第15回みんなの尼崎大学オープンキャンパス@あまらぶアートラボ[A-Lab]

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阪神尼崎駅から北東へ15分ほど歩いたところに位置する、あまらぶアートラボ「A-Lab(えーらぼ)」。地域の会館かな?とも思わせるその外観は、公民館をリノベーション(改修)した名残です。なんとリノベーション作業は、職員さんがほとんど自分たちでしたというから驚きです。


この「A-Lab」はアート発信拠点として、2015年に誕生しました。年間を通して様々な展示や、アーティストによるワークショップが行われています。会期は通常1ヶ月半~2ヶ月程度とのこと。今回のオープンキャンパス開催時も、とある展示の会期中でした。

展覧会のタイトルは「□△も積もれば◯となる」。


部屋の壁一面の作品。よく見ると、道路標識の一部や看板の文字など、まちなかのモチーフが「こすりだし」で重なっている

今回のオープンキャンパスでは、今回の展覧会の作者・野原万里絵さんにもご協力いただきながら進めることに。野原さんは、人やまち、ものなどの輪郭・型をキーワードにし、それらのテンプレートを作成、複製、重ねる、ずらす、消す、を繰り返すことによって、偶然性のある絵を描くことを得意とされています。また、作品の制作、展示会への出展はもちろんのこと、普段は大阪で美術の先生としても活動されています。

展示は4つのスペースに分かれており、それぞれの部屋に作品のタイトルがついています。今回の展示「□△も積もれば◯となる」では、作品の制作過程に使われたテンプレート(型・カッティングシート)と、それによって生まれた実際の作品が並ぶ、という見せ方がされていました。


倉庫内、奥には「こすりだし」に使った型が展示されている

こちらの部屋では「型」を展示している

こちらは和室。まちなかのモチーフを模った粘土が、庭園の石のように配置されている

なんとまず参加者には、そのタイトルを当てるというクイズが出題されます。30分間じっくり会場を巡り、作品を鑑賞し、タイトルを考えます。なんとハードルの高い課題。


思い思いのタイトルを書く参加者。当たるなんてことはあり得るのか

30分経ったのち、会場に集合。近くに座っている方と「どんなタイトルにした?」「どう思った?」など、感想を共有します。


素知らぬ顔で参加者の答えを眺める野原さん(中央)。この時点で実は作者の野原さんも会場に紛れ込んでいたのです

その後は答え合わせ。「蓄積の痕跡」「まちをなぞる」「かたちの収蔵庫」「箱庭」というのが本当の作品タイトルなのですが、さすがに当てられるはずもなく(ただ、近い方はいらっしゃいました)、作者の野原さんだけが全問正解。全問正解したのは誰だ!?という流れで、作者が紹介されました。

意外と最後までバレることなく、ご登場いただけたのがよかったですね。さすがに話をしていたグループの方々にはバレていましたが。

それから、野原さんに作品のコンセプトや意図、また、作品のつくり方や現在の作風になったいきさつ、そして、どのような思いで制作をしているのかなど、色々とお聞かせいただきました。野原さんと尼崎との縁は今回が初めてのようで、この展示の制作を機に、いろいろとまちなかを巡られたそうです。以前、オープンキャンパスでも訪問させていただいた「田能資料館」や「文化財収蔵庫」が、特にお気に入りとのこと。

今回の作品は、園田学園女子大学との連携プロジェクトであったため、学生とともに制作を進められたそうです。日常ではあまり意識しない「まちで出くわすいろいろなものの形」にスポットを当て、木炭とカッティングシートを使って、それらを描いていきます。様々な形の蓄積によってまちができている、しかもそれは重なり合いながら、さらに別の形を生み出していく。塗り固められて見えなくなってしまった過去もまた、現在を輝かせるための意味ある蓄積なのかもしれません。


解説される野原さん。話すのはあまり得意ではないとおっしゃっていましたが、丁寧に説明してくださいました

特に印象的なお話がありました。「言葉で表現できないものが表現されていないと、作品をつくる意味がない」。ハッとさせられました。アートをアートたらしめているものはなんなのか。そんなことを考える機会をいただけたように思います。

