みんなの尼崎大学オープンキャンパス vol.44「ちいきいと 寺町純情篇」

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※今回はいつもと雰囲気を変えてちいきいと風にお届けします。

 冬の寒さが徐々に身に染みてくる2024年の師走。阪神尼崎駅から南にすぐの「AMA-NEST(開明庁舎)」で繰り広げられた会があった。その名も「ちいきいと 寺町純情篇」。今回でみんなの尼崎大学オープンキャンパスでの開催も5回目を数える「ちいきいと」の当日の様子をレポートしたい。


司会は前回から引き続き、みんなの尼崎大学の事務局メンバーの若狭さんと梶川さん。今回は開催地が寺町ということで袈裟の衣装を着て登場。それを見て「りんご泥棒みたいだ」という声があったりなかったり。なんでりんご?

 「ちいきいと」は、みんなの尼崎大学オープンキャンパスの企画として年に一度程度の頻度で開催されており、徐々にお馴染み感も出てきている企画だ。これまで尼崎城、ボートレース尼崎、塚口サンサン劇場、旧ユニチカ記念館ときて、今回の寺町での開催になっている。が、そもそも「ちいきいと」ってなんだそれ?というところから説明したい。

 “「ジモト」を愛する強者たちが集結し、写真とトークの応酬で死闘(非暴力!)を繰り広げます。神戸発、地域と地域が互いのプライドをかけてシノギをけずるジモト系非暴力抗争頂上決戦「ちいきいと」。今回は11カ寺が集結する尼崎寺町を舞台に市内各地の「街の顔」が熱戦を。”


会場となった「AMA-NEST」は、てらまちプロジェクトの一環で尼崎信用金庫と阪神電鉄が立ち上げたシェアスペース。この日は阪神電鉄の村上さんがスペースについての説明をしてくださった。声がガラガラな中、ありがとうございました!

 なかなか文章だけで内容を読み解くのは難しいかもしれないが、お題に沿った写真を3人のゲストが「ジモト(関わりの深い地域)」で撮ってきて、それに対してあーだこーだ言い合いながら、まちの理解を楽しく深めるということが趣旨だ。きっと。たぶん。

 今回は、杭瀬・三和・武庫元町というエリアから、3人の、そして全員女性の「ジモト」を愛する強者が集まった。


やる気満々な様子で自らの椅子に座るメンバー。かなり準備をしてきているのだろうか、それぞれのメモ帳やスマホが光っている。

 まずはメンバー紹介。杭瀬からは婚活アイドルというアイドル活動(?)をしているきっしー、三和本通商店街からは「日新天ぷら」という創業76年の天ぷら屋を経営する鶴留朋代さん、武庫元町からは「町のつどいや tata」というレンタルキッチンとシェアスペースを運営する田邊明恵さんが集結。普段の開催よりエリアが限定されている気がするのは、それぞれの街への強い愛着からだろうか。

 また、今回は寺町での開催ということもあって、大覚寺副住職の岡本悠道さんにもお越しいただき、仏教の専門家および寺町をよく知る地元民というお立場からのコメントや解説もいただいた。


このような会にも気さくにきてくださる大覚寺の岡本さん。運営側からするとまさに仏様に思える登場だった。

 出演者の自己紹介では、「みんなの尼崎大学、学生番号35番の鶴留です!」の入りから「おニャン子クラブか!」と司会の若狭さんからすかさず鋭いツッコミが。一方、会場を見ると最前列にはペンライトとうちわを持った参加者の姿も。そう、婚活アイドルきっしーのファンの方だ。

 ふと、その後ろを見ると「あきえ」の名前が入ったうちわを振る集団も。実はこの方たちは、田邊さんの飲み友達だそう。誰一人呼ばず秘密で出場するはずが、友達が勝手に参加。恥ずかしがる田邊さんを尻目にうちわを掲げている。こっちもアイドルか。進行を務める梶川さんの名前が田邊さんと同じ「あきえ」だったこともあり、なぜか会場のボルテージが上がっていく。


アイドルのコンサートばりにうちわがゆらめく。

 今回のお題は、寺町にちなんで「極楽」や「修行」などお寺や仏教にまつわるものを中心に8つ。中には「ご本尊」や「多宝塔」など、難しいワードも。

 水戸黄門のテーマソングと共に流れてきたお題は「山門」。お寺の正式な入り口を意味する山門というキーワードから、どんな写真や答えが出てくるのか?

