新型コロナウイルス感染症の拡大防止のため、学校をはじめ生涯学習プラザや市内のさまざまな学びの場が閉鎖を余儀なくされています。「学び」を通じて市民がつながる本学として、何かできないかと考え、4月27日(月)「みんなの尼崎大学オンラインゼミ」を開きました。
今、新型コロナウイルスの感染者やその家族、さらには感染リスクの高い職業に従事する方へのいわれなき差別や厳しい目線が広がっています。また、ウイルスにまつわるデマや噂が私たちの暮らしにも広まる中、この感染症が社会にもたらすものについて今こそ学ぼうと、急きょ企画したものです。
第1回のテーマは「コロナと人権」。ハンセン病や部落差別、人権啓発の研究者や実践者からの話を聞き、意見交換する場に、市内はもちろん、佐賀県、熊本県、山口県、三重県など遠方からも総勢38 人のゼミ生が集まりました。
さまざまな視点からコロナ禍を見る
「過去から学ぶ〜ハンセン病から見えること」
1人目のゲストは松岡弘之さん。松岡さんは2020年3月まで尼崎市立地域研究史料館の職員で、第18回オープンキャンパスでも先生をしてくれました。4月からは岡山大学文学部で講師をされています。
そんな松岡さんは、ハンセン病問題の近現代史を長年研究されており、今回はハンセン病から見る新型コロナについてお聞きしました。
ハンセン病は、らい菌が皮膚と神経を侵す慢性の感染症。日本では1907〜1996年の間、感染者を療養所に隔離する施策が行われていました。1940年代に特効薬ができますが、「遺伝でうつる」などの誤った理解から差別が行われ、療養所でも人権侵害がありました。不安や恐怖から、市民が感染者をあぶり出すということまでも見られたのだとか。
「新型コロナの報道では『正しく恐れる』という言葉を見聞きしますが、この言葉にモヤッとしているんです。未解明のウイルスの、いろんな『正しい』情報が出てきている。正しさが人を追いつめることもあると思うんです。何をよりどころにすれば、患者さんやご家族、関係者の皆さんをサポートできるのか。『分かり合えない人』への憎しみや分断が起こっている中で、それをどう乗り越えていくのかが大切なんだと思います」と松岡さん。また歴史家として、新型コロナを経験した私たちは何を未来に託せるのか、解析されるビックデータの管理は誰がするべきなのか、という課題も指摘しています。
「SNSが拡散するデマと差別〜部落差別から見えること」
2人目のゲストは、NPO法人スマイルひろば事務局長の細見義博さん。2000年前後からインターネット上の差別書き込みに取り組んできた経験をもとに話していただきました。
人間には見えない敵に対する恐怖や不安を、特定の人や職業に対してレッテルを貼ることで安心する心理があるといいます。また、日本には「ケガレ」「キヨメ」という概念があり、「病、死、産、血」にまつわることを「ケガレ」として恐れ、感染(うつ)るものとされていたということ。部落差別はもともと動物の死体処理など「ケガレ」を儀礼で「キヨメ」ていた人たちへの畏怖の念が蔑視に変わり、差別されるようになったのがはじまりといわれていることなど、話題提供してくれました。現代でもインターネット上の差別的発言など、差別の意識が市民社会の根底に流れているといいます。
恐怖や不安から生まれた偏見が差別を生み、暴力につながる憎悪のピラミットを防ぐには、どうすればよいのでしょうか。細見さんは「正確な情報を得て自分で考えること。許せない自分を認めることが大切です。また権力関係や制度についても理解する必要があります」と締めくくられました。
「今伝えたいメッセージとは〜人権啓発の現場から」
3人目のゲストは尼崎市ダイバーシティ推進課課長の後藤真弓さん。
「知らず知らずのうちに人を傷つけているかもしれません。違う立場の人の状況や気持ちを想像することが大切です」と呼びかけます。医療従事者など感染の機会が多いと考えられる職業の人が、子どもがいじめにあう、引っ越し業者にキャンセルされる、タクシーで乗車拒否されるなど、身を削って医療に従事しても報われないどころか差別を受けている現状があります。
「感染拡大防止という観点からも、差別により、熱や咳があっても受診をためらうということは問題です。誰かを誹謗中傷して責めるのではなく、労りや感謝の気持ちを持って頑張っている人を応援できるような尼崎であってほしい」と話していました。
それぞれの思いを共有しよう
3人のゲストトークのあとは、参加者同士で小さなグループにわかれて感想やそれぞれの体験を共有しました。
参加者からは「自分の中の正しいという思いが『正義』に変わったときにバッシングが生まれていると感じた。人それぞれに状況も考え方も違うので、対話が大切だと思った」や「背景にあるのはそれぞれの身近な不安やしんどさ。そのつらさを受け止める人や機会がもっとあれば、他人への攻撃が減ると思う」、「安心は心の問題で安全は科学的な正しさ。安全の基準が刻一刻と変わることに心がついていけず差別が起こるのでは」などの意見がありました。また、医療従事者の家族からは「応援の拍手や尼崎城のブルー点灯も嬉しいが、当事者としては危険手当が嬉しいようです」との声も。
最後にゲストから一言。松岡さんからは「この話は単純ではないと感じます。オンライン上でもみなさんがモヤモヤしていることが伝わりました。そういう自分の嫌なところも直視してやっていければと思います」。細見さんからは「医療従事者は「ケガレ」と「キヨメ」という概念の境界線にいる。そんな日本の文化が、現代にどのように影響しているのか」という問題提起。後藤さんは「価値観は家族でも違います。それぞれにそれぞれの正しさがあるので、違いが当たり前と思うことが第一歩になれば」と話していました。
コロナ禍がもたらしたものの一つは、私たちの“内なる差別”への気づきかもしれません。それを含めて、誰もがこれまでにない感覚を体験しているのではないでしょうか。感染症の終息後も、こうした感情や他者への眼差しを意識し続けることが求められています。
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