市場生まれの怪獣は救世主か破壊者か

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ガサキングαさん(年齢不詳)/怪獣

シャッターを蹴破って怪獣があばれ出した!


 阪神尼崎駅に近い三和市場の暗い地下に数万年前から眠っていたところを商店主たちが誤って起こしてしまい、シャッターを蹴破ってあばれ出した怪獣──。

 そんなプロフィールを持つ「ガサキングα」さん。出没情報をキャッチし、直接取材を試みようと駆けつけましたが、こちらの呼びかけに振り向いてはくれるものの、言葉はやはり通じません。尼崎愛を背負う名前は、同時に「あまりに凶暴でがさつな性格」の意味もあるといい、むやみに近づいて怒らせてもいけません。


言葉が通じない怪獣の代わりに話しをしてくれた三和市場で精肉店を営む森谷壽さん

 困っていたところ、マネージャーのようにつきそっていた男性が取材に応じてくれました。三和市場の精肉店「マルサ商店」のご店主で、市場のイベントスペース「虎の穴」を運営する森谷壽さん。ガサキングαさんを「誤って起こしてしまった」一人です。


 「よく見てもらえば、頭の角は『3』の形で、胸には『三』の文字があるでしょう。背びれも3枚、手足の指も3本。三和市場生まれの印です。でも、ご当地怪獣やゆるキャラというほどゆるくないし、怪獣ですから、あばれて町をこわします。なんのために生まれてきたのか、それはまだわかりません」

 と、なぞめいた解説。しかし、子どものころから大の怪獣マニアで、ガサキングαの映画制作をめざす森谷さんのプロジェクトにかける思いを聞いていくと、なるほどありがちなゆるキャラではなく、マニアの「本気(ガチ)」が生んだ怪獣なのだと伝わってきます。

一流の制作陣が作った「稼げる」怪獣


 きっかけは2011年ごろ。さびしくなった三和市場に人を呼ぼうと、森谷さんが虎の穴ではじめた「怪獣市場」(当初は「怪獣酒場」)でした。マニアが集まって好きな怪獣や特撮作品を思いっきりマニアックに語り合い、盛り上がろうというイベントです。

 「怪獣マニアって全国にいるんですよ。初対面でも、好きな怪獣を聞けば『ああ、あなたはウルトラマンの円谷系ですね』『ゴジラの東宝系ですね』といっぺんにわかり合える。そういう人が遠方からも集まってきましてね。そのうち、怪獣フィギュアのメーカー、怪獣映画の制作者や出演者にも話が伝わり、遊びに来てくれるようになったんです。そこから『この市場の怪獣を作られへんかな』という話が自然と盛り上がって」


 構想数年。まずはブロマイドを制作・販売して資金を貯め、2016年、尼崎市市制100周年に合わせてフィギュアを発売。体長10cmと小ぶりですが、「平成ゴジラシリーズ」を手掛けたマンガ家の西川伸司さんがデザイン、ライトノベル作家の馬場卓也さんがキャラクター設定を担当、怪獣フィギュアの有名メーカーが製作した本格派でした。1体5,400円という価格ながらマニアたちに歓迎され、200体を完売。これを元手に今度は着ぐるみを制作、さらに映画制作へ……と夢が広がってきたわけです。

 「この子は自分の食い扶持を自分で稼いでくれるんですよ。市場の怪獣やからね。物を売ってお金を稼ぐ。儲けはみんなで分け合って、さらに大きくする。そんな市場の発想がベースにあるんです」

昭和の市場がサブカル発信基地に


 精肉店の三代目である森谷さんは、三和市場の変化をずっと見てきました。阪神間の台所としてにぎわっていた子どものころは、父親や職人たちの仕事が終わると、一緒に映画を見に行くのが一番の娯楽だったといいます。怪獣好き・映画好きの原点もそこにあります。

 それが1995年の阪神・淡路大震災を境に急速に衰退していきます。最大54軒あった市場は、高齢化と後継者不足に震災が重なってバタバタと閉じ、シャッターが目立つようになりました。それまで「趣味と仕事は別」と一線を引いていた森谷さんですが、市の空き店舗対策で店の向かいに虎の穴ができたことで、一気にマニア心が爆発。怪獣以外にも、マンガ、映画、音楽、怪談……など、森谷さんのネットワークから次々とイベントが生まれます。昭和の面影が残る市場は、サブカルチャーの発信基地としても知られるようになったのです。


 「怪獣市場のお客さんがフィギュアの店を開いたり、古い市場の雰囲気を気に入ってくれた人がライブハウスを作ったり、この3年の間に6軒の新しい店ができました。

 虎の穴のイベントは、いろんなジャンルの人がかわるがわる月に4回やってます。怪獣関係では昨年、市場まつりにウルトラセブンのモロボシ・ダンを演じていた森次晃嗣さんや、モモレンジャー役だった小牧リサさんが来てくれてトークショーとサイン会をしたりね」

 まさかこんなにつながっていくとは……と、森谷さん自身がおどろいています。

「破壊」の先に描く「再生」


 「最初から何かを計画してたわけやないんです。その時どきで、ただおもしろいと思う方向にかじ取りしてたらこうなっただけ」と森谷さん。マニアの熱意と、市場や町に眠っていた力が自然と合わさり、ガサキングαという存在は生まれてきたのでしょう。

 では、あらためて。ガサキングαさんはこれからどこへ向かうのでしょう。映画ができ、全国に名前を売って、三和市場の救世主になっていくのでしょうか。

 「いや、それはどうかなあ。怪獣はあばれて破壊しないとおもしろくないからね(笑)」

 と、またもなぞめいた答え。しかし最後に森谷さんはこう力を込めました。

 「でも、破壊の先に何があるかと言えば、それは再生しかないんです。その象徴に、この子がなってくれればいいかな」











(プロフィール)

がさきんぐ・あるふぁ 三和市場を舞台とした田口清隆監督のショートフィルムがすでに公開されているのに続き、さらに現在、短編映画プロジェクトが進行中。18年完成予定の尼崎城とからむ構想も。

 

もりたに・ひさし 三和市場の「マルサ商店」店主兼イベントスペース「虎の穴」大店長。子どものころからの映画好きが高じて、学生時代は映画館でアルバイト。上映会の企画などもおこなってきた。怪獣・特撮だけでなく、西部劇や007シリーズなど映画全般に精通し、虎の穴のイベントではマニアックなツッコミで盛り上げ役にもなっている。