 まずは、商店街の前で自慢のえび天を持っている鶴留さんの写真から。すぐさま会場から「お店の営業かい!」「商売あかんで!」という声が挙がる。写真を見ると、三匹のえび天が山門の「山」を表している、のかと思いきや、えび天の先には「サンロード」「三和本通」「三和市場」という三つの商店街の入り口が。鶴留さんは語る。


「三つの入り口がある商店街は、世界で唯一(たぶん)三和だけなんです。山門でもあるし、三門でもあるんですよ。だから、この場所は言わばケルベロス(ギリシア神話に登場する犬の怪物で三つの頭を持つ)商店街なんです!三和は世界に打って出ることができるんです!」


熱弁する鶴留さん。語気が強い。

 続いて、杭瀬を代表する婚活アイドルきっしーが魚の写真を示しながら「問題です!サケと一番似ている魚は何でしょう?」と切り出す。


マイクを持つ姿はさすがアイドル。きっしーは会いに行くことができるアイドルとして活動しており、たまに杭瀬の二号店という書店にいるそうだ。要チェケ。

 「マス?」という参加者からの回答はNO。
 山門?さんもん?さーもん?サーモン?いや、さすがにないよね、という会場の期待に応えてかあるいは裏切ってか「サーモン!正解です!!」と勢いよく発表するきっしー。内容に関しては賛否両論あるかと思うが、彼女のすごいところはそのリサーチ力だ。

「お店の伊勢屋さんは伊勢の市場から毎日近鉄の鮮魚列車と阪神電車に乗って魚を持ってきているんです。それも毎日。」

 驚きの情報に「それほんまなん!?」「毎日はすごい!」と盛り上がる会場。こういった情報が街への解像度をググッと上げていく。

次は「信者」というお題。


 tataの田邊さんが繰り出したのはとある新聞記事。実は、田邊さんは30年以上SMAPの大ファンで、チケットのことをお布施、ライブを説法と呼ぶ信者っぷり。SMAP解散のニュースに衝撃を受けた田邊さんは、信者としてお世話になった感謝をなにか形にしたい!と奮い立ち、手書きの署名を集めることに。SNS等でも呼びかけると、あれよあれよとメディアも巻き込むことになり、最終的に1ヶ月半で集まった署名はなんと37万筆!後日、東京の事務所へ持ち込み、受け取ってもらえたという新聞記事を紹介した。


終始、どローカルな武庫元町への愛を語る田邊さん。いろいろあったけれど、と語る彼女からはその地で生きてきたことの凄みのようなものが感じられた。

「いやはや、気持ち悪い信者です、、」

 と自虐的に紹介するも「信者みが強すぎる!」と会場からは大きな笑いと拍手が。今回もさまざまなテーマとそれに対する回答が出た「ちいきいと」だが、筆者が特に印象的だったのは「ご本尊」というテーマに対する鶴留さんの回答。


まさに、ご本尊。背景を知ることで、きっとその店への、その街への愛着が深まっていく。

「元々ウチの店は三代前からはじまっていて。天ぷら屋さんになる前の祖父の代は壺を売っていたんですよね。いや、怪しいやつじゃないですよ。この時代があったからこそ今の天ぷら屋があると思うと、ちょっと邪魔なんですけど、今もお店の一番わかりやすいところに置いてるんですよ。なぜか別の自治体の人が壺をほしいと言ってきたんですが、断りました。日新天ぷらにとって大切なご本尊なんですよ」

 人の思いや歴史に触れることで、街の解像度がだんだんと上がっていく。自分が暮らしたり、関わったりしている街を深く理解するということは、その街で暮らしていた、そして今も暮らしている人たちを知り、愛を持って接するということにほかならない。ちいきいとは、そしてみんなの尼崎大学はこれまでも、そしてこれからも、尼崎の街で生きる人たちの軌跡を追い、奇跡を生み出していく。