高校生パティシエNo.1、作品「美しい感謝」に宿る経験とつながり

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写真、メンバーの3人

料理人やパティシエをめざす高校生が学ぶ、育成調理師専門学校の高等課程。卒業時に高等学校卒業資格と調理師免許を取得できる技能連携校です。阪神尼崎駅の近くに校舎を構え、設立から約60年にわたり、食の分野で活躍する人材を育ててきました。

学校での学びを、より高いレベルへと引き上げるため、生徒たちは地域でのイベント出店や校外のコンクールなどにも積極的に挑戦しています。その一つが、2017年から挑戦を続ける「スイーツ甲子園 高校生パティシエNo.1決定戦」。高校生がお菓子づくりの技術とアイデアを競う全国大会です。

同校は初出場時から特別賞を受賞するなど好成績を重ねてきましたが、優勝にはあと一歩届きませんでした。それが、9度目の挑戦となった2025年9月、ついに優勝を果たしたのです。市内、そして県内初となる快挙。成し遂げたのは、小学生の頃にテレビ中継で同大会を観て「いつかこの舞台に立ちたい」と夢見ていた福井せなさんをリーダーとして、小泉瀬名さん、瀬川友梨奈さんの3人で結成されたチーム「Éclat fière(エクラフィエール)」です。

「必ず優勝する」という2年目の覚悟


写真、2年生の瀬川友梨奈さん、3年生の小泉瀬名さん、福井せなさん
左から瀬川友梨奈さん(2年生)、小泉瀬名さん、福井せなさん(ともに3年生)

実は福井さんと小泉さんは、前年の決勝にも出場していました。結果は3位入賞。表彰時に流した“悔し涙”を、周囲から“嬉し涙”と受け取られたことが、もう一度挑戦する原動力になったと言います。

今大会には、全国63校121チームが挑戦しました。予選には24チーム、決勝には6チームだけが進めるという狭き門。チームの条件は、同一校に在学する3人1組であること。同校では毎年、部活動の一つである製菓部から立候補者を募り、校内での選考会を経てチームを結成しています。選考時のポイントは、「技術力に加え、大会への思いの強さやプレゼンする力」と顧問の浅香美妃先生。


写真、製菓部顧問の浅香美妃先生
製菓部顧問の浅香美妃先生。同校が「スイーツ甲子園」に挑戦を始めた当初から、歴代チームを見守ってきた

今年は、全体を見渡して声をかけながらチームをまとめる福井さん、計算や配合、時間配分を論理的に組み立てる小泉さん、手先の器用さと冷静さでチームに落ち着きをもたらす瀬川さんという、異なる強みを持つメンバーが集まりました。

チーム名は日本語で「誇り高い輝き」。「やりきろう。そして、優勝しよう」という覚悟を込めました。

今できる、すべてをやり尽くして


写真、プレゼンボード
プレゼンボード。表面はウェディングケーキ(瀬川さん作)、裏面はケーキの断面図(福井さん作)、台本は小泉さんが担当

今大会のテーマは「ウェディングケーキ」。3人を中心に、製菓部でアイデアを持ち寄り、話し合いを重ねながら構想を練っていきました。

ケーキは4層構成で、土台のクロカンブッシュを主体とし、飴細工やヌガー、チョコレート、マジパンなど、さまざまな菓子要素を取り入れています。構成が複雑になるほど、求められる技術力は高くなり、仕上げまでに多くの時間を要します。それでも「前大会の経験を生かし、かなり攻めた構成にしました」と福井さん。

応募後6月からは、8月の予選、9月の決勝を見据え、「身体が覚えるまでやるしかない」と、とにかく手を動かし続けます。それぞれが担当するパーツの完成度を高めると同時に、制限時間内に仕上げるため、実際の大会と同じ流れで通し練習を何度も重ねました。放課後に加え、夏休みも日曜日以外は1日10時間ほどを練習に費やし、本番までに試作した台数はなんと50台以上。


写真、一つひとつの作業にかかった時間を記録したノート
一つひとつの作業にかかった時間を記録したノート。マジパンでつくるバラの花は、当初10分かかっていたが、最終的には3分で仕上げられるようになったという

