ヤングケアラーって知ってますか?若者の声で社会を変える。

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原田伊織さん(20)/大学生

 最近、尼崎の若者に注目が集まっていることをご存知ですか。今回ご紹介する大学3年生の原田伊織さんも尼崎で活躍している若者のひとり。現在の活動をはじめる第一歩となったのは、高校3年生のときに参加した、入学予定の大学で開かれた「子どもの生活を支援する」をテーマにした公開講座。自分も何かやってみたいと感化されたことがきっかけです。

 地域でボランティアをするうちに、若者が集う尼崎市立ユース交流センターを紹介されます。そこでは若者の声を集め地域を変えるユースカウンシル事業「Up to You!」がスタート。原田さんは2021年1月から0期生としてプログラムの立ち上げに関わり、2022年4月からは1期生の代表として活動を始めました。

授業で知ったヤングケアラーは自分だった。


取材は「Up To You!」の活動を行う尼崎市立ユース交流センター「あまぽーと」で

 「Up to You!」は、おおむね14歳から29歳までのユース世代が、自身が感じる社会課題をテーマに定め1年間かけて解決策を模索し、最後には尼崎市に提言するプログラム。原田さんは高校3年生のときに授業で知った「ヤングケアラー」を自分のテーマにしました。ヤングケアラーとは、本来大人が担うと想定される家事や家族の世話を行なっていることにより、やりたいことができないなど、子ども自身の権利が守られていないと思われる子どものこと。2020年に厚生労働省が初めて全国調査を行い、中学生は17人に1人、高校生は24人に1人が当てはまるといいます。


尼崎市立ユース交流センター「あまぽーと」の内観

 原田さんもテーマ設定をしたときには認識していませんでしたが、事例を調べていくうちに自身も当てはまることに気がつきます。母子家庭で育った原田さんは、高校1年生のときに母が精神疾患と診断されました。母の相談を夕食時から翌朝の4時まで聞く日々が続き、学校に遅刻するなど学業に支障が出ていたのです。

ラベリングでは伝わらない実際の体験


話をする原田さん

「自分自身が“当事者”だと気づいても『だから?』という感じでした」と話す原田さん。ひとりで抱え込んでしまいそうな状況ですが、原田さんは持ち前の行動力を活かして、同じ立場の人と話ができるヤングケアラーの当事者会に参加します。「元ケアラーだったという先輩にアドバイスをもらうことで、自分の一部がヤングケアラーなのであって、全部がそうではないと整理がつきました」。ヤングケアラーとラベリングされることは原田さんの人格が否定されているわけではなく、「人格と抱えている問題は別」だと切り離して捉えるようになりました。


ユース交流センターのスタッフと交流する原田さん

 「今振り返ったら大変だったと思いますが、当時はそれが普通でしたね」と高校生のときは置かれている状況に不満はなかったそう。小さい頃から母との会話が多い家庭で育ったので、長時間にわたって相談に乗ることも「ただ夜更かししただけ」だと友達にも相談することはありませんでした。

 高校では将棋部と園芸部の部長を務め、将棋部では兵庫県大会の決勝トーナメントに進出。さらに大学資金を稼ぐためにアルバイトもこなし、充実した高校生活だったと回想します。一方で客観的に振り返れば、母の相談を聞くため、テスト勉強ができなかったり、高校生らしく遊ぶ時間が少なかったりと制限があったのも事実だと話します。

若者の「やってみたい」を応援できるまち


話をする原田さん

「“ヤングケアラーだから”という理由でやりたいことをあきらめるのは違うと思うんです」と原田さん。「Up to You!」の事業で提言したヤングケアラーの世帯調査も行われていますが、小学生や中学生に「ヤングケアラー」だとラベリングしたところで、行政の制度が整っていない現状では一人ひとりの状況に合った継続的な支援をすることに限界があると話します。

 だからこそ、自分らしく居られるユース交流センターや、やりたいことを応援し伴走してくれる「Up to You!」の事業のように、若者の「やってみたい」の気持ちを後押しするプラスの働きかけが必要だと主張します。


階段から顔を覗かせる原田さん

 原田さんには、家庭の事情にいち早く気づいてくれた高校の担任やシェアハウスに誘ってくれた人、おせっかいをしてくれる人、話を聞いてくれるユースワーカーなど、たくさんの大人との出会いがありました。「尼崎じゃないと今の活動はできなかったと思います。僕らの仲間が『尼崎は出会う大人の質が良い』と言っていましたが、本当にその通りだと思います」。まちの大人やヤングケアラーを経験した先輩が、世代を超えて若者のやりたいことを応援する体制が尼崎では広がりつつあるのです。

若者が参画すればきっと社会は変わる


笑顔で話をする原田さん

 現在はそういった実態を伝える講演や、若者からヤングケアラーに関することややりたいことについて相談を受けるなどの支援活動のほかに、スケートパーク設立を目指すNPO法人ASKの理事、「Up to You!」のプログラムなど、多岐にわたる活動をしている原田さん。さらに今年度からはこれまでの活動が評価され、若者代表としてこども家庭庁が開く「こども家庭審議会」の委員にも選出されました。大学に通う時間がないというほど多忙な日々ですが、原田さんが思い描く「若者が社会に参画し、若者の意見が反映される社会」を目指して挑戦し続けています。


パソコンに「アマガサキ」シールを貼る様子

施設の前で写真に映る原田さん

ユース交流センターにはヨギボーも置かれている

(プロフィール)
はらだ・いおり
2003年4人兄弟の末っ子として生まれる。現在は尼崎市内のシェアハウスで暮らす。将来は子どもに関わる仕事がしたいという思いから、高校で介護福祉士の免許を取得し、大学では社会福祉士の勉強をしている。