尼崎市にある百合学院中学校チアダンス部は、2012年の創部以来、着実に力をつけてきた全国屈指の強豪チームです。今春、アメリカ・フロリダ州で開催された世界大会に日本代表として出場。見事メダルを手にしました。帰国後も休む間もなく、次なる舞台へ向けての練習に励む熱い部活風景を見せてもらいました。
「笑顔でいること」が強さの源
チアダンスは組体操のような「スタンツ」を行うチアリーディングとは異なり、ジャンプ、ターン、複雑なフォーメーションを駆使してチームの息がぴたりと揃った演技ができたとき、はじめて高得点が生まれます。全員がいかに美しく、正確に、そして表情豊かに踊り切れるかを競う競技です。
そんなチアダンスの強豪校が尼崎市にある百合学院中学校のチアダンス部「Lilies」(リリーズ)。今や国内だけにとどまらず、世界の舞台で戦うまでに成長しました。そのチームを創部から支え続けているのが、顧問の大平麻美先生です。
小学生の頃からバレエ、器械体操、創作ダンスと多彩な表現技術を積み重ねてきた大平先生がチアと出会ったのは大学時代。卒業後は就職し一度はチアから離れましたが、離れて初めて気づいたことがありました。
「どんなに辛いときでも笑顔を絶やさないチアの精神が、自分自身をポジティブに保つ力の源だったんです」。その気づきが彼女をチアの世界へ引き戻し、社会人チームに所属、そして子どもたちへのチアの指導も手掛けるようになりました。
そんな頃、チアダンス部創部を検討していた百合学院から、指導者として声をかけられることになります。
8人から始まったLiliesの物語
創部1年目、集まったのは中学1年生の8名と高校生数名。バレエ経験者が何人かいる程度のまっさらなスタートでした。
しかし、時代の波が追い風となりました。日本の高校生チアダンス部が全米制覇した実話から作られた映画やテレビドラマの人気でチアダンスが注目され始めます。また、運動能力や協調性を高めるとされ、子どもたちの習い事としての人気が高まりました。おかげで幼少期からの経験者が次々と入部するようになったのです。今や部員の9割が経験者という精鋭集団です。
中学校でチアダンス部がある学校は関西圏では少なく、大阪南部や京都といった遠方から入学を希望する生徒も。それだけ「Lilies」は求心力を持つチームに育ったのです。
大所帯を支える充実した練習環境
現在の部員総数は中学校と高等学校を合わせて80名超。毎回、中学生と高校生の部員全員で基礎練習からスタートします。筋トレ、バレエレッスンを1時間しっかり取り組み体の土台を鍛えた後は、上級生が組み立てたメニューへ。自分たちで考え、仲間を動かす——その経験が、チームとしての自立心と責任感を育ててきました。
「それぞれ自分のタイミングで回ってるから、いつまでたっても全員が揃わないよ」、「猫背になってる。プリエの後はしっかりアップの位置をキープ」と練習中、大平先生の鋭い言葉が体育館に響きます。細部の積み重ねこそが、チームの精度を上げるのです。
百合学院は幼小中高一貫校で同じ敷地内にあります。冷暖房完備のアリーナとともに小学校の体育館や他にも屋内練習場が複数あり、私立校ならではの設備も強みです。また、卒業生を大学生コーチとして迎え、後輩の指導にあたる頼もしい仕組みも。年齢の近い先輩だからこそ競技以外の悩みも相談しやすく、多感な部員たちの心を支えてくれています。
日本一から更なる高みへ世界大会への挑戦
毎年3月に行われる全国選手権大会(USA School&Nationals)では、2021年から6連覇を達成。結果を残せるチームになった一方で、部員たちの中には「勝たなければならない」「1位でなければ喜べない」という思いが強くなり、結果ばかりに目が向いてしまう場面が見られるようになりました。大好きで始めたはずのチアダンスが苦しく感じたり、自分自身を見失いそうになったりする部員もいました。
そんな部員たちの苦しみを感じた大平先生は、これまでとは違う価値観に触れ、さらなる高みに挑戦し、自分たちの本当の実力を知る経験が必要だと考えました。そこで「2025年度は世界大会を目指す」と、大平先生は大きな目標を掲げることにしたのです。
「世界大会を目指す」という大きな目標を立て視点を変えることが、悩みの中にあった部員たちを奮起させることになります。国内大会を勝ち進んだ「Lilies」は日本代表選考会への切符を手にし、見事、中学生日本代表として選出されたのです。
涙からメダル獲得へ――世界で刻んだ0.0714点差
そして迎えた2026年4月、アメリカ・フロリダ州オーランドで開催された「ICU世界ジュニアチアリーディング選手権大会」。世界54の国・地域が参加する最高峰の舞台に、百合学院「Lilies」は中学生18名・高校生1名の計19名で「Youth Pom」部門(11カ国エントリー)に挑みました。
(「チアダンス」は世界大会においては種別名として「パフォーマンスチア」と呼ばれます)
初戦、大きな緊張とプレッシャーの中、チームとして気持ちを一つにしきれずミスを連発。演技後には悔しさから号泣する部員の姿もありました。しかし結果を見れば、1位アメリカとの差はわずか0.5点。「まだ逆転できる」その事実を知った瞬間、部員たちの表情は一変し、チームに再び火がつきました。
そしてファイナル。「Lilies」は大舞台でも臆することなく持てる力を出し切りました。アメリカのダイナミックさには及ばずとも、世界の審判が高く評価したのは「Lilies」のシンクロ性と均一なフォーメーションの美しさでした。まさにこのチームならではの強みが銀メダルを引き寄せたのです。1位アメリカ、2位日本、3位メキシコ。1位との点差はわずか0.0714点でした。
チアから広がる世界へ羽ばたけ
表彰式では他国の選手や観客から「おめでとう!」と大きな拍手が送られました。副キャプテンを務めた中学3年生の丸田心響(ここね)さんは「他のチームの皆さんが一緒に踊った仲間としてエールを送りたたえあう姿に感動し、スポーツのすばらしさを改めて実感しました」——この言葉が、世界への挑戦の意味をすべて物語っています。
「勝つことがすべてじゃない、そんなスポーツマンシップを世界の選手との交流から部員たちはしっかり感じたようです」と、大平先生もチームの成長を感じています。
厳しい練習、世界を舞台にした戦い、仲間との涙と笑顔——百合学院チアダンス部には、中高生たちが夢中になれるすべてが詰まっています。部員たちの個性を見つめながら寄り添う大平先生の指導のもと、“笑顔”を力に変え、世界に挑んだ彼女たちの青春は、また次の舞台に向かって今日も続いています。