決勝1週間前まで悩んだのは、味の決め手となるフランボワーズのジュレでした。炊き方一つで酸味の出方が変わるため、強火で一気に炊く方法や、弱火でじっくりと火を入れる方法を試しながら、15パターンもの試作を重ねました。

そして最後まで立ちはだかったのが、制限時間の壁です。当初は大きく超えることも多く、通し練習のたびに工程や役割を細かく調整。前日の練習で初めて時間内に完成させられたというくらい、ぎりぎりまで調整が続きました。

「努力は報われる」を体感した瞬間


写真、調理室で取材を受けるエクラフィエールの3人の様子

そして迎えた決勝。慣れない会場、有名シェフに見守られながらの張り詰めた雰囲気の中、制限時間は2時間30分以内。終了の3分半前に、パーツが割れるというアクシデントが。それでも3人の動きが止まることはありません。出来上がったのは、なんとわずか30秒前でした。

「『絶対に優勝しよう』とずっと思ってきましたから、誰一人として心は折れませんでした」と福井さん。これまで培ってきた、何が起きても自然とフォローし合う関係性と、積み重ねてきた練習量は裏切りませんでした。


写真、表彰の記念撮影
審査員からのコメントで印象に残っているのは「『チームワークが良かった』とおっしゃっていただいたこと」(小泉さん)、「伝統的で難度の高いヌガー細工を限られた時間内で仕上げた点への評価」(浅香先生)

結果、不二家とのコラボ商品開発権もある「ペコちゃん賞」とのダブル受賞。積み重ねてきた時間とチームワークが、一人ひとりに確かな手応えとして残りました。「『努力は報われる』という言葉に対して、『綺麗事やん』と思っていたんですけど。今回の取り組みを通して、その言葉が腑に落ちました」と小泉さん。

応援してくれる人たちの顔が浮かぶからこそ


写真、同校のエントランスに設置された優勝コーナー
同校のエントランスに設置された優勝コーナー。トロフィーや賞状のほか、寄せられた色紙などが並ぶ

「クラスメイトはもちろん、学校全体、そして地域の方々からも、決勝出場にあたって『頑張って』とたくさん声をかけていただきました」と瀬川さん。製菓部の仲間たちは、計量や下準備を担い、遅い時間まで練習に付き合ってくれたと言います。練習が続いて疲弊する中、場を和ませてくれるムードメーカーの存在も支えになりました。

また、地域の人たちとの関わりも、大きな支えでした。「これまで地域のイベントに声をかけていただき、生徒たちと積極的に参加してきました。パティシエとして働き始めると、どうしてもつくることが中心になりがちです。学校では、こうした取り組みを通して、自分たちがつくったものをお客さんに手渡し、その反応を直接感じられる機会づくりも大切にしています」と浅香先生。


写真、作品について説明する3人の様子
受賞作品をベースに、不二家と共同でスイーツを開発。2026年3月、同社店舗にて期間限定で販売される

尼崎中央商店街のカフェでは月に1度、焼き菓子や生菓子の提供に加え、接客も経験してきました。「決勝前にはプレゼンの練習までさせていただいたんです」と福井さん。浅香先生も「まわりの方々が自然と応援してくださる、そんなアットホームな環境は尼崎ならではかもしれません」と振り返ります。

この学校で学び、このまちの人たちと関わりながら積み重ねてきた時間は、3人それぞれの中で、これからを支える確かなものとして息づいています。

今春就職する2人は、今後について「お客さんに喜んでもらうことを一番大切にしていきたい」(福井さん)、「いろんな人を笑顔にできるようなパティシエになれたら」(小泉さん)と話し、それぞれの場所で思いを込めたスイーツを通して、出会う人たちに幸せを届けていくことでしょう。3年生になる瀬川さんは、「めざせ!2連覇」を目標に、新たな挑戦へと歩み出します。


写真、市長表敬訪問時の様子

写真、ウェディングケーキ3段目のカットケーキ

写真、育成調理師専門学校の外観