2023年1月29日(日)は、ブック(29)の日ということで、オープンキャンパス「ブーーーフ!」を開催しました。「ブーフ」とはドイツ語で「本」の意味。尼崎で本をテーマに活動している方々が集結して、トークライブやワークショップ、座談会などを開いた様子をご紹介します。
今回のオープンキャンパスは、4つの会場で同時多発的に8つのプログラムが開かれる、音楽フェスのような形式で開催しました。参加したいプログラムを自由に選んで、阪神尼崎駅周辺をウロウロしながら本にまつわる話を聞きます。
「さんとしょってなんなん?なんで市職員がやってるの?」@中央図書館
一番初めにスタートしたのは、11時から中央図書館で開かれた「さんとしょってなんなん?」のトークライブ。三和本通商店街に1月28日にオープンしたばかりの私設図書館「さんとしょ」について、同施設を運営する一般社団法人オリコムの杉原竜太さんと、一箱本棚オーナーとして参加している「ペーパーユニット匙匙匙匙(さじさじさじさじ)」の筒井さん、川口さんにご登壇いただきました。
さんとしょは、自分だけの本棚を持つことができる「一箱本棚オーナー制度」を導入しており、一箱本棚には本棚オーナーが選書した本が置かれ、利用者は自由に借りることができます。本棚オーナーは、月額のオーナー料(2,000円)を支払うことでなることができます。利用者は、一般の図書館同様に図書カードを作り、2週間2冊まで借りることができます。現在は60人ほどの本棚オーナーが「旅」や「哲学」など多種多様な本を貸し出しています。
運営をしているのは、尼崎市の副業制度を活用して一般社団法人オリコムを立ち上げた市職員の3人。元々は三和本通商店街の自転車マナー向上に関わる中で商店街にシャッターが増えてきたことを実感し、「自分たちで拠点を作り、シャッターを開けよう」と決意。平日は市職員として働きながら運営できるさんとしょをオープンしました。
一箱本棚オーナーの筒井さんは、「私は夫からたまたまもらった本に、人生に絶望した時に救ってもらいました。だから私も本で誰かを救いたい。意図したことではない伝わり方や、思いもよらない出来事がここなら起こるかもと思い一箱本棚オーナーになりました」と熱く語ります。
川口さんは「さんとしょは木材や畳など全て尼崎のもので作られていて、尼崎愛に溢れているところに感銘を受けました。私も猪名川の河川敷の植物にこだわりを持って作品を作っているので、思いがリンクするところがありました」と話していました。さんとしょでは、現在も一箱本棚オーナーを募集しているので、興味のある方はぜひ一度訪れてみてください。
あつまれ!あまがさきの一箱フルホニスト@開明庁舎
同じころ開明庁舎では、「あつまれ!あまがさきの一箱フルホニスト」を開催しました。「フルホニスト」とは、2005年に東京で南陀楼綾繁(なんだろうあやしげ)さんが、本好きの人が店主を務める古本のフリーマケット「一箱古本市」を始め、その出店をする人たちの総称です。今回はあまがさきキューズモールで2カ月に1回開かれている一箱古本市に出店している6組に登壇いただきました。
みなさんに「一箱古本市へのデビューのきっかけ」や「屋号の決め方」「出店の楽しみ」などをお聞きしました。活動歴10年のデイリーマザキさんは、コロナ禍前は全国の一箱古本市を渡り歩いていた経験豊富なフルホニスト。現在は近場に留めていますが、キャリーバックに30〜40冊を詰めて、好きな本や思い入れのある本を広めているそう。ピーニャ文庫さんは屋号をご主人の姓と奥様の旧姓の共通単語から取られたり、ご自身のあだ名を屋号にされたイム書房さん、1月28日に「さんとしょ」をオープンされたオリコムさんは、様々なものを織り込めるような存在になれたらという思いでこのお名前にされたそうです。
みなさん口をそろえておっしゃっていたのが、やはり一箱古本市の楽しみは交流だということ。お客さんとの交流もあれば、出店者同士の交流もあり、好きな本についていろんな方とお話できるところに魅力があるそうです。「これは売れないかも?」という本が売れた時なんかも、自分の感覚と合う人に出会えたような嬉しい気持ちになるそう。みなさんキャラクターが立っていて、どんな本を販売されているのか見てみたくなりました。
二号店が生み出す本を媒介にしたローカルネットワーク@開明庁舎
