テントを持って山、川、キャンプへ。JR尼崎駅前からアウトドアへようこそ

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店内で山登り用のストックを持って笑う店主の糸田川さん

関西屈指のアクセスのよさを誇るJR尼崎駅。そこから北へ歩いて5分の場所に、アウトドア好きをうならせるお店があるといいます。欲しいものはネットで手に入る時代に、「イトさんから買いたい」と遠方からもファンが通うアウトドア用品専門ショップ「FratelliIT(フラテッリイト)」を訪ねました。


写真、棚にぎっしりと詰め込まれて陳列されたアウトドアギアの数々
棚にぎっしりと詰め込まれて陳列されたアウトドアギアの数々。よく見ると棚の側面には栄養ドリンクの商品名が。

キリンビールが香るダウンタウン・潮江で育った

オープンは2020年12月。まさにコロナ禍が始まったその時に、糸田川達三さんがお店を開いた場所は、実家の薬局跡でした。「近所の団地で育ち、小学校入学を機にこのビルの3階に引っ越してきました。だから潮江はまさに地元ですね」。

「子どもの頃はキリンビールの大きな工場があったんですよ。毎年のキリンまつりはジュースをただでもらえるのが楽しみで、何本ももらいに行ってましたね」と当時を振り返ります。潮小学校の学芸会で友達と漫才をし、アーケードのある商店街やビール工場のホップが香る路地裏で遊び回る、まさにダウンタウンな思い出を語ってくれました。


写真、店内で思い出話をする店主の糸田川さん
子どもの頃の古き良き尼崎の思い出を話してくれた糸田川さん。

中学高校では、囲碁将棋同好会、グリークラブ、人文科学研究部、剣道部の幽霊部員など、自らの好奇心に正直に部活を渡り歩きました。「昔から“広く浅く”が自分には合っているんですよ」という糸田川さん。

イタリア料理の世界から実家の薬局へ

高校卒業後は「料理人なら“食べていける”」と調理師専門学校へ。「自宅で桂むきを練習したり家族にもその腕をふるったり、料理がとにかく楽しかったんです」と卒業後は、大阪心斎橋のイタリアンレストランに就職しました。前菜からメイン、ホール係までをこなす料理人として10年勤めたのち、結婚。子どもの成長を見守るために働き方を見直し、実家の薬局を手伝うことになりました。

「両親が昔ながらの薬局を営んでいたんです。地元のおばあちゃんたちに化粧品を売ったりしているうちに、輸入雑貨の販売にも興味が湧いてきて」と柔軟剤やハンモックなどをお店に並べ、オンラインショップにも力を入れるようになりました。そんな中、のめり込んだのがアウトドアグッズの世界。「当時子どもとキャンプとかにも行くようになって」と実際に糸田川さんが使ってよかったと思った商品を仕入れるようになりました。


写真、30歳前後から子どもたちとのキャンプでさらにのめり込んだと語る
子どもの頃から家族でキャンプに親しんでいた糸田川さん。30歳前後から子どもたちとのキャンプでさらにのめり込んだそう。

“趣味の延長”が夕方だけのガレージショップへ

お店の隣にあったガレージの階段に棚を手作りして、寝袋やマット、バーナーなど200アイテムを並べて、薬局閉店後の16時から20時までだけ開く“ガレージショップ”を2019年に始めました。「最初は完全に趣味の延長です。自分が欲しいものを探して、これ売れるんちゃうかなと思って置いてみたら、買いに来る人がいたんです」と手応えを感じた糸田川さん。


フラテッリイト公式インスタグラムの写真 店の外観
壁と階段を駆使した完全に手作りのガレージショップ。写真はFratelliITのInstagramから。

このガレージ店を経て、翌2020年には薬局を全面改装し「FratelliIT(フラテッリイト)」として本格オープンを果たしました。天井を塗り、壁に板を張り、薬局時代の棚も塗り替えて再利用しました。兄弟という意味のイタリア語「フラテッリ」に糸田川の「イト」。祖父から建物を引き継いだ父たち兄弟が守った家の物語と、イタリア料理の世界にいた自分の歩みを店名に込めたのでした。


写真、店内には約5000点の商品がぎっしり
アウトドア好きをうならせる商品約5000点が店内にぎっしり。使い方を想像しながらお店を回ると脳内アウトドア体験ができる。

お店でのおしゃべりから商品が生まれることも

お店に並ぶ道具のほとんどは、糸田川さんが自ら使って納得したものばかり。「僕は説明が得意じゃないんですよ。だからこそ、自分で実際に使って納得できないとそのよさをうまく説明できないから」と商品への情熱を語ってくれます。

ときには1時間話して、売れるのは500円の商品一つということも。効率だけ考えればネット販売の方が楽かもしれません。それでも店で話すことを大切にしている糸田川さんの人柄にひかれ、姫路、和歌山、広島、出張帰りの人まで、遠方からも客が訪れます。

最近は、市内外のものづくり企業や職人とつながり、共にオリジナル商品を作るようになりました。道具を売るだけでなく、使う人の声と作る人の技術をつなぐ場所にもなっています。


写真、尼崎の家具職人と鉄工所と共同で開発したスパイスボックス
尼崎の家具職人と鉄工所と共同で開発したスパイスボックス。一点ずつ丁寧に加工した一枚板の蓋のフィッティングにこだわりが光る。

尼崎からアウトドアに連れてって

山のないフラットな地形の尼崎ですが、六甲山へのアクセスもよく、車を少し走らせればキャンプ場や川もあります。糸田川さんは、尼崎に暮らす人にとってアウトドアは決して遠いものではないと言います。「最近は転勤で尼崎に来た人が、近くで遊べる場所はないですか、キャンプ場はないですか、と聞きに来られることも多いんです」

月に一度ほど、お客さんと一緒に外へ出る「朝活」も行っています。買った道具を使う機会をつくり、火を起こし、湯を沸かし、外で過ごす楽しさを共有する時間です。


写真、近所の公園撮影 折り畳みの椅子があればどこでもアウトドアになる
天気が良かったのでご近所の公園へちょっと散歩。折り畳みの椅子があればどこでもアウトドアになる。

これからやってみたいことを尋ねると、糸田川さんは「学校でテント泊をしてみたい」と話してくれました。遠くのキャンプ場へ行かなくても、校庭にテントを張り、暗さや外で眠る感覚を楽しみながら体験する。災害時にも役立つけれど、まずは怖さではなく楽しさを知ってほしいと考えています。

「外で泊まるって、慣れていない人には結構怖いことなんです。でも、それをトラウマではなく、楽しい体験として過ごせたらいいなと思っています」。薬局の名残を残す小さな店から、尼崎の人たちを外へ連れ出す。今日もFratelliIT(フラテッリイト)では、道具の話から遊びの話へ、そしてまちの話へと、会話がゆっくり広がっています。

プロフィール
いとたがわ・たつぞう 1974年、尼崎市生まれ。JR尼崎駅北側の潮江で育つ。調理師学校を経て、心斎橋のイタリア料理店に約10年勤務。その後、家業の薬局を手伝いながらネット販売やアウトドア用品の取り扱いを始める。2019年ごろに階段スペースでガレージショップを開始し、2020年12月、アウトドア用品専門ショップ「FratelliIT(フラテッリイト)」を本格オープン。