東園田町の閑静な住宅街に、世代を超えてさまざまな人が集い、笑い声が絶えないシェアハウスがあると聞きつけ、「いまここハウス」を訪れました。運営するのは、NPO法人サニーサイドの理事長やファシリテーション講師として活躍する松村史邦(まつむらしほ)さん。「私は『東園田に引っ越しておいでよ!』が口癖なんです」と笑う松村さんは、どんな暮らしをしているのでしょうか。
朝ごはんから始まったシェアハウス
現在「いまここハウス」に住んでいるのは、松村さんと25歳の男女の計3人。ここは、松村さんと松村さんのお父さんが2012年に新築した一軒家です。ゲストハウスのように滞在する人や遊びに来る人など出入りが多い家で、子育てで困っている親子や、自宅を修理している間に仮住まいする家族、県外から尼崎を訪れて滞在する人など、いろんな人を受け入れてきました。
シェアハウスをするきっかけとなったのは2019年のこと。市外から尼崎に引っ越してきた北林和樹さんが、シェアハウスを始めるための物件探しをする2週間のあいだ、松村さんの自宅にホームステイをしていました。その期間、二人で一緒に朝ごはんを食べていたところ、3日目の朝に急に松村さんから「ここでシェアハウス始めるのはどう?」と思いつきで北林さんに持ちかけたそう。北林さんは「いいんですか?!」と二つ返事で快諾。松村さんは「朝ごはんを一緒に食べるのが楽しかったのと、ちょうど新しいことをしたいと思っていたタイミングだったんです」と振り返ります。
できることで貢献することが「いまここ」流
いまここハウスのメンバーが大切にしていることは、「朝ごはんをみんなで食べること」。3人とも帰宅時間が異なり夕食のタイミングを合わせることが難しいので、早起きをしてゆっくりと朝の時間を一緒に過ごしているそう。2020年4月から住み始めた重乃遼子さんは、「朝ごはんはお米と納豆と味噌汁を毎日食べます。ここに来て、こんなにいろんな種類の納豆を食べると思っていませんでした」と笑います。
もうひとつ大切にしていることは「毎月1回、振り返りをすること」。青色の付箋に「今月過ごしてみて良かったこと」、赤色の付箋に「改善したいこと」を書いて話し合う時間を設けています。例えば付箋には「いつもお弁当ありがとう」や「洗剤が薄い」などのコメントが。普段は忙しくてなかなか伝えきれない思いや小さな不安などを共有することで、気持ち良く暮らすことができているといいます。
「その他は特にルールはないですね」と松村さん。共同生活にルールがないとは驚きですが、ごみ出しや掃除、料理など、今必要なことを探しあって、できることで貢献するのが「いまここハウス流」。住人だけでなく遊びに来る人や一時的に宿泊するゲストにもルールはありませんが、「やってくれたら嬉しいことリスト」が貼り出してあり、何か役に立つことで感謝を伝えたいと思ったゲストは、自ら進んで掃除などをしています。
自宅に新しい出会いがある
さらにいまここハウスでは、シェアハウスの暮らしを体験できるホームステイを受け入れています。これまでに20人以上が1週間ずつ宿泊し、園田地域の人と交流したり、毎晩のようにボードゲームで盛り上がったりと、いまここハウスを満喫しています。「家に帰ってくると、人と知り合えるところが面白いですね」と松村さん。重乃さんは、「ここでは多世代と関われるので、年上の人と話すことが苦手だったけど、いろんな人と話せるようになりました」と変化を話します。
とは言うものの、自宅にいつも人がいるのは疲れないのでしょうか。「疲れている日はゲストと交流せずに自室で過ごすこともありますよ。でもシェアハウスを始めて楽になりました。人のために何かをすることって疲れないんです。それぞれおにぎりを1つ握ってシェアメイトと交換すると、誰かが握ってくれたおにぎりを食べられる幸せがあって。労力は全く一緒なのに幸せが増えるんです」と与え続けるのではなく、交換できる対等な関係がシェアハウスの魅力だと松村さんは教えてくれました。
尼崎にシェアハウスを増やしたい
実は松村さん、20年ほど前にも東園田町で「楽都(らくと)」というシェアハウスの運営に関わっていたそう。「楽都の時に親切にしてくれた大人のようになりたいと思ってきました。最近は若者が集まってきているので、今は世代をつなぐことが役割なんだと感じています」と松村さん。尼崎に住みたいという若者が多く訪れることから、これからまた新しくシェアハウスを作りたいとも考えているそう。「園田地域は、やりたい人が勝手にいろんなことを立ち上げて盛り上げている、でも誰もそれを否定しない風潮があります。毎週のように祭りやイベントがあるんですよ」と、新しいことを始めやすい地域だと教えてくれました。松村さんの人柄に惹かれ集まった若者が、園田地域で暮らし新しい風を吹かせる、そんな風通しの良い循環が生まれています。