“本物”にふれて未来へはばたく「大植英次 中学・高校吹奏楽部公開レッスン&コンサート」

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 尼崎市は1959(昭和34)年に、ドイツのアウクスブルク市と姉妹都市提携を結びました。2009年には提携50周年を迎え、学生たちが青年使節団として両市を訪問しあうなど、現在までさまざまな交流が続いています。
 昨年の11月、日独の学術・文化交流を行っている山岡記念財団の主催で、市内の中学校・高等学校の吹奏楽部を対象にした「大植英次 中学・高校吹奏楽部公開レッスン&コンサート」が開催されました。世界的指揮者にレッスンを受けたあと、本番演奏をするこのコンサート。観客はその全てを鑑賞することができます。


写真、レッスンでタクトを振る大植英次さん

 指揮者は、大阪フィルハーモニー交響楽団桂冠指揮者であり、欧米のオーケストラでも音楽監督や常任指揮者を歴任する大植英次さん。大阪で1週間にわたって開催される「大阪クラシック」のプロデューサーとしても有名な方です。


写真、レッスンで生徒に曲の情景を伝える大植さん

 今回レッスンを受けたのは、小園中学校、大成中学校、塚口中学校、そして市立尼崎高等学校の吹奏楽部のみなさん。中学校は、今回のために特別に編成された選抜メンバーが登場。市立尼崎高等学校は、数々の大会で優秀な成績をおさめ、毎年甲子園で、沖縄代表校の友情応援演奏も行う吹奏楽の強豪校です。


写真、生徒とハイタッチする大植さん

 第1部では、中学生たちが「楽劇『ローエングリン』より エルザの大聖堂への行進」を演奏。これまで練習してきた曲が、レッスンを受けてどう変化するのか、生徒たちもドキドキ。各パートには、大阪フィルハーモニー交響楽団などのメンバーが指導のサポートで参加します。

 そしていよいよ、大植さんが登場。

 「音楽は音じゃなく、魂をふくもの」「ストーリーを思い描いて! 花を投げている場面、エルザが現れる場面」と生徒たちに伝えます。譜面を追いかけるだけではなく、情景を思い浮かべながら演奏するように、という大植さんの熱のこもった指導に、中学生たちは戸惑いながらも懸命に曲の世界を表現していきます。


写真、市立尼崎高等学校吹奏楽部に指導する様子

 第2部は高校生たちが、「楽劇『ニュルンベルクのマイスタージンガー』より 第1幕への前奏曲」を演奏。吹奏楽の強豪校らしい素晴らしい演奏ですが、大植さんのエネルギッシュな指導を受けると、音色が一変! 


写真、表現豊かに高校生に指導する大植さん

 「小節線とメトロノームは音楽の敵!」「音量でなく、音色で勝負」「この場面は、『愛しています』というイメージで」「最後は平和の素晴らしい、悪がない世界のイメージ。これ以上幸せがないくらい幸せな世界を想像して」などなど、テクニックだけではなく、音への向き合い方や楽曲の背景、登場人物の心情にまで想いをめぐらせるレッスンを受けると、生徒たちの演奏はみるみる表情豊かなものに。レッスン後の演奏では、生徒たちの奏でる音がまるで遠くまで羽ばたいていくような感覚を覚えました。アンコールでは、観客総立ちの中「ハイデックスブルク万歳」を演奏。生徒たちに惜しみない拍手が送られました。


写真、アンコールの様子

 コンサートを終え大植さんは、「万華鏡みたいにどんどん変化するのを感じる楽しさがあり、最後は天体望遠鏡になって宇宙までいったように感じました。このようなコンサートは他にない。昨年60歳になったので、それにちなみ、今後も続けて60回ぐらいやりたい!」とコメント。出演した生徒たちの中から、いつか音楽で世界に羽ばたく子が出てくれば素晴らしい、とも。その可能性を想像せずにはいられない、素晴らしいコンサートでした。

世界的指揮者のレッスンを受けるという、めったにない機会を経験した子どもたち。どんなことを感じたのか、塚口中学校のみなさんにインタビューしました。


写真、インタビューに答える塚口中学校吹奏楽部のみなさん

Q.レッスンを受けてみてどうでしたか?

「楽しかった! となりで大阪フィルハーモニーの方が指導してくれて、とても勉強になりました」
「大植さんがタクトを振った瞬間、みんなの音が変わって感動しました」

Q.自分の演奏に変化はありましたか?

「トランペットのベルを上げて、『音を宇宙に飛ばすようなイメージ』をすると、まっすぐ音が伸びるようになりました」
「気持ちを込めて音を出すことを意識すると、響きが出て、もっと気持ちを込めることができました」
「『フォルティシモを魂で届けて』と言われて、音の強弱やメリハリを意識するようになりました」


写真、インタビューに答える塚口中学校吹奏楽部のみなさん

Q.ほかの学校の生徒さんと一緒に演奏することはなかなか無いと思いますが、今回演奏してみてどうでしたか?

「上手な人がたくさんいて、息の入れ方とか基礎練習を教えてもらいました」
「演奏が終わったあと、楽屋に戻ってみんなで『楽しかったね!』って。達成感がありました」

Q.これからどんな演奏をしていきたいですか?

「魂を意識した音を表現していける演奏をしていきたいです」
「曲にあわせて、最後にどんな終わり方をするのか意識したいです」
「これまでは譜面を見るのに必死でした。これからは一つひとつの音に気持ちを込めて演奏したいです」

 後輩たちの見本になるように、これからもしっかり練習していきます!と話してくれたみなさんの表情はとても明るく、自信に満ちあふれた頼もしさを感じました。


写真、楽器を手に笑顔の塚口中学校吹奏楽部のみなさん

Q.生徒のみなさんをいつも指導している、顧問の先生にもお聞きします。先生の目から見て、みなさんに何か変化はありましたか?

「プロの指揮で演奏することなんて、一生に一回あるかないかの貴重な体験。今まではただ楽譜を吹いているだけでしたが、世界的な指揮者である大植さんの音楽への愛であふれる指揮で演奏してから、イメージを膨らませたり、場面を想像して吹こうとするようになりました。音楽に向かう気持ちが豊かになり、演奏に対して前向きな姿勢が見られるようになったと思います」

『本物』にふれる機会の大切さ。『本気の大人』のメッセージ。


写真、コンサートを終え、挨拶する大植英次さん

 今回のレッスンを通じて、世界的指揮者という「本物」に子どもたちがふれたこと、そして、大植さんが「本気」で子どもたちに向きあいメッセージを投げかけたことが、子どもたちに前向きな変化を与えたと感じました。そして、尼崎の子どもたちがそのメッセージを素直に受け止め、しなやかに変化していく可能性を持っているということも。
 
 コンサートは来年も開催予定。このコンサートが尼ノ國に根づき、レッスンを受けた子どもたちが世界で活躍する日は、きっと遠い未来ではないはずです。