夏休みの中学校の教室に発声練習の声が響いています。8月半ばに塚口にあるピッコロシアターで開催された、県内の小中高の演劇部が出演する演劇祭「ピッコロフェスティバル」。その本番直前の大成中学校演劇部の練習にお邪魔しました。
創部12年、市立でただ一つの中学校演劇部
実は尼崎の市立中学校で、演劇部があるのは大成中学校だけ。創部は今から12年前、当時演劇経験のある先生が立ち上げた部活動だといいます。続く2代目顧問も演劇経験があり、4年前に未経験者の村上智香先生が3代目を引き継ぎました。
「学生時代にチアリーディングをやっていたので、舞台を作るというところに共通点があると思って」と、自ら顧問を買って出ました。
しかし、2年前からは新入部員の受入れをやめ、現在は3年生15名だけが在籍しています。
部員の一人に入部のきっかけを聞いてみました。
「体験入部に来たら、先輩が優しくて。部全体も楽しそうな雰囲気だったので入部を決めました」。演劇部の門を叩いたのはこれまでに演劇経験のない生徒ばかり。当時は30名以上の部員がいたそうです。
恥じらいを捨てて役に入り込む面白さ
「一番ギャップのある姿を見せるのが演劇部の生徒かもしれないです」という村上先生。彼女が担当する英語の授業では大人しく見える生徒も、部活になれば積極的に役を演じる。「中学生は恥ずかしさが邪魔をして自己表現が難しい時期でもあります」とも。それでも恥じらいを捨てて、思い切り役に入りこむ先輩の姿を見てきた部員たちは、徐々に役者らしい成長を見せるようになるそうです。舞台では役者だけでなく、舞台監督や音響、照明などの役割も部員たちが担います。
中学生の演技力を高める頼もしい卒業生
2年前からは、外部講師として椴木純加(もみのきすみか)さんを演劇部に迎えることになりました。大成中学校の卒業生でもある椴木さんは、東京でボーカリストや役者として活躍していましたが、数年前に活動の場を尼崎に戻し、ボーカルや演技の指導にも取り組んでいました。その評判を聞いた保護者から声をかけられ、母校の演劇部を指導することになったのです。
「こんなカタチで母校に恩返しができるなんて、めっちゃ嬉しい」と、熱のこもった指導をする椴木さん。指導は通常月1回程度ですが、本番前は何度も通います。「中学生なのに、役柄のことをすごく深く考えています。役と本来の自分を上手にミックスさせていますね」と、後輩たちの演劇への熱意に感動するといいます。
配役を決める全員参加のオーディション
今回の演目は、脚本配付サイトから選んだ『もっと言うと探偵』(作:今野浩明)。ツアー旅行で起こる事件、登場人物全員が嘘や誤解を解かないまま会話をつないで犯人捜しをするという、ミステリーとコメディがミックスしたような物語です。
配役は部員自身が希望する役に名乗りを上げ、先生も交えた全員参加のオーディションで決めるそう。希望の役に落ちても「それでもキッチリ自分に与えられた役にハマるよう切り替えてきますよ」と椴木さん。
未来につながる演劇経験
これまでの3年間、役者をやってきた部員は「まだ明確ではないですが、舞台役者など部活での経験が将来に繋がっていけばいいな」と話します。自分たちの引退とともに廃部になる予定の演劇部には、もちろん名残り惜しさを感じています。「存続して欲しい気持ちはあるんですが、私たちは引退まで、これまでの経験を出し切って頑張っていきたいです」。
中学校で演劇ができる環境づくりを
大成中学校演劇部の廃部とともに、尼崎市立中学校の演劇の灯は消えるのか。青少年の演劇活動をサポートする、ピッコロシアター広報の古川知可子さんに話を聞きました。
「大成中学校演劇部の廃部で、市立中学校から高校まで6年間の継続した演劇経験を積む環境がなくなることが残念です。ピッコロ劇団員を学校へ演劇指導に派遣することもできるので、顧問の先生と役割分担し、技術面で私たちがサポートすることもできます。今後も演劇の教育的要素の認知が広がって、演劇に親しむ環境を作るお手伝いをしていけたら」とエールを送ります。
ピッコロフェスティバル当日。劇場大ホールの舞台に、大成中学校演劇部の部員たちが堂々と立っていました。客席で友人や保護者が見守るなか、スポットライトを浴び、一人一人のセリフが多い展開を堂々と演じる姿。客席からときどき笑いも呼び込みます。45分間の舞台を演じ切り、役者全員が笑顔でステージに並んでいました。
そして休む間もなく、演劇部最後の秋の文化発表会に向けた練習のスタートを切ります。部活動の集大成として、最後に彼らがどんな舞台をつくり上げるのか楽しみです。