尼崎のあんまり「授業」しない塾

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太田洋平さん(30)/塾講師
太田洋平さん(30)/塾講師

 JR尼崎駅から南に10分ほど歩いた場所に、一階がガラス張りになった三階建ての建物があります。「学習教室こかげ」と書かれた看板の横には、「あんまり授業しない塾」の文字。中の様子をうかがっていると、塾講師とは思えないほどラフな出立ちをした太田洋平さんが出迎えてくれました。

勉強が全てじゃないと伝えたい


話をする太田さん

 「学習教室こかげ」がスタートしたのは2017年。塚口エリアの施設3カ所を間借りして、月2回ずつ学習支援事業を始めました。その後デイサービス内を間借りした塾運営を経て、2019年10月から現在の場所に独立しました。

 通っているのは小学生から高校生までの20人。授業コースは、太田さん一人に対して生徒3人で、学校の授業で足りない部分を補う学習から、難関大学を目指し受験に特化した指導まで行います。自習コースは、各自勉強をしながら分からないところを太田さんが教える形式。自習室は塾生でなくても一日300円で利用ができます。


学習教室こかげの内観

 太田さんが塾講師の仕事と出会ったのは大学生の頃。高校生までは授業を聞いているだけで勉強ができたという太田さん。部活は野球部に所属して練習に励んでいましたが、特にやりたいことがあった訳ではなかったそう。京都の大学へ進学後、塾講師をする中で教科書を読んでも分からない子や、やりたいことがあるのに勉強ができずに困っている子どもと出会います。その姿を見て「この子たちを支えてあげたい。生徒のために勉強を教えることなら一生懸命頑張れそうだ」とやりたいことを見つけ、教員免許を取得できる大学に入学し直しました。


勉強を教える太田さん

 学習教室こかげには不登校などの課題を抱えている生徒もおり、家庭環境や悩み事など、「勉強ができない理由」も気にかけていると言います。「僕自身、勉強ができればそれでいいと思って学生時代を過ごしてきたけど、生徒にはそれだけが全てじゃないことを教えたいんです。生きるのはちょっと楽しいと伝えたい」と太田さんは言います。市内で開かれるイベントに生徒にも声をかけて一緒に参加するなど、学習指導だけに留まらず積極的に生徒と地域のつながりを作っています。それは「いろんな大人に出会い、いろんな生き方を知ることが子どもにとって大切」だと考えているから。

コンセプトは「人生は自由研究だ」


森の自由研究フェスの様子(写真提供:大森亮平)
森の自由研究フェスの様子(写真提供:大森亮平)

 2017年に始まった「森の自由研究フェス」も、子どもがさまざまな大人と出会う機会のひとつ。尼崎の森中央緑地の大芝生広場を会場に、夏休みの自由研究になる題材を体験できるイベントです。太田さんを含め3人のスタッフでスタートした企画でしたが、2019年の第3回にはスライム作りや昆虫食のワークショップなど40ブースが出展し、約2500人が訪れる大規模イベントになりました。「このイベントの裏テーマは、『人生は自由研究だ』なんです。大人も毎日、自由研究をしていると思っていて。生きることは自由研究ばかりだと思うんです。答えがある問題を解くことよりも、どうしたら上手くいくだろうと考えることの方が社会では多いので、そのあたりを子どもたちに伝えたいですね」


森の自由研究フェスのスタッフ

 現在は当日のボランティアを合わせると30人以上のスタッフが関わるイベントに成長しましたが、「チームを動かすのは得意じゃないんです」と笑う太田さん。「方向性を決めるのも得意じゃないし、あれやってなかったと後から気づくこともよくあります。だからいろんな人がつながって形になっていることがありがたいですね。迷惑をかけながらも、続けられていることが自信にもなっています」。そんな気負いのない太田さんだからこそ、子どもも大人も気を許して集まってくるのだと感じます。

尼崎に溢れるおもろいエネルギー


小学校で授業をする太田さん

2020年度からは、尼崎の環境を学び、考える「NPO法人あまがさき環境オープンカレッジ」の職員としても勤務。オリジナル環境教育用テキスト『めざせ!エコあまレンジャー!』の作成を担い、教材を活用した身近なゴミと地球温暖化について、知り、考え、行動する授業を市内の小学校で実施しています。尼崎で活躍の幅を広げる太田さんの目には、このまちはどのように映っているのでしょうか。「どこかで聞いた受け売りですが、尼崎の人は損得じゃなくて、『おもろいか、おもろくないか』で動くと思うんです。『面白い』じゃなくて『おもろい』。一生懸命遊んでいると人が集まってきて、それ自体がおもろいなと。金儲けしたいとかよりも、おもろいことをしたい人のエネルギーで溢れているまちですね」。



オリジナル環境教育用テキスト『めざせ!エコあまレンジャー!』

話をする太田さん

教室に置かれた本棚

時間割

話をする太田さん

教室に置かれたボードゲーム

まるでジブリの映画のように傘を持つ太田さん

オリジナルのエコバック

 

 

(プロフィール)
おおた・ようへい 尼崎市出身、尼崎市在住。「学習教室こかげ」を経営。愛称はジブリの映画になぞらえて「ととろ」。学習教室がある建物の2、3階ではシェアハウスを運営中。自分のことはマメにできないが、人のお世話は得意だと話す。