「みんなの尼崎大学」は実在する大学ではありません。そのかわりに、まちの人たちが「うちはキャンパスだ」と名乗ればそこが大学になります。スクールモットーの「どこでも教室」を面白がろうと、市内の商店街が「ほな、うちは商学部や」と名乗りを上げました。
お店が教室。プロの技を学ぶ21講座
「炭火焼き鳥の美味しい焼き方」「女子ひとりで飲食店経営」「安くて旨いだけじゃない南アフリカワイン」「ぽっこりお腹を美しく見せる着物着付教室」タイトルを見るだけで、その面白さと奥の深さを感じる授業の数々。
教室は焼き鳥屋、食堂、酒屋、呉服店など、それぞれの店主からプロの技や知識を学びます。3月はじめの6日間で、21講座が市内各地で開かれました。
主催したのは「尼崎商店街サミット」なる団体。地域を越えて尼崎の商店街の魅力を知ってもらおうと中央、杭瀬、立花、塚口の4地域にある5つの商店街(G5と呼ぶらしいです)で結成されました。
2015年には商店街の将来目標を議定書としてまとめ、それらの達成に向けて、毎月にぎやかな会議を開いています。
「どこも長く地域に密着した商売をしてきましたが、時代が変わりチェーン店やインターネットに対抗するために力をあわせて何ができるのか、改めて考えるようになったんです」とサミットの代表で中央五丁目商店街の井原勝理事長が、サミット結成のきっかけを話してくれました。
まちのお店を好きになってほしい
議定書には「商店街のファンを増やしたい」という目標が掲げられています。
「店主の人柄、きめ細やかなサービスや誠実さにふれてもらう絶好の機会」と思い、みんなの尼崎大学の趣旨に賛同しました。
2016年から「塚口文化祭」として、これまでにも様々な講座を開催してきた塚口商店街からは8店舗が参加。鮮魚の卸業と小売を営む「魚里本家」では「お魚ゼミ」を開催しました。
満員のお客さんはほとんどが女性。幅広い年齢層の生徒さんが集まりました。
まずは代表の里村文崇さんが、家庭に魚が届くまでの流れをホワイトボードで説明しはじめると、熱心にメモを取りはじめるみなさん。笑いを交えながらの90分間授業が終わると、質問も続出しました。
「うちの扱う魚は、少し値が張るんです。だからこそお客さんに丁寧に、魚のおいしさを調理方法なんかと一緒に伝えたくて」とゼミを企画した里村さん。
「これで魚嫌いの子どもにも美味しく食べさせることができそう。知り合いのお母さんにもおすすめしたい授業でした」という生徒さんの感想も寄せられました。
学割、制服、新サービスも計画中
立花ジョイタウン商店街の理事長で、婦人服店を営む峯松完治さんは、この大学ごっこをとにかく面白がっています。
峰松さん発案で製作されたUCMAと書かれた派手なのぼりは、尼崎商店街サミットから尼崎市へと寄贈されました。「うちでUCMAのトレーナー作ってもええかな」とアイデアはつきません。
「今回の商学部にあわせて、学割メニューを作ってくれませんか。」というリクエストにも「どうせなら単なる割引じゃなくて、参加型がええな」と構想を練っている様子。
「家庭でも美味しいたこ焼きを作る方法」を担当した「たいこまんじゅうふじた」店主の金桶直樹さんは、「予想以上に喜んでもらえて、こちらも嬉しくなりました」と手応えを感じている様子。「セルフたこ焼き」という新サービスのアイデアも浮かんできたといいます。
モノの売り買いや損得だけの関係ではなく、「売り手よし、買い手よし、世間よし」の三方よしが商売の基本だといわれます。店主の知識や技を少しだけ“おすそわけ”してもらえる、そんなオープンセミナーは次回の開催も決定しました。
どこで買うか、誰から買うか。というのは、実はまちでの暮らしを考える上でとても大切なことなのかもしれません。