「好き」でつながるコミュニティみたいな尼崎の雑貨店

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店主の福本昌代さん
福本昌代さん(45)/Dent-de-lion店主

北海道から九州まで各地のつくり手とつながる


お店の外観
2階建ての一軒家が雑貨店。四季の移ろいを感じられる庭もある

 橘公園近くの住宅街に「ここは何?」と思わず立ち止まってしまう、たんぽぽの絵柄の銅板を掲げる一軒家があります。ここは、築65年ほどの民家を改装した雑貨店「Dent-de-lion」(ダンドゥリオン)です。

 バッグやアクセサリー、洋服、生活雑貨、食器、食品、植物など、店主の福本昌代さんがセレクトした美しい手仕事によって生み出されたものや楽しいデザインのもの、アイデアの面白いものが店内に並び、つくり手の世界観に触れることのできる企画展やワークショップなども開催されています。

 作家やクリエーター、手づくりや雑貨、インテリアが好きな人、さらには10~70代の幅広い世代の人たちが集い、交流し、それぞれの暮らしがもっと楽しくなるということが起きているようです。

大阪・南堀江から尼崎へ


店内で取材を受ける福本さん
関西に雑貨系の専門学校がなかったため、1年半ほど東京で暮らしていたことも

 子どもの頃から巾着袋を手づくりして友だちにプレゼントするなど、裁縫好きだったという福本さん。

 つくり手になるべく服飾系の短大に進学しましたが、雑貨店でアルバイトをするうち、商品セレクトやコーナー企画など雑貨の仕事に魅力を感じ、雑貨店を開きたいという夢に変わったと言います。

 雑貨店経営を学ぶ専門学校を経て、雑貨メーカーに就職。その4年間に、自身も作家としてフリーマーケットなどに出店し、今もつながる作家やクリエーターと出会います。

 2001年に大阪・南堀江の個人店が入居するビルの2階に同店をオープン。以来15年間、メディアにも複数取り上げられるなど、人気店でした。


庭の様子
家に猫が住み着いていて、「リオンちゃん」「ポポちゃん」と親しまれている

 現在の場所に移転してきたのは、2015年のことです。

 「オープン当初から時代もまちも自分も変化してきたので、続けていくために移転を決めました。今度は風景を楽しめる一軒家でしたいと大阪府内で探していたのですが、思い描く物件が見つからずに諦めかけていたところ、この家と出会ったんです。土地勘のない場所でしたが、ここでお店をしているイメージが広がりました」

出会いや交流の一つひとつを、店の世界観に


1階奥の常設スペース
1階は「企画展などのスペース」と「常設スペース」にわかれる。ここは「常設スペース」

 南堀江時代は場所柄もあって、バッグやアクセサリー、洋服などファッション系が中心でしたが、移転後は生活雑貨、食器、食品、植物など幅広いアイテムを取り扱っています。

 「ここに集ってくださった方々とのご縁で、今のお店の世界観が出来上がったと感じています」


2階の教室とワークショップのスペース
2階では編み物や刺繍の教室のほか、ワークショップも開催

 「庭があるなら」と以前からつきあいのある農園からハーブが届いたり、作家から「教室をしたい」という申し出があったり、生活雑貨を求める声に応えたいと思っていたら作家仲間から器作家を紹介してもらったり。

 訪れた人と会話する中で、その人がつくり手であると知り、人柄や想いなどに触れ、企画展参加をオファーしたこともあったと言います。

 そんな一つひとつの出会いや交流を、まるで編み込んでいくかのように、福本さんが同店の世界観をつくっているのです。

「わざわざ行きたくなる理由」がある


1階の企画展や個展などのスペース
1階の「企画展などのスペース」。取材時は関東在住のバッグ作家の個展中だった

 さまざまな人たちが集うのには、わざわざ行きたくなる理由があるからです。

 福本さんが作家活動をしていた時期も含め、20年以上にわたって雑貨に関わる中で、北海道から九州まで多彩な作家やクリエーターとのつながりがあるとともに、同店として各地への出店も続けています。

 そんなつながりや行く先々での新しい出会いを生かし、月に1~2回ほど企画展や個展、受注会を開催しているので、訪れるたびに新しい出会いや発見があります。また、作家やクリエーターが在店する日もあり、つくり手と直接会って話せる機会もつくっています。


接客中の福本さん
取材時には市内のほか、川西市や神戸市から来店があった

 来店理由は「好きな作家の作品の取り扱いが近くではここだから」「SNSなどを見て気になっていたから」などさまざまですが、1度訪れたら同店のファンになって常連になり、さらには知人や友人に紹介するなど、輪は広がり続けています。

 店名の由来「たんぽぽ」のように、強く、優しく。福本さんと、福本さんがつくり出す世界観が、訪れる人たちを包み込んでくれるから、また行きたくなるのです。

日常が「もっと楽しくなる」入り口


接客中の福本さん
「ここから出かけてもらえる、近隣のお店が増えたらいいな」と福本さん

 同店での出会いやつながりは、日常の中にずっと続いていきます。

 「お客さま同士が、バッグを見ながら『それ、かわいいですよね』から会話が始まり、『またここで会いましょう』『あそこにも一緒に行きましょう』と仲良くなっておられるのを見ているのが楽しいです」

 共通の「好き」でつながるコミュニティが生まれているほか、教室きっかけで本格的にものづくりを始めようとしている人や同店での出会い、体験をきっかけにほかのギャラリーに出かけた人などもいて、「何かのきっかけになれていたらうれしい」と福本さん。


店内で取材を受ける福本さん
作家同士が出会うきっかけになればと、コラボレーション企画もよく行う

 いろいろなヒト、モノ、コトをつないでいる福本さんですが、市外在住から見て、尼崎で暮らすとどんなことが楽しそうだと思っているのでしょうか。最後にうかがってみました。

 「お客さま同士でまちの情報交換をされていて、『市場にはおいしいものがあるし、物価も安いから、暮らしやすい』という話を聞きます。『お肉ならここ』『天ぷらならここ』『あそこの何々がおいしい』という個人店がたくさんあって楽しそうです」

 さらに「帰り際の挨拶『またね』は、大阪では『バイバイ』という意味合いだと思っていましたが、尼崎では本当にまた来てくださいます。情が深い方々が多いなと思っています」という印象も教えてくれました。


展示中のバッグを持って笑う福本さん

入り口の店ロゴ

大阪・南堀江時代の看板

ドライフラワーのリース

食器が並ぶコーナー

食品が並ぶコーナー

2階に続く階段

2階の様子

2階から撮影した庭

(プロフィール)

ふくもと・まさよ 短大卒業後、雑貨店経営を学ぶ専門学校を経て、雑貨メーカーで4年ほど勤務。2001年に大阪・南堀江に雑貨店「Dent-de-lion」をオープン、2015年に現在の場所に移転。