「尼崎って実は…」な“アマのうわさ”が踊り出す

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写真、通勤ラッシュを行き交う人がおしゃべりしているように見えるフキダシ

 1日平均4万3千人の乗車客が行き交うJR尼崎駅の構内に昨年12月、巨大なフキダシが出現しました。「このあたりはむかし海やったんやってな」「ええ塩が取れるから潮江って言われるようになったらしいで」といった「へえー」と思わせる地名の由来のほかに、「県外から尼崎に引っ越したら25万円?! 貰えるらしい」と突然お得な情報が現れます。駅通路の窓ガラスに貼られたこのフキダシ「アマのうわさ」が、市内各地に広がっています。


写真、JR尼崎駅北通路を行き交う人と並ぶフキダシ
JR尼崎駅北通路を行き交う人と並ぶフキダシ

 きっかけは最近増えつつある大規模工事でした。老朽化による公共施設の建て替えや改修が続く中、「ここにこれから何ができるのか、地域の人に効果的に伝える方法がないかと思って始めたプロジェクトなんです」と尼崎市都市戦略推進担当の柏木さんが思いを話してくれました。

山本耕一郎さんのアートに込めた思い

 出会いは神戸三宮。再開発が進む駅周辺の工事現場で見た「大きなフキダシ」が気になって神戸市役所へ問い合わせると、どうやら「うわさプロジェクト」なるアート作品だと知りました。作者の山本耕一郎さんは青森県八戸市在住のアーティスト。八戸ではまちのお店にまつわるうわさを集め、商店街の200以上のお店にフキダシを貼り出し話題になったといいます。


写真、トークイベント「尼崎ソーシャル・ドリンクス」で話す山本さん(左から二人目)
トークイベント「尼崎ソーシャル・ドリンクス」で話す山本さん(左から二人目)

 まちや人と出会うための作品というコンセプトにひかれて、柏木さんたちは山本さんに連絡することに。「どこでもできるとは思うけれど、どんな思いでやりたいかが大切。尼崎の人たちとはそこを共感できたから」と山本さんは協力を快諾。こうして「アマのうわさ」が動き出したのでした。

阪神尼崎駅前がリニューアル。隣の大物駅にはタイガースも!

 「中央公園がキレイになるんやって!」「座れる場所が増えるらしいで」といううわさが踊るのは、2025年3月にリニューアルオープンを控える阪神尼崎駅前中央公園。阪神電車を降りて外へ出ると、太字のゴシック体のひときわ目立つフキダシが出迎えてくれます。単なるフキダシに文字を入れているだけではなく、計算されたデザインが光ります。広々とした芝生広場と新しいレストランがオープンする予定で、尼崎の玄関口としてのリニューアルへの期待感を伝えています。


写真、阪神尼崎駅前の尼崎城のうわさを紹介してくれた柏木さん。
阪神尼崎駅前の尼崎城のうわさを紹介してくれた柏木さん。

 ほかにも阪神タイガースファーム施設として小田南公園に整備される「ゼロカーボンベースボールパーク」の工事囲いには「グラウンドの形も向きも甲子園と同じらしいね」という“だいもつのうわさ”が出現。さらに、阪急園田駅前広場には「道路がつながって便利になるらしい」という都市計画道路園田豊中線の進捗を伝える“そのだのうわさ”、市役所の南に移転・建替される休日夜間急病診療所の工事囲いには「待合室が広いねんて」という2025年11月の完成を伝える“急病診のうわさ”も登場しています。


写真、阪神尼崎駅前のエスカレーター脇には伝統野菜尼いものうわさが。
阪神尼崎駅前のエスカレーター脇には伝統野菜尼いものうわさが。

市役所へ問い合わせが。反応は上々

 「ただ単に工事の内容や建物を一方的に紹介するだけでなく、興味を持ってもらえそうなまちのうわさとのバランスが大切なんです」と柏木さんらは庁内の部署をこえて、地域のネタ出しに励んだといいます。ところでこのプロジェクト、実際に効果は出ているのでしょうか。「JR尼崎駅のフキダシで紹介した、県外から市内の民間賃貸住宅への住み替えを補助する制度には早速問い合わせの電話があって、その効果を実感しています」と柏木さんは胸を張ります。「阪神尼崎駅では『この公園キレイになるらしいで』とフキダシの前でうわさ話をしていたのが印象的でしたね」とその効果を感じています。


写真、平成22年に技術職として入庁した柏木さん。
平成22年に技術職として入庁した柏木さん。

うわさバッジで人が主役に

 尼崎の人にフォーカスした「うわさバッジ」もユニークです。約600種類ある人にまつわるうわさバッジを、地域の会合での自己紹介に使ってもらってお互いの意外な一面を知ろうという取り組み。「各地域の生涯学習プラザのミーティングや建て替えを予定している市営住宅の住民交流会に使われたりと活躍しています」という柏木さんの胸元にもうわさバッジが。


写真、「うわさバッジの種類は年々増えています」という山本さん。
「うわさバッジの種類は年々増えています」という山本さん。

 今回オンラインで取材に応じてくれた山本さんは、八戸市美術館での展示に向けた準備中。いくつものうわさバッジを並べて配り、胸につけた来館者が互いにおしゃべりするきっかけを作る展示だそうです。「バッジをつけるとその人が主役になれる。知らない人でも会話に花が咲いて仲良くなれるんですよ。日常生活の中でふっと心が明るくなるきっかけを作りたい」とうわさプロジェクトへの想いを語ってくれました。


写真、立花南生涯学習プラザに出現した「うわさ屋台」を見守る山本さん。
立花南生涯学習プラザに出現した「うわさ屋台」を見守る山本さん。

 最近の尼崎市はまれにみる建設ラッシュだといいます。「近隣の他都市と比べて公共整備が早かった分、建て替えや改修が現在一気に押し寄せています。この後に続いていく工事にもうわさが活躍するらしい」と柏木さん。まちの風景が変わるのをきっかけに、そこで暮らす人たちがおしゃべりして、ちょっとだけ仲良くなれそうな予感がします。