開明庁舎では13時から「二号店が生み出す本を媒介にしたローカルネットワーク」のトークライブがスタート。二号店は、伊丹や大阪にある古本屋の二号店として本を販売し、まちの人が日替わり店主をするちょっと変わった古本屋です。その日替わり店主「ロッキンチェアーズ」のみなさんにご登壇いただき、「ロッキンチェアーズを始めたきっかけ」や「お店での過ごし方」をお聞きしました。
今回お越しいただいたのは、昔からずっと古本屋さんに興味があり、たまたま見つけた二号店に飛び込んだというsoeさん、尼崎市外でやたらと二号店の名を聞き、行かなければならないという衝動に駆られてやって来たモリモトさん、二号店の本棚作りから参加している北村親子の3組。ロッキンチェアーズは小学生~年配の方まで、バラエティに富んでいます。3カ月に1回のペースで総会を行い、お店の運営方法についてみんなで話し合い、なんとPayPay決済は処理が難しいので辞めたというお話まで。お店では、お客さんがいない時は、好きなレコードをかけたり、パソコン仕事をしたり、各々のペースで好きなことをしているそうです。「二号店で生まれたこと」の質問では、それぞれ「好き」「縁」「つながり」と回答。「ロッキンチェアーズをすることで、いろんな経験ができていることがありがたい!」と二号店への愛を語っていました。
若手の絵本作家・イラストレーターの頭の中って、どーなってんの!?@中央図書館
同じころ中央図書館では、白川烈さん、ミヤザキさん、もち山あやこさんの3人の若手絵本作家・イラストレーターにご登壇いただき、どのように絵本を作っているかお話を聞きました。
絵本への関わり方は三者三様。絵本の文章を考える白川さんに、依頼をもらってから絵本のイラストを作成するというミヤザキさん。普段はお花屋さんで働きながら、イラストも文章も自分で創作するもち山さん。それぞれの絵本の関わり方の違いが新鮮で面白く、3人とも話を聞きながら「へー、そうなんだ!」とそれぞれの考え方やアプローチ方法の違いからトークは大盛り上がりで進んでいきました。「例えば、このネズミはどんなことしたら面白いかなって考えるんです」と話すもち山さん。1匹のネズミがどんな行動をしたら面白いかな?次は何をしたら面白いだろう。そういう風にどんどん想像を膨らませていくと1匹のねずみからストーリーが完成するんだそう。文章を考える白川さん、イラストを描くミヤザキさんとも、少し違うもち山さんの頭の中が新鮮で、面白い。考え方は違っても「絵本が大好き」な3人。好きな絵本や好きなポイントを教え合ったりして、新しい絵本の魅力や楽しみ方が発見できる時間になりました。
ゾクゾクする尼崎の老舗本屋さん〜「小林書店」の場合〜@中央図書館
そのあと14時30分からは「ゾクゾクする尼崎の老舗本屋さん」がスタート。お話をしてくれたのは創業からおよそ70年を迎える尼崎の老舗本屋さん、小林書店の小林由美子さん。小林書店はJR立花駅の北側にある立花商店街を進んでいくと見えてくる10坪ほどの小さなまちの本屋さんです。
小林書店の創業はまだ戦後間もないころ。当時の商店街ではどこのお店も早朝から夜遅くまで営業しており、本屋も例外ではなかったそうです。苦労して働く両親に感謝しつつも「私は商売はしたくない!」と思いながら育った由美子さん。サラリーマンの旦那さんと結婚しましたが、転勤の話がでたことをきっかけに「家族みんなが幸せに暮らす」ことを考え、夫婦で由美子さんの実家の小林書店を継ぐ決断をしました。
とはいえ、本を売るという商売は簡単なものではありませんでした。阪神大震災で店が崩壊し、修理に大金が必要になったときには、本ではなく、お店を出て傘を売ることを決意。本でも傘でも自分が本当に良いと感じたものをお客さんに伝えて、良いと思って買ってほしい。由美子さんの商売に対する真摯な姿勢と人を惹きつける人柄でたくさんのファンがいる小林書店は映画や本にもなっています。その本を読んだ広島の学校の読書部の生徒さんから感想文が送られてきたときは感動して作者の方と広島まで会いに行ってしまったそうです。
そのほかにも本を売るだけでなく、お店で落語会やビブリオバトルの大会を開くなど、たくさんのファンの人たちで盛り上がるまちの本屋さん。この日のお話をきいて新たにファンになった方もいるくらい、魅力的なお話をたくさんお話しくださいました!
