武庫川で見つけた、静けさと人の温かさがある暮らし

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写真、武庫川河川敷から阪神武庫川駅を望む

 阪神武庫川駅周辺は、にぎやかな阪神沿線ながら武庫川が近く落ち着いた雰囲気も感じられるエリア。その駅東の線路沿いにクレープとガレットのお店「honey bee cafe(ハニービーカフェ)」があります。店主の仲尾裕利圭(ゆりか)さんは、地域のイベントの主催メンバーとしても活躍。まちの様子を見続けてきた仲尾さんに阪神武庫川エリアの魅力を教えてもらい、周辺を歩いてみました。

武庫川という水辺のある暮らし


写真、ハニービーカフェの外観

 仲尾さんがこの場所にお店を構えたのは2019年のこと。ずっと塚口エリアで暮らしてきましたが「これまでに関わりのない場所で、新しいつながりを作ってみたい」――そんな想いを胸に、偶然出会った空き店舗からすべては始まりました。

 「最初に見学したときは、寂しすぎて“ここはないな”って思ったんです。でも、次の日にもう一度来たら…この静けさが、なんだか落ち着いたんですよね」


写真、ハニービーカフェの仲尾さん

 近隣は空き店舗が目立つ時期もありましたが、最近は新しいお店の出店も。「オープンした時に比べ、今はお店の前を通る人も若い人が増えた気がします」と、仲尾さん。周辺には新しいマンションも目立ちます。

 「武庫川があることで自然が身近に感じられて、いい静けさがあるんです。駅近くの線路沿いなのに、騒がしすぎることもなく。電車もいい感じのタイミングで通る…そんなところがいいですね」

クレープがつなぐ人との輪


写真、クレープを手にした仲尾さん

 20代の頃から10年ほど、塚口さんさんタウンの中にあった大手クレープチェーン店で働いていた経験があるという仲尾さん。

 クレープはテイクアウトも多く、子どもとおばあちゃんが一緒に買いに来てくれることもあるそうです。店内には若い女性グループから年配の男性まで幅広い客層が見られ、地域に愛されていることがうかがえます。


写真、プレートランチ
プレートランチは1000円。お持ち帰り用「お弁当」(800円)にもできる

 クレープのほかにもランチメニューの「おにぎりプレート」は小皿料理が何品も並ぶ充実ぶりです。その他、サンドイッチなどの軽食もあります。

桜が舞う春の風物詩「武庫川桜マルフェス」


写真、武庫川桜マルフェスの様子

 仲尾さんが発起人となり始めた地域イベントが「武庫川桜マルフェス」です。「イベントを手伝ってくれる人いませんか?」と、お店に1枚のチラシを貼ったことがきっかけで始まりました。


写真、大庄元気むらの実行委員の皆さんと仲尾さん
大庄元気むらの実行委員の皆さんはよくカフェにも訪れ、旧知の仲のような間柄に

 まもなく、お客さんの一人が「音響機材出せますよ」と実行委員への名乗りを上げました。また、カフェの近所に住む常連のお客さんが、閉店したコープこうべ大庄店の跡を使って生まれた地域のつどいの場「大庄元気むら~コープさんとこ~」の運営委員として活動を始めたことから、大庄地区の方とつながるきっかけとなりました。

 こうして2020年、「武庫ウェル実行委員会」が立ち上がり、2021年から桜の季節に「武庫川桜マルフェス」を開催しています。ステージのほか、飲食や物販、遊び・体験ブースなどがあり、すでに阪神武庫川エリアの春の一大イベントとなっています。

古書店から雑貨屋やカフェまで


写真、雑貨店アンテナ
外から見えるディスプレイからも何やら楽しそうな雰囲気が漂う雑貨店「ANTENNA(アンテナ)」

 仲尾さんに聞いた新しくなりつつあるまちを感じるため、少し歩いてみると、ひと際目を引くポップな雰囲気のお店が見つかりました。

 店内にはアメリカン雑貨や北欧家具・食器などがギッシリと並んでいます。今年3月に、元倉庫だったこの場所にオープンしたばかりですが、バイヤーの中西さんによると「中には1点ものレア商品もあるため、さっそく県外からのお客さんも足を運んでくれています」とのこと。店内いっぱいに並ぶ多彩な商品の中から、あなただけのお気に入りを見つける楽しさを味わえる場所です。


写真、古書店の街の草
外まで積み上がった本の山が目印の「街の草」。山に埋もれて店主が見えない場合は「こんにちはー」と大きな声で呼びかけると、すぐに「は~い」とのんびり優しい声で答えてくれる

 さらに進めば武庫川のまちに馴染み過ぎている古書店「街の草」があります。店主の加納さんはここで古書店を始めて40年、毎日うずたかく積まれた本の山を荷ほどきしながら、まちの移り変わりを見てきた人です。この本の山からお気に入りの一冊を見つけだすのは、宝物を探すような楽しさがありそうです。
 
 加納さんから「ここからちょっと行ったところにコーヒー屋さんができたんよ。良かったら行ってみて」との耳よりな情報を得て、さらに歩きます。


写真、カフェ カームシー
窓越しにコーヒーをテイクアウトするもよし、店内でお話好きな店主・吉川さんとおしゃべりしながら長居するもよし

 すると、市場の通りの奥で静かにたたずむ白壁のカフェが見つかりました。2024年秋にオープンした「calm sea(カームシー)」の店内はビンテージ家具を配したオシャレな内装です。店主の吉川さんによると、「夫が図面を描いてリノベーションし、自宅にしていた物件だった」とのこと。
 今は育児と両立しながら、金曜日と土曜日のみの営業です。本好きな吉川さんは「街の草」の常連さんでもあるようで、店内にはコーヒーを片手に読んでみたくなる本がたくさん並んでいます。


写真、カフェのキッチンに立つ吉川さん
カフェのキッチンに立つ吉川さん。「1階にキッチン、2階がリビングという間取りが小さな子どものいる生活には住みにくくて引っ越しを。ここは近所に魚屋さんも肉屋さんもあって、とっても便利でした」

 平日でも休日でものんびりとした空気感を感じる武庫川エリア。新しいものと古いもののバランスが、そう感じさせるのでしょうか。以前「街の草」の加納さんが武庫川のまちを語っていた言葉を思い出しました。「いつか新しい人が来て、その人が回していけば、また街は回っていくんじゃないかな」

 その“いつか”が今、武庫川ではじまっているのかもしれません。