが「尼崎市立クリーンセンター第2工場」。市内で走る収集車約140台が、午前と午後に2回ずつ、1日4回もこの工場を目指します。
1日500トン。収集車なんと400台分!
まずは「計量所」のゲートを通って、ゴミの量をはかります。尼崎市では毎日500トンもの燃やすごみがここに運ばれてきます。収集車1台が1.5トンというとその量の多さがわかるでしょうか。
計量を終えた車はプラットホームと呼ばれる場所へ向かいます。8つの巨大なゲートに分かれて、巨大空間「ごみピット」に燃やすごみが次々と投げ込まれていきます。その大きさは学校のプールでなんと40杯分。7日分のごみを貯めておくことができます。
一度貯められたごみを、焼却炉へと運ぶのはこちらの巨大なクレーン。「小学生の社会科見学では、オスのアフリカゾウくらいの重さと説明していますね」というのは技能長の屋田健二さん。親しみやすい笑顔で見学者を楽しませてくれます。
巨大なクレーンでごみの山を築く。
中央制御室では熟練の職員がクレーンを操作して、ピット内のごみを積み上げてきます。「若手職員は崩れないように上から押さえつけて固く積みがちなんですが、熟練のクレーンマンは小さな山をふんわりと並べ、時間をかけて固めるんですよ」という屋田さんの熱い語りに引き込まれます。水分や材質の異なるごみを、均一なごみ質になるようにクレーンでかきまぜながら、バランスよくつかんだおよそ3トンのごみを焼却炉へと放り込みます。
ごみを減らすためにできること
夜間は手動運転と自動運転を使い分けながら、焼却炉へとごみを運び、850℃以上の高温で24時間ごみを燃やし続けています。この工場で1日に燃やすことのできる量は、480トン。つまり日々運び込まれる量の方が燃やすことのできる量より多いので、私達はごみをできるだけ減らさないといけないのです。「水分が多いと燃えにくいんですよ。生ごみを出すときには水気をしっかりと切ってもらえるととても助かります」と屋田さん。
燃え残った灰は30分の1の体積になり、神戸沖へと運ばれ埋め立てに使われます。さらに焼却熱を使った発電で工場の電力をまかない、余った電力は電力会社へ売却し、それに伴う収入は現在年間3億円ほどになっています。とはいえ、工場全体のメンテナンスにはその何倍ものお金がかかっています。平成17年にできた第2工場もあと10年で寿命なのだとか。ごみの量がもう少し減ると新しい工場をコンパクトにできるようです。
「使いきり、食べきり、水をきり。3キリ運動を心がけてもらえると尼崎のごみは確実に減ります」と屋田さん。私たちが捨てたごみを燃やすために、多くのエネルギーとお金がかかっていることを意識しながら、ごみ袋の中身を見直したいところです。
びん、缶、ペットを分ける仕事人たち
日々のごみの中には、リサイクルできるものもあります。第2工場の隣にある「尼崎市立資源リサイクルセンター」では、大型ごみや金属製小型ごみの破砕処理、びん、缶、ペットボトルの選別処理をしています。担当の谷垣直哉さんに、混合収集されたびん、缶、ペットボトルが資源化できるように分別されるまでを案内してもらいました。
収集車がプラットホームに到着すると、第2工場と同じように巨大なピットに投げ込まれます。ピットに溜まったごみ袋は5つの爪が付いたクレーンで、建物4階にある供給ホッパという投入口に放り込まれます。
次々と途切れなく流れるベルトコンベア
ホッパの刃で袋を破りながら、下の階(3階)にあるベルトコンベアへと流し込まれます。コンベアの脇には作業員がずらりと並び、まずはペットボトルを手で選別しています。「この10年でペットボトルの量が増えました。夏場は特に量が多いですね」という解説を聞きながら、その華麗な手さばきについ見入ってしまいます。目にもとまらぬスピードで選別され、さらに下の階にあるホッパへと放り投げられていきます。
コンベアは次に小さな部屋へ。ここでは巨大な磁石で缶詰や缶コーヒーなどのスチール缶を吸い込んでいきます。残るはガラスとアルミ缶。色によってリサイクルの方法が異なるため、透明のガラスびんをよりわけた後、茶色のガラスをピックアップします。最後はジュースなどに多いアルミ缶をホッパへと投げ込み、コンベアの旅は終わります。
ペットボトルをお宝にするために
1階に降りると、それぞれがプレスされたり、山のように積まれたりと見事に分別が完了していました。ペットボトルは約600本分が圧縮されて、ひとかたまり30kgに梱包。これが約150円(時期により変動)で回収されるそうですが、谷垣さんによると尼崎のペットボトルは価格が安いのだとか。よくみるとキャップやビニールのラベルが付いたまま。これらがきちんと徹底されるともっと高い値段で引き取ってもらうことができるようです。なるほど、私たちの努力次第でお宝になるということですね。
鉄のかたまりと栄養の山
スチール缶は約2000本がプレスされて110kgの鉄の塊に。よく見るとサバの水煮や缶コーヒーのラベルなどが読み取れて芸術作品のようです。こちらで約2000円。
茶色のびんの山に目を凝らすとほとんどが栄養ドリンクで「これが尼崎市民の元気の源なんだなあ」となぜか感慨深い気持ちになります。「再生効率が高いアルミ缶は、一から作るエネルギーの3%でリサイクルできるんですよ」と谷垣さんが教えてくれました。ここで分別された資源は、回収業者のトラックで引き取られていきます。
自分の捨てたごみは一体どこに行くのだろう? と、緑のごみ袋を追いかけた今回の社会見学。小学生じゃなくても事前に予約すれば見学することができます。