みなさんは「学校の授業」と聞いて、どんな光景を想像しますか?
尼崎市立大庄北中学校では、4人グループになって、授業の中での課題を解決するために、話し合ったり意見を出し合ったりする「GLT(グループ・ラーニング・タイム)」に取り組んでいます。ここでは、これまでの「受け身」というイメージを大きく覆す光景が広がっています。今回は3年2組の数学の授業を見学してきました。
誰でも「先生」や「生徒」になれる授業
今回の問題は「規則的に並んでいる数列について考えてみよう!」という、二次方程式の解き方を深めるものでした。
まずは一人で問題を解く時間。
制限時間が近づき、「分からん」と助けを求める子に近くの子が教え始めました。席を立って教える子まで! 教室内に「先生」がたくさんいるのです。
その次は、生徒たちが解き方を発表。「違う解き方をした人は?」の先生の声に次々と手が挙がりました。どんな解き方も否定されないので、生徒たちは自由な発想を堂々と発表していけるのです。
いろいろな解き方をみんなで共有した後は、グループで難しい問題にチャレンジ!「このやり方はどう?」と意見を出し合い、ホワイトボードに書いていきます。
意見を出せない子には同じグループの子が「分かる?」と声をかけます。「あの公式を当てはめると、こうなるやん?」「あ、そっか!」というやりとりもあり、教室内はどんどん活気づいていきます。
授業の最後に、グループで考えた「ベストな解き方」を発表します。ホワイトボードを黒板に貼り、先生になったつもりで解説。二次方程式を使ったグループ、数列を力技で書いていったグループ、と解き方は多種多様。
言葉に詰まった時には、同じグループから助け船が出ます。
グループの数だけホワイトボードが並ぶと、先生がまとめをして50分の授業は終了。非常に濃密で、テンポのいい授業でした。
<生徒インタビュー>
グループがあるから自分で考えられる
大庄北中学校オリジナルの「GLT(グループ・ラーニング・タイム)」というグループ学習は導入4年目。各教科に取り入れられています。
大庄北中学校の生徒さんたちに話を伺いました。
「分からないところを人に聞けるし、自分に無い考え方も出てきます。一人だとすぐに考えることを諦めていましたが、グループで考えているうちに、自分でも考えようという気持ちが湧いてきました。GLTをやって、『自分は明るくて誰とでも意見が交換できる人間だな』と気づきました」
「一人では分からないところも、グループで話したり、ヒントをもらったりすると、頭に入って理解しやすくなります。みんなと考えを深めることで、諦めていた問題も自分から進んでやるようになったし、一人では難しいことでも、みんなとやったらできるんだ、という発見がありました」
「自分の考えを深められます。答えを考えている時に、他のグループから解説が聞こえることがあるので、それだけが困りものです。インプットだけでなく、分からない人にアウトプットすることで、自分はどこまで理解しているのかを知ることができます。GLTの班分けはくじ引きなどでランダムに決まるので、クラスみんなと対等に喋れるようになりました」
<先生インタビュー>
先生にとっても学ぶことが多い授業
授業を担当された西前先生にも話を伺いました。
「相手のことを考えた教え方や、論理立った発表ができるようになりました。どの考え方や解き方も合っていて、発想が大事だという前提で授業を進めるので、『間違えたらどうしよう』、『まだ解けていない』とひっこめるのではなくて、『自分が今考えているところまでは伝えよう』という積極的な姿勢が見られますね。GLTでは、勉強が苦手な子も『その発想すごい!』と言われるので自信になりますし、得意な子も『そんな考え方があったのか』という発見の場になっています」
尼崎市では文部科学省の新学習指導要領に基づいて「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた授業研究(アクティブ・ラーニングの視点に立った授業研究)が進められています。
教育委員会では「アクティブ・ラーニング推進事業」として、市内の小・中学校25校を指定校に認定。大庄北中学校も今期の指定校で、GLTはその授業手法のひとつです。
アクティブ・ラーニング推進事業の指定校は、研究成果を発表するために公開授業を行います。見学をした先生方から意見をもらうことで研究を深めるとともに、見学した先生は学んだことを自校の実態にあった形で授業に取り入れることで、お互いに切磋琢磨しています。7月に行われた公開授業には、市内外から24名の先生方が見学に来られました。
愛媛県から見学に来た先生に感想を伺いました。
「生徒の解き方を褒めながら、次の学習につなげるように先生がうまくまとめていました。私が教えている理科でも応用できそうです。すごく勉強になりました」
知識だけではなく、生きていく力をつける
教育委員会の担当者に話を伺いました。
「本市が行う『アクティブ・ラーニング推進事業』は、子どもたちに確かな学力を育成するための施策です。これからの時代に求められる力は知識だけではありません。子どもたちが生きていく上で必要な、思考力・判断力・表現力や学びに向かう力、また人と折り合いをつける力等の確かな学力を付けていってほしいと考えています」
「『アクティブ・ラーニング』の視点に立った授業を行うことで、子どもたちは主体的に学習に取り組むなど『学びに向かう集団』となっていきます。どんな職業に就いても、人は学び続けるものです。子どもたちには、学び続ける方法や気持ちもつけていってほしいですね」
取材を終えて……
授業の発表でもインタビューでも、瞬時に考えをまとめて簡潔に話す生徒さんたちに驚きました。クラスメイトの前で話す・聞く機会が多いからでしょうね。
異なる意見に耳を傾け、自分の意見と折り合いをつける。素直で思いやりのある子が多い尼崎の気質は、これからの社会で必要とされるはず。壁には、学校生活の中で感じた感謝の気持ちを生徒同士で伝える張り紙がたくさんありました。「ありがとう」と言える子どもたちと、熱心な先生たち。尼崎の未来は明るい!と思える授業でした。
【尼ノ國 動画】新しい授業のかたち、 「GLT(グループ・ラーニング・タイム)」(インタビュー版)【撮影場所】大庄北中学校
【尼ノ國 動画】新しい授業のかたち、 「GLT(グループ・ラーニング・タイム)」(公開授業版)【撮影場所】大庄北中学校