その後は「A-Lab」を担当するシティプロモーション事業担当課長の松長昌男さんより、施設ができた経緯や施設が目指しているものなどをご説明いただきました。


アートに造詣が深い松長課長。博物館学芸員資格もお持ちで、「A-Lab」にかける想いはとても熱い

今回の会場である「A-Lab」という施設は、若手アーティストの夢とチャレンジを応援すること、今あるものの活用を考えること、そして子どもたちへ文化資本を蓄積すること、という3つを目指して運営がなされています。

もちろん、若手アーティストの発掘や育成には力を入れています。しかし特に、子どもたちがアートに触れる機会をたくさんつくることで、豊かな感性を育てる(文化資本を蓄積する)ことに注力されています。それこそが「A-Lab」として重要なポイントである、と松長さんは熱を持ってお話ししてくださいました。もしかすると、アートによって救われたり、可能性が開かれたりする子どもたちが、少なくないのかもしれません。


「A-Lab」には子どもも参加できる機会がたくさん

一旦休憩を挟み、今度は参加者も一緒になって話し合う時間に。いくつかのテーマに沿って話を展開していきます。

「展覧会に行く、行かないを決める基準は?」「どうして野球やサッカーはファンが多いの?(でも美術館には行かない人が多い)」「アートが難しいと思われているのはどうして?」など、難しいテーマがたくさん出ました。参加者はそれぞれ関心のあるテーマのグループに加わり、意見交換をします。


このグループは「展示に行く、行かない基準はどこに?」というテーマでセッションしています

20分ほど話すと時間もギリギリになったので、今回のオープンキャンパスはこれにて終了。最初にクイズ形式で作品鑑賞の時間を設けたことで、自然と展示に興味を持っていただけたようです。そのおかげか、普段はあまり現代美術を見ないという方も意見の出るセッションになりました。

後日談ですが、イベントの翌日に開催されていた野原さんのワークショップにも、オープンキャンパスに来られた方のうち何名かの方が参加されたようです。そんな広がりもまたうれしく思います。
(文・みんなの尼崎大学事務局 藤本)

あまらぶアートラボA-Labウェブサイトはこちらから。
http://www.ama-a-lab.com/

募集情報(イベントは終了しています)

 今回の会場は、あまらぶアートラボ「A-Lab」。若手の作家・アーティストの支援や既存ストックの新しい活用、子どもを中心とした文化資本の蓄積などをテーマに、活動や企画を展開されています。
 今回の「みんなの尼崎大学オープンキャンパス」の開催日である1月12日は展示会期中。第一部は、その作品を見ながらアーティストと関わったり、「A-Lab」という施設の成り立ちや位置付けに関するお話を伺ったりします。アートってなんぞや?と思っている方でも大丈夫。わかりやすくお話をしてくださいます。
 第二部では「A-Lab」の今後の展開やチャレンジ、課題について参加者のみなさんとセッションします。参加者の方からのテーマもいただきつつ、場を進めていきます。
 普段のオープンキャンパスとは少し趣向を変えて開催する今回。テーマに関心のある方、学びの場をつくっている方、尼崎での取り組みに関心があるという方など、どなたでもご参加いただけますので、お気軽にお越しください。

■日時
2018年1月12日(金)18:30~21:00
■場所
あまらぶアートラボ「A-Lab」 尼崎市西長洲町2-33-1
■タイムスケジュール
18:30~ 作品鑑賞
19:00~ オープニング・アーティストとのセッション
19:40~ 「A-Lab」ってどんなところ?
20:00~ 休憩
20:10~ セッションタイム 5〜6つのテーマにわかれてお話しをします。
20:50~ クロージング
■ゲストアーティスト
野原 万里絵(のはら まりえ)
1987年大阪府生まれ。2013年京都市立芸術大学大学院 美術研究科絵画専攻 油画 修了。人やまち、ものなどの「型」「輪郭」をキーワードにしながら、作為的な形を自ら多数生み出したテンプレートを作り、それらを複製する、重ねる、ずらす、消すを繰り返すことによって、自らがコントロールできない偶然性のある形を取り入れた絵を描く作品を制作している。
■参加費
無料
■持ち物
筆記用具
■定員
30名程度
■申し込み・問い合わせ
尼崎市役所 尼崎大学・学びと育ち研究担当
Tel:06-4950-0387 Fax:06-4950-0173
Email:ama-ucma@city.amagasaki.hyogo.jp