第30回みんなの尼崎大学オープンキャンパス ジモト系写真大喜利「ちいきいとシネマパラダイス編」

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※今回はいつもと雰囲気を変えてちいきいと風にお届けします。

 尼崎で(ジモト系非暴力)抗争。満員御礼。「え?どういうこと?」と思われる方も多いかもしれない。いや、きっとそんな方が多いだろう。

 今回の「みんなの尼崎大学オープンキャンパス」は、記念すべき30回目。参加者は大入り満員だ(新型コロナウイルス感染症対策のため、席数を制限して開催しました)。そう、この日は神戸発祥の写真大喜利イベント「ちいきいと」の尼崎版が静かに、しかし熱く開催されたのだった。(前回尼崎で開催した「ちいきいと」はこちら



映画のチケット風の入場券も作りました

 「ちいきいと」のHP(→こちら)にはこうある。

 “神戸発、地域と地域が互いのプライドをかけてシノギを削るジモト系非暴力抗争頂上決戦「ちいきいと」。毎回神戸〜阪神間を中心に、ジモトを愛しジモトを極めた「まちの顔」たちが集結。写真とトークで血で血を洗う死闘(非暴力!)を繰り広げます。”

 どういうことだろう。

 この日の司会を務める若狭氏も「最初はよく分からないかもしれませんが、半分以上経ったらなんとなくわかってくると思います」と話しながらイベントがぬるっとスタートしていく。


 そうだ。会場に触れることを忘れていた。今回は「塚口サンサン劇場」(→HPはこちら)での開催だった。この「塚口サンサン劇場」の歴史は非常に古い。なんと1952年の開業から数えて70年ほどの歴史がある。


館長の戸村さん。映画への、そして映画館経営への熱意がハンパではない

 開館当初は「塚口劇場」という名称であったが、「塚口さんさんタウン」が開業するのと同時に「塚口サンサン劇場」という名前に変わったらしい。また、マサラ上映(応援など、声を出しながら映画を鑑賞できる上映方法)やコスプレでの鑑賞イベントをめがけて全国から「塚口サンサン劇場」フリークが来館しているとのお話をいただいた。


背景は過去実際にあった「塚口サンサン劇場」の新聞広告。大迫さんがすかさず「御家族一緒に楽しめなさそうなものも多くないですか?」とツッコんでいた

 いよいよ「ちいきいと」がはじまる。スクリーンに映画のタイトル(テーマ)が映し出される。同時に映画の主題歌が流れる。


 「ちいきいと」にはゲストが3名いる。この日のゲストは「立花」の大迫力(おおさこ・ちから)さん、「出屋敷」の多田えみあ(ただ・えみあ)さん、「工業地帯(どこ?)」の小林哲朗(こばやし・てつろう)さんだ。それぞれが各地域を(勝手に)代表して、その地域の写真を撮ってくるのだ。しかもテーマに合わせたものを。


出演前の多田さん。話すことを予習しているのだろうか

出演前の小林さん。話すことを予習しているのだろうか

出演前の大迫さん。「リハも打ち合わせもいらない」とおっしゃっていた

 今回は「塚口さんさん劇場」が会場であったため、テーマは「映画のタイトル」になっていた。ゲストはテーマに沿った写真を見せながら、それがいかにテーマと関連する写真であるのかを熱を込めてプレゼンテーションする。

 たとえば。


 日本の名作『男はつらいよ』がこの写真のテーマである。多田さんは話す。

 「これ、商店街の下着屋さんのお店の前にあったんですけど。なんか、あの東京ガールズコレクションみたいじゃないですか。一番目立つところを誰が取るんや、って感じで。いやー、男性も大変やなあと。でもいろんな人が並んでるけど、ほとんど左の人たちしかちゃんと見えない。暗いんです。左から4番目の人とかまったく見えてないですよ。ほんで誰なんですか、この人たち。」

 すると会場から「この広告はね」と説明する声が。

 「いや、なんで知ってんねん!」と言いたくなるのを我慢した人は会場に少なからずいたように思う。この渾然一体感も「ちいきいと」の魅力か。


 大迫さんは他を圧倒する言葉数で会場を沸かす。テーマは「マトリックス」。

 「これ『みち草』っていうお店なんですけどね。モダン焼きってあるじゃないですか。やきそばとお好み焼きが一緒の。ここではお好み焼きの生地の上に焼きそばを置いて。で、もう一回生地を乗せてるんです。それをこちらでは「さんがい焼き」って呼んでるんです。この青のりがね、もうマトリックスの最初に出てくる緑のあれにしか見えへんのですよ。あれは青のりですよ。」

 同じテーマであっても、小林さんはまったく違う切り口で返していく。


 「ここは尼崎の工業地帯にある汚泥処理の施設なんですよね。上空から撮影していて。ドローンが落ちるとまずい場所ではなかなか撮影も許可してもらえないんですけど。ここは大丈夫で。汚いものを扱う施設を上空から撮影するとこんなに美しくなるんですよね。」

 引用箇所がこの部分で大迫氏には大変申し訳ないが、このような話題のコントラストが尼崎の奥行きを認識させてくれる。さまざまな層や領域があることを写真のインパクトと言葉の深さで体感的に伝えてくれるのだ。非常に高度な(しかし楽しい)遊戯である。参加者からは随時、笑いと歓声とため息が起こる。



 しかし「ちいきいと」はただのおふざけではない。写真を撮影するためには、地域を見るための視点(まなざし)が必要だ。また、プレゼンテーションをするためには一定の知識や地域の歴史背景を知る必要もあるかもしれない。愛を持って地域をめぐること。眺めること。知ろうとすること。そういったことの経験は、普段わたしたちにあるだろうか。なにか意図を持って、視点を抱いてまちをめぐってみたい、まちに触れてみたい、このイベントはわたしたちにそんな気持ちを喚起させる。

 そしてこのイベントにおいては、知っていることも、知らないことも価値であるのだ。そして「知っている」と思っていたことも、ゲストの切り口や語り口によって別の側面から出会い直すことで「新しく知る」ことができる。それが「ちいきいと」の魅力だと思う。


次回は満を持して稲村和美市長も参加か

 尼崎の「ちいきいと」は、次回以降の出演者を募集している。自らの地域を愛することができると別の地域にもリスペクトを送りながらディスる(批判する)ことができる。出演すること、つくり手側にまわることで感じられる地域の姿も確実に違ってくるだろう。ぜひ、みんなの尼崎大学の事務局にお問い合わせをしていただきたい。そして、明日から勝手にテーマを見つけてまちで写真を撮ってみていただきたい。きっとそれが次回開催のネタになるかもしれないから。