市場から銭湯、シェアアトリエまで
今回、一緒に杭瀬のまちを歩いてくれたのは、オオタサヨリさんと娘のユズキちゃん(2歳)。
東京都内で最多の銭湯数を誇る大田区の出身で、子どもの頃からの銭湯に親しんできたオオタさんは、今、ユズキちゃんとの銭湯通いを楽しむ日々だといいます。銭湯ファンが中心となって活動している尼崎温銭郷(あまがさきおんせんきょう)の主要メンバーでもあります。
昨秋、「尼崎温銭郷」では、スーパー銭湯を含む市内の全温浴施設を紹介する「尼崎銭湯案内」というパンフレットを発行。発行には、杭瀬のまちの商店から広告料などで応援してもらったそう。お礼を兼ねてパンフレットを配りに、まちへ繰り出しました。
杭瀬には美味しくて安いものがあふれている
尼崎には市内各所に市場がありましたが、今では市場で生鮮食品が一揃いするところは珍しくなりました。そんな中、まだ杭瀬には市場らしい呼び込みの掛け声が聞こえる一角が残っているのです。なかでも、杭瀬中市場には、鮮魚店や精肉店、青果店、惣菜店、食堂まで揃っています。
ちょうどお昼ごはん時になったので、オオタさんが「新しくオープンしたと聞いて行ってみたかったんです」と、台湾涼麺が食べられる「好吃(ハオチー)食堂」へ。昭和な雰囲気ただよう市場に、突如現れるおしゃれな食堂。この食堂で使われる麺は、市場内にある三和製麺所から仕入れているそう。市内でも数少なくなった製麺所の麺は数多くの飲食店でも使われ、その美味しさはお墨付きです。涼麺はごまだれ味で、トッピングには、蒸し鶏や野菜も。ユズキちゃんも、ツルツルと美味しそうに完食。
青果店で売られているバナナ一房は、普段見かける3倍くらいの量。しかも、値段も180円と驚きの安さです。おまけに、ユズキちゃんは、おせんべいまでもらってごきげんさん。その後も、市場内の行く先々で駄菓子をもらって、「アリガトウ」を連呼していました。
市場を抜けた先にあったのは…
市場を抜けた先にある白いビル。ここの3階まで階段で上がっていくと――、100平米はある大空間、アーティストの創作活動を応援する「シェアアトリエBambi(バンビ)」がありました。2018年9月にオープンして以来、ここの管理を任されているのは、自らもアーティストである細密画作家のBambiこと林雅人さん。実は、「尼崎銭湯案内」の表紙イラストは林さんが手がけたもの。オオタさんが銭湯の写真を送って、林さんが作画のイメージを膨らませたといいます。「看板にネオン管を使っている銭湯の写真があって、それがボクの描くネオンっぽいカラーリングに合うなと思ったんです」と、林さん。尼崎のまちの賑やかなイメージと、銭湯のある下町感が混在するポップな表紙が仕上がりました。
「この場でアーティストさんとコラボして、銭湯グッズのマルシェを開きたい」とのオオタさんの提案に、林さんも乗り気になっていました。
尼崎随一のレトロ銭湯へ
さて最後に、尼崎随一の渋い銭湯とも言われる「第一敷島湯」の脱衣所を借りて、「尼崎銭湯案内」のパンフレット制作のいきさつを詳しく教えてもらいました。
そもそも、「尼崎温銭郷」は、どんなグループなのでしょうか。市内の4箇所の銭湯オーナーらのほか、オオタさんが呼びかけて集まった銭湯好きの有志は、ウェブのエンジニア、建築士、グラフィックデザイナー、と多士済々の面子揃い。「とにかく銭湯が好きで応援したい」との強い思いを持っています。「スタートは2016年、市内15軒の銭湯を巡るスタンプラリー企画を手がけました。その後は、市内のイベントなどにブース出店したりしながら、銭湯をPRする活動をしています」とオオタさん。
今回のパンフレット制作は、蓬莱湯の女将である稲里美さんからの発案から始まったそう。パンフレットの特色は、市内の温浴施設すべてを網羅していることです。銭湯、スーパー銭湯といった業態に関わらず、まちの人たちに、いざという時の災害に備え、日常的に近くの銭湯を知っておいて欲しい、との思いが稲さんにあったといいます。
各地の銭湯に詳しいオオタさんですが、今は意外にも「こだわりなく、どんなタイプの銭湯も好き」と言います。「子どもが生まれてから、日中の子どもとの時間で余裕のない気持ちになることもあって…、そんなとき、銭湯で会う人が、『大変ね』『良い子に育ってるね』って声かけてくれたりすることが、何より疲れをほぐしてくれるんですよね」と、教えてくれました。
市場や銭湯、そして新店の動きも盛んな杭瀬のまち。こんな人との距離が近いまちこそ、子育て中の親子の暮らしにはぴったりなのかもしれませんね。