8月26日(水)に6月の「やめられないをかんがえる〜コロナと依存症〜」の続編として「酒とコロナ〜やめられないをかんがえる」を開催しました。今回はお酒を飲まない人から、お酒をやめられなくて辛い思いをしたことのある人まで、さまざまな参加者と一緒に自分とお酒との距離を計るゼミを開きました。
自分にとってのアルコール問題とは?
まずは尼崎市保健所の宮本晃子さんから、アルコール取り巻く環境についてお聞きしました。日本でのアルコール消費量は、高齢化の影響もあり90年代をピークに減少傾向にあるそう。そのためアルコール飲料メーカーは、いかにこれまで飲んでいなかった層に飲んでもらうのか趣向を凝らし、アルコール度数の低い飲料を打ち出したり、若い女性を広告に起用したりと新たな顧客の裾野を広げようとしています。
そんな中、不適切な飲酒から国民の健康を保護することを目的に、「アルコール健康障害対策基本法」が平成26年に施行されました。保健所では少しでも依存症患者を減らすため、この法律に基づき自助グループの連携やサポート、啓発活動などを行いながら、専門の治療が必要な人に適切な機関を紹介するなどの活動をしています。
「それではみなさんの飲酒問題の程度を計ってみましょう」と、「AUDIT(オーディット)」というWHOが開発した飲酒者の程度をはかるテストを行いました。質問に答えながら当てはまる点数を足していくと、自分の飲酒の危険度が分かるというもの。自分に依存症の疑いがあるのか、ウェブ上でも簡単に判断することができます。
宮本さんは「数字が小さくローリスク飲酒と結果が出た人も、ちょっとしか飲まないからといって害がないわけではありません。少しなら体に良いと思っている人もいますが、実はちょっとでも飲めばやはり健康に悪影響はあるんですよ」と注意を促します。
そもそもアルコールってなに?
次は、依存症を抱える方の回復支援を行っている「リカバリハウスいちご尼崎」の精神保健福祉士・武輪真吾さんのお話です。
WHOが定めた分類によると、アルコールとは覚せい剤やマリファナ、タバコや睡眠薬と同じく「精神作用物質」という薬物の一つです。大きく分けると日本人のうち約1割は体内にアルコールを分解する酵素が全くなく、約3割はわずかに酵素が働く、飲酒すると赤くなるタイプです。一方で残りの約6割は酵素がよく働き、悪酔いしないため飲み過ぎてしまう。アルコール依存症のうち約9割がこのタイプと言われています。
「アルコール依存症は、脳が変化し飲酒のコントロールができなくなる病気。」と武輪さん。ストレスや孤独などの個人的要因、入手しやすさなどの環境的な要因、アルコールの反復使用などが重なり合い、進行、慢性化していくアルコール依存症は誰にでも起こりうる可能性があります。
アルコール依存症になると、飲酒することが生活の中心になってしまい、欲求がコントロールできなくなるそう。手の震えや不眠などの離脱症状が現れ、依存症患者はそれ以外の人と比べ、自殺率も高いといいます。「アルコール依存症には「否認」という症状があります。飲酒によって問題が起きていることを認めることが難しく、飲酒中心の考え方になってしまうため、自分にも他人にも嘘をつきやすくなります。」と武輪さん。飲酒することが何よりも一番大切になり、人間関係が壊れることもしばしば。そのため「失っていく病、孤立する病」だといわれているそう。
「アルコール依存症に『完治』はありません。つまり、以前のようにうまく飲めていた状態に戻ることはできません。しかし、断酒を続けることでアルコールによる悪影響が薄らぎ、『回復』していくことはできます」と続ける武輪さん。現在の日本ではアルコール依存症への偏見も未だ強く、社会全体で回復しやすい環境を作ることが大切だと話します。
「尼崎では断酒会がほぼ毎晩行われていて、リカバリハウスいちご尼崎などの回復施設もあります。それでも回復が軌道に乗るには、断酒を続けて3年以上かかるといわれてますね」と、武輪さんからのアルコール依存症の知識を聞き、参加者は驚きを隠せません。
続いて、武輪さんにアルコール依存症による入院経験のある男性の体験談を代読していただきました。体験談には幼少期から現在までの生活が綴られ、依存症によってどのように人生が変わっていったのか、またこれから回復に向けての希望が書かれています。淡々とした文章ですが、聞いているだけで胸が苦しくなるような、あまりにも現実味のある内容でした。
依存症になってしまった人は弱いの?
参加者からは「体験談では自分の逃げ癖が原因で依存症になったということが話されていましたが、社会や周囲の環境の影響、偶然のめぐりあわせもあると思います。本人が自分の性格が問題だと感じてしまうことはどうなのでしょうか?」との感想がありました。
それに対し武輪さんからは、「断酒し、回復をしていくには、反省、感謝、報恩が大切だといわれることがあります。私は、最初はなぜ病気の人が「反省」しないといけないのかと違和感がありました。しかし、回復を続ける方に出会う中で、断酒していくためには、自助グループでそれぞれの体験談聴き、「自分がなぜ酒をやめないといけないのか?」という振り返り続けることと、自身も酒害体験を語りを続けることで、回復していくために必要な行動を選択できる力が強くなるということに気づかされました。」
またアルコール依存症の支援をされているという参加者からも「自分がアルコールによって補おうとしている弱さは何なのか。弱さの自覚とその認識が大切。とても重要な観点ですね」と意見がありました。
その他にも「何かのきっかけで誰しも依存症になる可能性があるんだなということを実感した。また、依存症から立ち直るためには周囲の理解や人間関係がやはり大切なんだなと思った」や「自分には断酒会のような自助グループがあると知ったことがありがたかった。それまではどうしたらいいか分らなかった」「依存症に至るまでの背景や元になる要因を社会全体がどうやって改善していくのか」などの声がありました。
最後に武輪さんからは「依存症は社会全体の問題です。依存症について正しく理解してくれる人がもっと増えてほしいと思います」。宮本さんからは「アルコール飲料の広告などを見て、何か考えるきっかけになれば」と締めくくられました。
アルコールとの距離が遠いと感じていた人も、「自分も依存症になりえるかもしれない」と考えが変わった今回のゼミ。本編を予定時間の1時間30分で終了後も、ZOOMのミーティングルームを閉じる30分後まで、参加者の半数以上が残って質問や感想のやりとりがありました。
もちろん「お酒=悪」ではありませんが、自分自身も依存症になりえる可能性があることを知り、これからの付き合い方をしっかりと考え見直したいと思います。こちらの「やめられないをかんがえる」ゼミは第3回も予定していますので、興味のある人はフェイスブックなどをチェックしてみてくださいね。
宮本さんと武輪さんのお話はYouTube「みんなの尼崎大学」でも公開していますのでご覧ください。