子育て中のママを励ますホットサンドイッチ

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写真、sandwich home店主の白川真奈さん
「sandwich home」店主の白川真奈さん。生まれ育った尼崎にオープンした

 尼宝線と橘通りの交差点にある、ホットサンドイッチのお店「sandwich home」。2児を子育て中の白川真奈さんがオープンした飲食店です。「私が『あったらいいな』と思ったことを形にしています」と白川さん。

 たとえば、子育て中のママが後回しにしがちな自分のごはんを手軽にしっかりと食べられるように、野菜をたっぷり摂れて片手で食べられるホットサンドイッチの提供や買い物帰りに自転車を降りずに購入できる小窓のサイクリングスルーの設置。店内は子連れでもゆっくりと過ごせるように2~3組限定とし、広々ソファ席やおもちゃがあるスペースを設けています。

 しかし、今の形が最終形ではありません。子育て中のママが直面する課題解決に向けた、第一歩なのです。

しんどい今だからこそ、世の中を変えていける


写真、調理中の白川真奈さん

 白川さんがこういった場を立ち上げた背景には、実家から遠く離れて子育てを経験したことと、子どもが国指定難病の一つ「ミトコンドリア病」(※)を発症したことによって、子育て中の孤独感や疎外感、病児のママが働きにくい状況を肌で感じたことがあります。

 夫の転勤で、関西から離れて2017年に徳島県へ。2018年に長男を出産、その子が1歳の時にミトコンドリア病を発症しました。実家は遠く、身近に頼れる人がおらず、夫は仕事で夜遅い帰宅。不安やプレッシャー、病児を抱えて仕事をする困難さにも直面し、孤独感や疎外感を深めていきました。

 夫と相談し、2020年に実家がある尼崎へ。まもなく尼崎商工会議所の創業支援なども活用しながら開業の準備を始め、2022年にお店をオープンしました。白川さん自身がしんどさや大変さの渦中にいる中、どうして奮い立つことができたのでしょうか。

 「後になってしまえば『あの頃はしんどかった』で終わってしまうと思うんです。しんどい今しか、わからないことがたくさんあります。声を上げて行動を起こし共感を広げ、困っている人たちが必要なものをつくっていくことで、世の中を変えていけるんじゃないか…私は行動力だけはあるので、やろうと思ったんです」

※ミトコンドリア病…「ミトコンドリアの働きが低下することが原因でおこる病気」の総称で、主な症状として「けいれん、脳卒中、精神症状、発達の遅れなどの脳の症状、物が見えにくい、音が聞こえないなどの感覚器の症状、運動ができない、疲れやすいなどの筋の症状など」が挙げられる(引用:難病情報センター. 「ミトコンドリア病(指定難病21)」. https://www.nanbyou.or.jp/entry/194, [参照 2023-01-10])。

エネルギーチャージできる居場所づくりから


写真、ホットサンドイッチのメニュー「たまごとボロネーゼ」
「たまごとボロネーゼ」。食パンは白川さんが子どもの頃から馴染みのある食パン専門店「bakery 点心」(武庫之荘)から仕入れている

 いずれは働く機会や場づくりなども見据え、まずは子育て中のママが自分自身を大事に思える居場所づくりからのスタートです。

 以前、カフェで勤務していた時に、飲食店が居場所になることを実感していました。また、自身がそうだったように、子育て広場などに行くことが苦手な人にとっても、飲食店なら気軽に行けるのではないかと、今の形を選んだのです。

 店内はまるで友だちの自宅に遊びに来たような、親子ともにくつろげる雰囲気があります。取材時には閉店直前まで赤ちゃんを抱っこしたママが、白川さんと会話して過ごしていました。

 現在進行形で子育て中の白川さんにだからこそ、しんどさや悲しさも共有でき、日々の疲労感で見失いそうになる子どもの成長や愛おしさにも目を向け、喜び合うこともできます。また、日々の自分の頑張りにも気づけ、ねぎらい、またここから頑張ろうとエネルギーチャージできる場になっているのです。

今日という1日を、少しでも楽しく終われるように


写真、外観とサイクリングスルー
サイクリングスルーの小窓には、白川さんの2人のお子さんの似顔絵。描いたのは、看板製作業を営む白川さんの父

 「私自身、今も本当にしんどいですし、しんどいことはどんどん増えていくんですけど」と白川さん。家族それぞれにさまざまな出来事があり、時には抑えきれない感情に襲われ、泣きながら買い物に出かけて、1人になって心を落ち着かせることもあると言います。

 そんな日々の中で、どうしてエネルギッシュであり続けることができるのでしょうか。

 「次男も長男と同じ病気を発症しました。子どもが意識を失った時には、医師から『このまま目覚めないかもしれない』とまで言われて…その時、今日という1日を過ごせていること自体が貴重なんだって。誰しも明日が来るとは限りません。そんな貴重な1日を少しでも楽しく終われるほうがいいなぁと思うんです」

自分の困り事は、きっと誰かの困り事


写真、サイクリングスルーの店内側の様子
尼崎市立魚つり公園での釣り、家族や友だちと武庫川ピクニックなどのおともに、テイクアウトする人も

 オープンから1年経つ頃には、夫が店の様子を見て「月に何度も来店したり、差し入れを持って来たりするお店って、そんなにないと思うで」と感心するくらい、地域から愛されるお店になっています。近所で暮らす人をはじめ、周辺の会社や店舗、病院で働く人など幅広い世代が訪れ、店づくりの思いを知った上で応援してくれているのを感じると白川さん。

 生まれ育った尼崎の印象は、当時も今も変わらず、「やさしい人たちがいるまち」。

 「団地育ちなので、自転車の乗り方は近所のお姉ちゃんに教わりましたし、いろんな年代の子がごちゃ混ぜで暗くなるまで遊んだことがいい思い出です。今も訪れるみなさんが『頑張ってんなぁ』と声をかけてくれたり、差し入れのお菓子や旅行のお土産を持って来てくれたりと気にかけてくれています」

 さらには「店の前の道路でおじいちゃんが倒れそうになっていたら、オーダー待ちのお客さんが駆け出して行って『病院まで送ってから戻ってくるわ!』と。そんなことがすっと自然にできる人が多いと感じます」とも。


写真、店内で取材を受ける白川さん
お客さんからの声や協力を受け、ランチ付き写真撮影会や親子食堂といったイベントも行っている

 その一場面が象徴するように、助け合いや支え合いが自然とできる尼崎の日常を見て育った白川さん。

 「最近では、自分の子どもの病気を通して支援や制度面での課題が見えてきて、私も含めて困っている人は多いと思うので、お店に相談室を設けるなど何かできたらと考えているところです」

 自身の現実と向き合いながら、それが誰かの困り事でもあると捉え、その時々に見えてきた課題の解決に向けて行動を起こすことで、今から、ここから、世の中をよりよくしていこうと奮闘しています。

sandwich homeのInstagram
https://www.instagram.com/sandwich_home2021/


写真、店内のキッズスペースの様子

写真、店内のキッズスペース兼ソファ席の様子

写真、白川さん手づくりの写真撮影会の衣装