尼崎のブランドブックってなんなん?制作の裏側に迫ろう!@開明庁舎
15時からは開明庁舎で、尼崎市が発行している「ブランドブック」についてのトークがスタート。「ブランドブック」とは尼崎市の広報課が発行している、ベルギー人のフォトグラファーが独自の視点で尼崎の人の魅力を切り取った冊子です。今回は制作した広報課の伊達さんと2022年3月に発行された第二弾に出演したモデルのお2人に登壇いただきました。
モデルとして選ばれた時は「第一弾に憧れの先輩がモデルで出ていたので、自分も選ばれたのがとても嬉しかった!」、また撮影時には「たまたま同級生と遭遇した」「そんなところで撮影するんや!」と驚くこともあったそうです。発行された際の反響は、仕事先で「見たよ~!」と声を掛けてもらえて、昨年市外から引っ越してきたばかりなので、ようやく尼崎市民になれたような感覚になったと言います。
制作側の伊達さんのお話では、まちの雰囲気が伝わるようなものを作ることを目的に、第一弾では「“大人が感じるあまらしさ(尼崎らしさ)”を写真メインで表現」、第二弾では「あまらしく活動している若い人やそんな人たちを育んできた尼崎の雰囲気」に焦点をあてたとのこと。会場にはたまたま第一弾のモデルの方もいらっしゃり、急遽質問が飛ぶことも。最後に今回登壇してくれた2人のモデルの「それぞれが思う尼崎」を伺うと、「人が温かい、良い意味であつかましく、言わなくても気付いてくれる・支えてくれる」と、しっかりと尼崎で愛情を受けてくれていました。
なぜ?なに?あのね…みんなで話そう!博物館(対話型鑑賞会)@歴史博物館
時を戻して、14時から歴史博物館では白旗幌さんによる対話型鑑賞会が開かれました。対話型鑑賞会とは、説明などの前情報がない状態で作品を見て、参加者同士で感じたことを対話するワークショップ。今回は、朝鮮通信使が来た際のことを記録した「朝鮮人荷物積搬史」という絵巻物を解説なしで鑑賞したあと、学芸員の解説を聞きました。
解説前の対話では「折り目があるので紙に描かれているのでは。続きがある?」や「人が乗っている船と乗っていない船の違いはなんだろう?」「携帯電話もなかった時代にどうやってこんなに整然と船を並べたんだろう?」など多様な意見が集まりました。
意見交換のあとに実物を見にいくと「やっぱりそうだったんだ!」や「まさかそうだったとは」と対話で出た意見を反芻してさまざまな感想が。デジタル世代で電子的な画像に慣れている小学生からの「スクリーンで見たより、本物の方がきれい…」というコメントが印象的でした。
描かれている船は、瀬戸内海を航行する通信使一団の荷物を搬送するために準備した小舟であり、それを記録として残した絵巻物は、今でいうマニュアル本のような意味をもっていたそう。尼崎藩の命により、沿海の兵庫・西宮・尼崎などの村々に小舟を用意させ、大坂への航海の手はずを整えていたと聞き、ただ小舟が並んでいるだけに見えた絵から、当時の情景を少し想像できるようになりました。
解説された学芸員さんからの「ただの憶測ですが、みなさんの意見を聞いた後で、改めて見てみると人が乗っている・乗っていないの違いは、船の大きさが見てわかるようにするための工夫だったのかもと思えてきました。」という話には、対話型鑑賞会という場で双方向の対話が叶った瞬間を見たようで鳥肌が立ちました。歴史博物館の他の展示物も、みなさんはどんな風に受け取るのか聞いてみたくなるワークショップでした。
ミニあまがさき一箱古本市inあまがさき観光案内所
午後からは阪神尼崎駅北側のあまがさき観光案内所で「ミニあまがさき一箱古本市」を開きました。午前のトークイベントにご出演いただいたフルホニストを中心に、6組が出店。さまざまな人が店主とお喋りを楽しんだり古本をじっくりと眺めていました。
今年度のオープンキャンパスは、今回で全て終了となりました。一年間、市内のさまざまな場所で、多種多様な学びを企画しましたがいかがでしたか? 来年度も面白い企画を考えていますので、お楽しみに! 詳細が決まり次第みんなの尼崎大学のSNSなどで告知しますので、ぜひチェックしてみてくださいね。